6月27日

時間という癒やしを経て気づくこと ー 沢田知可子「会いたい」

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photo:Discogs  

横浜駅近くのドーナツ屋。ここはドリンクだけでも長居ができた。大きな丸テーブルが2つあり、20人くらいが集うことができる。高校の頃、友人たちの間で暗黙の集合場所になっていた。

放課後、暇な人はふらりと立ち寄る。徐々にメンバーが増え、他愛のない話で笑い、気が向けば夜まで一緒だった。この関係は大学でも、さらには、社会人になっても、場所や時間の制約ができたものの、この習慣が抜けないまま私たちは30歳も半ばに差し掛かろうとしていた。

今週もまたいつものように集い、二次会ではカラオケに流れた。アップテンポの曲が続いていたが、女性の歌を得意とする甘い歌声を持つ坂井くんが、スローな昔の曲を歌い始めた。すると、その場の空気がガラリと変わり、全員がモニターに映る歌詞を目で追った。


 低い雲を広げた 冬の夜
 あなた 夢のように
 死んでしまったの
 今年も海へ行くって
 いっぱい 映画も観るって
 約束したじゃない
 あなた 約束したじゃない
 会いたい…


沢田知可子の4枚目のアルバム『I miss you』(1990年6月27日発売)に収録された曲、「会いたい」。突然この世を去った恋人への想いと悲しみが詰まった歌詞で綴られている。沢田知可子の作詞ではないが、彼女自身、歌手になることを決意したときに、「俺が最初のファンになってやるよ」と言ってくれた先輩を交通事故で亡くしており、この歌詞を渡されたときに運命的なものを感じたと語っている。

これほどダイレクトに一生の別れの悲しさを伝える歌詞があるだろうか。否応なしに10年前に突然この世を去った同級生との思い出が蘇る。友人たちもまた、同じ人のことを思い出していた。

野球部のキャプテンで生徒会長の玉木くん。賢くて、明るく、面倒見の良い彼は学年全体から人気があった。

私が熟語の暗記に苦戦していたときのこと。気付くと私の席の目の前に彼が立っていた。「ただ書くよりも口に出した方が覚えられるよ」と言い、「ちょっと貸して」と私の熟語帳を取り、質問項目を読み上げ、覚えるまで何時間もつきあってくれたことがあった。そして、試験の結果が出るとふらりと現れ、「(志望校に対し)このくらいあると安心だよ」と、偏差値票をもとにさらりとアドバイス。まるで頼れるチューターだ。

こんな風に、彼は誰に対しても相手の立場に立った気配りができる人だった。

玉木くんの自宅は私の家を通り過ぎた坂の上にあり、卒業してからもバッタリ会うことが多かった。25歳の年末、帰りの電車の中で一緒になり、駅前のお好み焼屋に立ち寄った。その時初めて、付き合っている彼女に赤ちゃんができたこと、年明け早々に結婚することを聞いた。

揺るぎない決意。昔からこの人は精神的にとても大人だ。若くして人生に責任を持つその姿は、友人たちの結婚観に少なからず影響を与えるだろう。

しかし、少し思いつめたような顔をした。少しの沈黙があり、言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。「彼女はとても嫉妬深いので今までみたいにみんなと会うことは許されないかも…」と。新しい生活への期待と喜びの反面、少し寂しそうに見えた。

帰り道、思い出を語り合いながら歩いた。「新しい生活が落ち着いたら、また皆で集まろうね。」曖昧な約束をして別れた。それが最後の別れになるとも知らずに…。

翌年の夏、仕事中に友人からの電話が鳴った。「玉木が仕事中に事故に遭い、亡くなった」と。耳を疑った。信じられなかった。彼が与えてくれたたくさんの言葉とその情景が走馬灯のように駆け巡る。

身体の奥から涙が溢れる。同時に、残された家族のことが心配になった。彼は父親になったばかりだ。子どもの成長をとても愉しみにしていたはずだ。彼はどんな想いでこの世を去ったのだろう…。

なぜこんなに若く、なぜこのタイミングに亡くならなければならないのか。憤りを覚え、慨嘆する。きっと友人たちも同じ気持ちだ。私たちは心の中に悲しみを仕舞い込み、以降彼の死について口にすることはなかった。

そして今日、封印が解かれ、彼との思い出と感謝が溢れ出した。10年という月日は私たちの心を癒し、それぞれの思い出から様々な “気づき” があり、皆が深い感謝の念を抱いていた。

私たちは学んだ。人の記憶に残るのは、何を成したかではない。 “何を与えたか” なのだと。私利私欲を満たすための行動は相手の心に残らない。

相手のためになるようにサポートすることは難しい。すべてを伝えてしまったのでは意味がなくなってしまうことがある。そういう時は見守り、「時間」という贈物で包み込む。すぐに望む結果が得られずに相手がいぶかるかもしれないし、相手が変わらないことに自分自身がストレスを抱えるかもしれない。

しかし、ストレスは不調和だ。ストレスを抱えない心のケアが必要になる。

相手をサポートするということは、自分自身が学ばせて頂くことなのかもしれない。サポートされることによって「気づき」が起こり、サポートすることで自分自身が「成長」する。

それには、「この瞬間、相手に何を投げかけているか」を気に掛けることが、大きなヒントになるだろう。



歌詞引用:
沢田知可子 / 会いたい


2018.03.28
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