2024年 4月3日

【澤田知可子インタビュー】ミリオンシンガーの苦悩!全てが吹っ切れた由紀さおりの言葉

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澤田知可子インタビュー(前編)

“泣き歌の女王” 澤田知可子。1990年にリリースした「会いたい」はミリオンセラーを記録し、翌年の『NHK紅白歌合戦』に出場。恋人を亡くした悲しみを歌ったこの曲は、聴き手ひとりひとりを物語の中の主人公にさせ、今も語り継がれている。しかし、「会いたい」のヒットは、澤田の中で様々な葛藤を生むことになる。

あれから34年、今も澤田は歌い続ける。そして今年の4月3日、満を持してリリースされた『澤田知可子〜うたぐすりBest Selection〜』は「会いたい」をはじめ、澤田知可子ヒストリーを彩る本人セレクトの全31曲を収録。「歌は心の薬」と言う澤田が、いま歌を通じて伝えたいことは? 澤田の人生そのものとも言える歌への向き合い方、心の処方箋とも言える “泣き歌” の魅力など、紆余曲折、試行錯誤の後、たどり着いた澤田の境地とは?

インタビューはリラックスした雰囲気の中、雑談のように始まった。

この瞬間、この瞬間で一番の「会いたい」を届けたい


澤田知可子(以下:澤田):今の歌って、1曲の中に詰め込まれている言葉の数がすごいですよね。今の人たちって、これだけの情報量の歌詞を覚えて歌っているということを尊敬します。

―― 澤田さんのアルバムを聴いて思ったのですが、たとえば「会いたい」のたった4文字にいろんな感情が入っている。逆にそこが一番すごいと感じました。この部分が一番心に引っかかりました。そこが普遍性なのかなと。今回新曲として収録されている「遠く」とか、「幸せは許してくれる」とかにも、それはより強く感じています。

澤田:ボーカリストとして、これまでのキャリアの中で、今が一番上手に歌えていると思っていて、自分の表現したい歌をちゃんとつかめているのかなという感じがしています。それはテクニックということではないんです。表現者、ボーカリスト澤田知可子として、20代の時に “これが正しい” と思って歌っていたものは、まだまだ未熟だったというか…。だから人生って “伸びしろ” なんだと思って。自分の歌に対するアプローチの仕方が成長してきますよね。生きてきた自分の年輪と、表現したい自分のイメージがグッと近づいてきたという感じです。

―― 人生経験の中で、歌の解釈も変わってくるわけですよね。

澤田:変わってきたと思います。頭で考えるよりも、その時々の空気というか、空気の中で出来上がっていくような気もします。

―― 今回のアルバムには、そういう生き方が表れている感じがしました。

澤田:そうですね。おかげさまで、ずっとコンサートをやってきて、平均すると年間で50〜60本ぐらいですね。いろんな形態のステージですが、歌っていく中で、たとえば50人、60人のお客さんの前でも、1,000人の前でも変わらない自分のテンションというのがあって、そんな中で、常に同じ歌を歌っているわけではなくて、「会いたい」にしても成長しながらも飽きさせないという部分を意識していた気がします。新鮮な気持ちで。毎回、この瞬間、この瞬間で、一番の「会いたい」を届けたい。それが自分の中のバロメーターになっています。

「会いたい」は恋の歌ですが、この年齢で表現したいのは、恋の歌から、“生きる” “人生” というテーマになっていきます。だけど、今回収録されている新曲「遠く」もあえて、恋の終わりの歌なんですよね。「この年になってまた恋の歌を歌わせてもらえるんだ」というか、「作詞家はこれを私に求めるんだ」と思ったら、嬉しくなってね。今さらではなく、今だから恋の歌を歌えるんだと。

ーー 「遠く」は、そんな恋の歌ですね。

澤田:「遠く」は作曲していただいた中崎英也さんと会って「澤田さん、どんな歌がいい?」って訊かれた時に、私はもう一貫して変わらずに「泣かせてください」と。そういうメロディーがいいと。それで「僕にちょっと預けてください」と。歌詞も中崎さんのお弟子さん(谷藤律子)に書いてもらいました。「会いたい」の時もそうなんですが、基本は “まな板の鯉” というか、自分はいかようにも料理されます、という状態で構えていたら、この歌が届きました。「あっ、恋の歌だ」と思って。これは、今の私たちの世代に投げたいと思って。もちろん、私たちの年代だけではなく、若い人たちにもどう響いてくれるのかな? という期待もありました。

写真:西村彩子


コンサート会場で一番のクライマックスに聴く「会いたい」


ーー 今だからこその恋の歌である「遠く」であったり、先ほどの「この瞬間で一番の “会いたい” を届けたい」という話を聞いて、人生経験の中で歌の解釈も変わってくるのではないかと感じました。

