4月8日

EPICソニー名曲列伝:TM NETWORK「Get Wild」小室哲哉をブレイクさせた狭い音域の妙

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EPICソニー名曲列伝vol.17
TM NETWORK『Get Wild』
作詞:小室みつ子
作曲:小室哲哉
編曲:小室哲哉
発売:87年4月8日

TM NETWORK の初ヒット!小室系サウンド最初の一歩は「Get Wild」


いよいよこの連載「EPICソニー名曲列伝」も、小室哲哉という連載後半の顔役を迎える。小室率いる TM NETWORK の初ヒットにして、90年代にかけての栄華をほしいままにする「小室系」の最初の一歩でもある。

この曲を発売するまでの小室哲哉は鬱屈(うっくつ)していたようだ。前年の渡辺美里『My Revolution』という、作曲家としての初ヒットはあったものの、TM NETWORK 名義でのシングル売上は、ヒットには程遠かったからだ。

小室哲哉著『罪と音楽』(幻冬舎)によれば、当時について「あの頃の TM は鳴かず飛ばずだった」「86年末、僕の中では『次のシングルが事実上のラストチャンスだ』と捉えていた」と書いているくらいだから、かなり切羽詰まっている。

「Self Control」から見えた光明、アニメ「シティーハンター」のタイアップで一気に開花


光明が見えたのが『Get Wild』の前作シングルの『Self Control』(87年)。売上は3.9万枚と食い足りないが、それでもその特異なメロディは、ラジオなどで当時かなり流れたはずである。そして満を持してのこの曲のリリース。

日本テレビ系アニメ『シティーハンター』のタイアップが付いたことも大きな追い風となった。23.1万枚のヒット。同じく『罪と音楽』における「TMはついにラストチャンスをものにすることができた」「ついにブレイクしたのだ」という書きっぷりからは、当時の小室哲哉青年が小躍りするさまが伝わってくる。

小室哲哉のヒット曲作りの奥義、循環コード進行、歌詞詰め込み唱法、転調


ここで『My Revolution』と『Get Wild』を比較分析する。もちろん同一作者なので共通項も多いのだが、大きな差異もある。その共通項と差異こそが、小室哲哉が苦闘の中で得たヒット曲作りの奥義であり、それはすなわち、小室が90年代の音楽シーンを制する強力な武器となっていくものなのだ。

まず共通項の1つは循環コード進行。『My Revolution』は
【Fmaj7】→【GonF】→【Em7】→【Am7】
(キーBをCに移調)という私命名「後ろ髪コード進行」をひたすら繰り返す(詳しくは過去のコラム「EPICソニー名曲列伝:渡辺美里「My Revolution」エピック黄金時代がやって来た!」参照のこと)。対して『Get Wild』のサビは
【Am】→【F】→【G】→【C】
(キーG#mをAmに移調)を繰り返す。

これはマキタスポーツ氏が「ドラマティックマイナー」と命名した進行で、俗に「小室哲哉進行」とも言われるもの。【Am】で暗く始まり、少しずつ夜が明けて、最後の【C】で明るい達成感(安堵感)が訪れるという感じの、非常に “エモい” 進行である。

また佐野元春風「歌詞詰め込み唱法」も共通項である。『My Revolution』の「♪《非常》階段 《急》ぐくつ音」の《 》内のように16分音符で歌詞を詰め込んだ符割りのことで、『Get Wild』も、歌い出しでいきなり「♪《アス》ファルト《タイ》ヤを切りつけながら」と、2回も詰め込んでいる。

さらにもちろん、キラキラとしたシンセによる打ち込みサウンドが全編を覆っているのも、『My Revolution』と『Get Wild』の共通項であることは言うまでもない。小室哲哉一流の転調も共通だ(『My Revolution』:B→G#、『Get Wild』:Bm→G#m)。

小室哲哉のヒット曲作りの奥義、狭い音域での繰り返しフレーズ


と、色々と共通項の多い2曲だが、大きな違いもある。それは「音域」の点である。少しばかり専門的な話となって恐縮だが、『My Revolution』に比べて『Get Wild』はメロディの音域が狭いのだ。

具体的に図で示してみる。まず『My Revolution』の歌い出しの簡易楽譜。高い音から低い音へ、1オクターブ分、転がり落ちるように流れていくのが分かる。



対して『Get Wild』のサビ。こちらはドからファのたった4度の中にすべて収まっている。そのファもたった1回出て来るだけなので、基本的にドとレとミの3音 / 3度の幅の中にスポッと収まっている。



参考までに、『My Revolution』(黒)と『Get Wild』(赤)の簡易楽譜を重ね合わせるとこうなる。



小室哲哉躍進の礎「狭い音域での繰り返しフレーズ」、trf「EZ DO DANCE」でさらに狭く


基本的にドとレとミの3音 / 3度の幅に、サビのメロディが収まる曲などそうそう無い。そんな狭いメロディが何度も何度も繰り返されることで、大げさに言えば、念仏を聴き続けるときのような一種のトランス効果を、聴き手に与えることになる。

実は、前作の『Self Control』のサビで繰り返される
♪ Self Control 今までのぼくは
=レー・レー・レミ・ッド・レレ・レレ・レミ・ード
もド・レ・ミの3音 / 3度の中で出来ていて、この曲あたりで小室哲哉は「狭い音域での繰り返しフレーズ」という鉱脈を見出したのだろう。

それが行き着くところまで行き着くのが、trf『EZ DO DANCE』の
♪ EZ DO DANCE  EZ DO DANCE 踊る君を見てる
=ドッ・ドッレ・レ・レッ・レッド・ド・ドド・ーレ・レド・レレ・ード・ド
という、ドとレのたった2音 / 2度に収まる「超狭サビ」である。

この音域の狭さこそが、『My Revolution』と『Get Wild』の音楽的差異であり、小室哲哉が苦闘の中で得たヒット曲作りの奥義の1つだったのだ。

狭い音域という武器も手に入れて、いよいよ小室哲哉が、90年代の世にはばかる。音域を狭く狭くすることで、広い広い市場に飛び出していく。若き小室哲哉にとって『Get Wild』は「Get Narrow, Get Large」な曲だった――。

追記:
私も連載をしている東京スポーツ紙(11月22日号)で、マーティ・フリードマンが、オフコース『言葉にできない』(82年)をこう評していて、面白かった――「このイントロは小室哲哉さんを思い出します。メロディーは『GET WILD』と同じ。ボーカルが入ってから急に転調するのも小室さんを思い出します」。


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

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etc…

2019.11.30
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