澤田:そうですね。変わってきたと思います。頭で考えるより、その時々の “空気” っていうか、その中で作られていくような気がします。私の中の解釈だけではなく、聴いてくださる人たちの思いによって変わっていく。コンサート会場で一番のクライマックスに聴く「会いたい」というのは、段々と会場があたたまって、お膳立てができているわけだから、「はい!待ってました!ここでどうぞ!」ってくる「会いたい」は、格別ですね。

私は、ずっとバスケットをやっていたのですが、スポーツにたとえると、決して練習試合では出せない、公式戦でしか出せないアドレナリンがコンサートでは出ているんです。クライマックスで歌う「会いたい」は、瞬間的に自分の期待以上のものがあります。それは、瞬間芸術みたいな部分があって、2度と歌えない「会いたい」がそこにある気がします。そんなライブが、自分の中で “生きている” という気がしますね。

ーー 真剣勝負で、そこで自分の人生の全てを出してしまうということですよね。

澤田:そうですね。でも、いつも出しきれずに、心残りがあるのはテレビですね(笑)

―― というと?

澤田:たった1曲のために準備を重ねてそこに向かう人たちっていうのは、すごいなと思って。テレビってその瞬間に100%を出さなくてはいけないわけですから。私はその時に失敗するタイプですね(笑)『紅白歌合戦』なんですけど、あの “紅白” の舞台で歌詞を間違えたし、生放送のここ一番の時にやってしまうんです(笑)

―― テレビ出演と違い、コンサートはオープニングから自分を高めていく感じがありますよね。お客さんと向き合いながらお互いを高めていくような。

澤田:良い意味でお客さんを読むというか、その空気を読みながら進めていく感じはたまらなく好きです。

メロディよりもサウンドよりも絶対的に “言葉”


―― 逆にレコーディングはどうですか?

澤田:レコーディングは、コンサートとは全然違う作業ですね。とても神経を使うというか…。CDは、たったひとりの人が聴いてくださるシーンをイメージして、より気を配りながら細かく。自分がライブで “うわぁー” って歌っているのとは真逆です。冷静な中での表現ということで、それは研ぎ澄まされた世界ですね。

ーー その研ぎ澄まされた世界の中で、澤田さんが最も気を配っているのはどんな部分ですか?

澤田:コンサートでもそうですが、特にレコーディングでは “カタリベ” であるという、歌のカタリベという部分が自分の中にあります。“この歌をこうやって語っていこう” という読み聞かせのような感じですね。実は、このグルーヴが気持ちいい!っていう気持ちは全然なくて、私の中では、メロディよりもサウンドよりも絶対的に “言葉” なんですよね。歌詞の世界をこう伝えたい、という部分に自分の重きがありますね。

なので、ニュアンスで言葉を濁すというのは一切できないし、カバーをするにしても、新曲を歌うにしても、少しここを崩そうかなとか、一切なく、この歌の一番美しいメロディと、乗せ方に神経を使います。

―― 澤田さんの歌は物語性のあるものが多いですよね。

澤田:言葉を一番大切にしているところがあるので、ピアノ1台だけでも十分に伝わるように気を配っています。コンサートでは、主人(小野澤篤 / ピアニスト)がピアノを弾くのですが、余計な音を極力省いて、より物語の主人公になってもらえるような、歌の読み聞かせ的なライブ感を大切にしています。ただ、私はミュージカルも大好きなので、グッと押したい部分もあるわけです。聴き手の心を揺さぶりたい時は、ミュージカル的に表情をトゥ・マッチにしたりだとか、これはライブの醍醐味ですね。

ーー お客さんひとりひとりの心にしっかり届くということですね。これはレコーディングでもライブでもすごく重要なことだと思います。

澤田:そうですね。自分が聴いて飽きない、何度も聴きたくなる、朝の連続テレビ小説みたいなもので、毎日聴いても飽きない、毎日聴きたくなるような…。薄味でもない、ちょうどいいテイストの歌でありたいな、と思っています。

写真:近藤宏一


―― 澤田さんの曲は旋律も美しいから、BGM的な感じなのかなと思ってましたけど、全然そうではないんですよね。

澤田:ありがとうございます。すごい褒め言葉として受け止めます。

―― やはり言葉を聴き入ってしまいます。たとえば、ジャズやボサノヴァのインストゥルメンタルを癒し効果として聴く人って多いと思うのですが、澤田さんの歌は、そうならない…。そこが一番の魅力だと思います。

澤田:嬉しいです。私は言葉を伝える歌手でありたい、というのを大事にしてきたので。なので、そこだけは自分らしさというか、”澤田知可子って何?” って訊かれた時に、歌詞を、物語をちゃんと伝えたいという気持ちがいつもあります。私は、こういうサウンドでないと、というこだわりはなくて。そこは逆にミーハーで、ラテンにもいきたいし、ジャズにもいきたいし、クラシックにもいきたい。いろいろなミュージシャンとやりたい。サウンド的には “幕の内弁当” 的なものが好きですね。ただ、自分の中で、一貫してこの言葉を使いたいという揺るぎない信念があります。

―― 確かにボーカルありきのサウンドですよね。

澤田:バンドにはなれない感じですね(笑)

―― それが魅力だと思います。一緒にやられているミュージシャンの方々も澤田さんのそういう意志、スタイルがわかっている人たちが集まっているんだと思います。

澤田:編成ってコンサートでも毎回違いますが、そのミュージシャンたちの音のニュアンスの中で、自分も歌も変わっていきます。そこに染まってみたいというか…。そこに染まりながらも、自分が伝えたい言葉は変わらないというか。

沢ちひろさんのようなドラマを書ける作詞をしてみたいと切磋琢磨していた20代


―― 今、表現の話になりましたが、澤田さんといえば、沢ちひろさんや松井五郎さんという作詞家のオリジナルソングを歌う場合もあれば、ご自身が作詞・作曲した歌や、カバーソングを歌う場合もある。その辺の棲み分けはありますか?

澤田:自然と分かれていくところもありますが、沢ちひろさんの歌詞の世界が、一番澤田知可子なんですよね。澤田知可子という歌手を作ってくれたのは、沢ちひろさんが作った女性像の世界なので。

―― そこからご自身の葛藤もあったと思います。

澤田:沢さんに関しては、本当にお見事!というぐらい、毎回目から鱗で、毎回歌詞をもらうたびに脱帽していて、私が彼女の一番のファンでした。ずっと沢さんの歌詞でやっていきたいな、と思いながらも、自分の歌詞で、彼女の横に並んでみたいというような気持ちも確かにありました。特に20代の頃は、沢さんのようなドラマを書ける作詞をしてみたいというところで切磋琢磨していました。

当時はプロ中のプロと言える松井五郎先生の “お見事!” と言える作品も歌いながら、演者に徹していました。でも自分が書く、自分の人生の中だからこそ生まれるドラマも表現したい。だけど、そこには私情が挟まってしまう。その部分で気持ちが込み上げてしまうところがあったのかもしれませんね。

―― ご自身で書いた歌詞は、自分の身を削って出しているところもあると思います。そういうところで、表現者として歌詞の世界をベストな形で出さなくてはならないと。

澤田:自分の歌詞は、自分の産んだ我が子、みたいな部分があって。だから自分の作品は人生を歌っている。そんな違いはありますよね。ただ、シンガーソングライターである自分よりも“歌手・澤田知可子” の方に評価が高かった分、いろいろな人の歌を歌いましょう、という流れがありました。そこで歌ってきて、その同じテーブルの上に自分の作品も置いていただく。そこで沢さんの作品でもない、私の作品でもない、色を入れていきたい部分も大事にアルバムを作ってきました。そこで松井五郎先生をはじめとする作詞家の方にいろいろな女性像を出してもらいました。

​​全てが吹っ切れた由紀さおりの言葉とは?


―― その女性像を澤田さんが “カタリベ” として完全に出すということだけではなく、シンガーソングライターとしての自分を打ち出したいという気持ちがありましたか?

澤田:このことについては、ずっと葛藤がありました。「私は何者なのなか?」みたいな。自分の曲だけを歌いたいというわけでもない自分がいて、でも自分の曲を歌いたい自分もいて…。ずっと自分と戦っていました。でもそんな時、ラジオのゲストに来ていただいた由紀さおりさんに「澤田さん、シンガーソングライターがアーティストだと思ったら大間違いよ。歌手でもっとアーティスティックになりなさい、人の曲をもっと歌ってあげなさい」と言われて、そこで吹っ切れました。

―― シンガーソングライターの中には “人の曲は歌いたくない” という人もいますよね。そういうところと比べると、「会いたい」のように、毎回違うベストの「会いたい」を出せる澤田さんのようなシンガーは貴重な存在だと思います。

澤田:由紀さんからは「胸を張りなさい!自信を持ちなさい!シンガーソングライターにこだわらなくていい、素晴らしい歌を歌っていかなくては作家が死ぬのよ」って言われたんですね。「ボーカリストであることに価値があるのよ!」とも言ってくれて…。そこで全てが吹っ切れました。

―― それはいつぐらいの話ですか?

澤田:それは2000年ぐらいだったかな。そこから25年が経ちました。


うたぐすり~Best Selection
澤田知可子自身がセレクトした全31曲!
発売日:2024年4月3日
価格:3,500円(税込)

インタビュー後編では、由紀さおりの言葉に励まされ、自身の道筋を見出した澤田が “歌” を “くすり” に変えていくという “歌うセラピスト” としての人生を歩み、現在に至るまでの心境をたっぷり語っていただきます。

▶ インタビュー・構成:本田隆
https://reminder.top/monthly-2022-02-sawadachikako/

特集:澤田知可子

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カタリベ
1968年生まれ
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