ピンク・レディー伝説
Legend 04「渚のシンドバット」作詞:阿久悠
作曲:都倉俊一
編曲:都倉俊一
発売:1977年6月10日
数々の記録を塗り替えたピンク・レディーの4年7ヶ月
1976年8月25日、そのデビューから半世紀もの歳月が経過しようとしている。が、今なお多くの人々を魅了してやまないのがスーパーデュオ、ピンク・レディーである。そしてその活動期間は4年7ヶ月と、今考えれば驚くほど短い。しかし、それまで類を見なかった圧倒的なスケール感、強烈なインパクト、さらにはミリオンセラーの連発によって、ニッポン音楽界における数々の記録を塗り替えた怪物。そう、彼女たちの活躍には目を見張るものがあった。
アイドル歌謡を超越した異次元的な楽曲、子供たちがこぞって真似をしたユニークなフリツケ、まばゆいばかりのスパンコール・コスチューム、キャラクターグッズ販売も兼ねたマーチャンタイズ戦略など、どこかアメリカナイズされた新しい形のアイドルとして、当時の日本を躍動させていったのだ。デビュー時のキャッチフレーズが《はじめての味覚(あじ)》 だったことを知る人は多くないだろうが、その味覚とやらに、まずは子供たちがおぼれていき、やがては全世代をおぼれさせてゆくほどの味付けで、日本全体をクラクラさせる社会現象を巻き起こしていったのである。
さあ今回は、ピンク・レディーのブームが明らかに沸き始めた1977年、夏向けの楽曲として発売された「渚のシンドバッド」にズームインしてみることにする。
ピンク・レディーが歌う夏の渚で起きているエキサイティングな風景
アアア アアア……
アアア アアア…… 渚のシンドバッド
ここかと思えば またまたあちら
浮気なひとね
サーフィンボード 小わきにかかえ
美女から美女へ
ビキニがとっても お似合ですと
肩など抱いて
ちょいとおにいさん なれなれしいわ
シンドバッドとは、『千夜一夜物語』(アラビアンナイト)の登場人物。その物語によれば、インド洋を幾度も航海した船乗りであり、島から島への大冒険を成功させた勇敢な男として語られている。そんなシンドバッドを船の上から渚へと呼び出して、プレイボーイ的なキャラクターとして登場させたこの曲、渡るのは島から島へ…… ではなく美女から美女へとなるワケである。
ガニマタ歩きの「ペッパー警部」、ピンチを前に「S・O・S」を叫ぶ乙女、薔薇を口にして踊る「カルメン '77」—— この曲以前からキャラクター色がすこぶる強かったピンク・レディーの楽曲だが、ここで真打ち登場とばかり、テレビまんがや童話の主人公として馴染み深かったシンドバッドを担ぎ出してきたのだから勝負アリ!すでに人気沸騰中、風雲のぼり竜のようになっていたピンク・レディーが、ここぞとばかりの勝負をかけてきたのが1977年の夏のことだった。
くちびる盗む早わざは うわさ通りだわ
あなたシンドバッド
さすがは幾多の武勇伝を持つツワモノ、シンドバッドだ。船上のみならず、渚においても美女たち相手に百戦錬磨のテクニシャンぶりを見せつける。それを横目で見ては、馴れ馴れしい奴!と引き気味だった主人公ですら、その華麗なテクニックであれよあれよという間にトリコになっていく。たかがプレイボーイ、されど気になるアイツ。理性を失うほど夢中にさせる野郎…… そう、その名も「渚のシンドバッド」に腹を立てながらもおぼれてゆくのである。
少女たちの夢や憧れを満たす衣装へのこだわり
夏の渚で起きているエキサイティングな光景を、ピンク・レディーのミイ&ケイが歌って踊って表現する。頭部には可愛い羽飾り、足元はヒールの高いキラキラ銀色サンダル。そしてスパンコールがふんだんにあしらわれたスリップドレスは、2人の体が躍動する度に宝石のごとくキラキラするのだ。まさしく、少女たちの夢や憧れを満たす要素がてんこもりだ。
皆さんは、そのスパンコール衣装に関してもこだわりがあったことをご存知だろうか。デザインを一手に引き受けていたのは、服飾デザイナーの野口庸子氏(現表記:野口よう子)。事務所側からの発注は、とにかくアメリカのショービジネスを思わせるキラキラしたものであればなんでもよかったという。
その要望に応えるかのように、野口氏が採用したのがダブルスパンコール使いだ。通常スパンコールは、布に対してひとつずつ隙間が埋まるまで縫い付けていくもの。が、ダブルスパンコールはそれらをズラしながら二重に縫い付け、魚のウロコのようにギッシリと埋め尽くしていく手法。これにより、見た目のなめらかさとキラキラ感が一層増す効果があるという。その分、衣装はズッシリと重たくなるものの、その見た目の美しさと輝きの差においては、同時代にうごめいたピンク・レディー亜流が着用した衣装との比較で一目瞭然なのである。
また、頭部に付けた可愛い羽飾りについても補足する。世間一般的に、頭の羽飾り=シンドバッドかと思うが、実のところこの試みは「ペッパー警部」の時点で行われていた。デビュー曲だけで10パターン以上、新人なのに衣装持ちとして知られたピンク・レディーは、デビュー1年目の「ペッパー警部」で出場した第9回『新宿音楽祭』のステージにて、頭に羽飾りのある衣装を着用済み。「渚のシンドバッド」で付ける前からすでに試されていたというワケである。
もちろん「渚のシンドバッド」でも数多くの衣装が用意され、歌番組ごとにお召し替えといったワクワク状態。中でも鮮烈だったのは、ブルーのスパンコールをダブル手法で縫い付けた、海を思わせる真っ青な超ミニスリップドレスだろうか。また、お腹のところがスケる、ヒモ状態になった黒スパンコールミニにもゾッコンになったもの。フリツケも数か所にてマイナーチェンジが行われているので、マニア諸君ならば知識として押さえておこう。
4作目にしてミリオン達成、そして始まるナンバーワン伝説
セクシー あなたはセクシー
私はいちころでダウンよ
もうあなたに あなたにおぼれる
デビューからわずか1年にも満たない4作目のシングルだったが、この曲で早くもミリオンセラーを達成。それは瞬く間といった感じで、100万枚という壁をいとも簡単にブチ破ってしまった。当時は20万枚も売れればヒットとみなされていた状況下でのミリオンである。この大成功によってピンク・レディーは歌謡界のトップに上りつめ、次作以降で更なる猛威をふるうことになる。他の追随は許さんという、凄まじさと勢いで。
その凄まじさの始まりとして、発売早々の6月20日付チャートにてこの曲は4位という好位置につけ、翌週6月27日付であっさりと1位の座を獲得。そして、通算8週1位という記録を打ち立てた。
▶︎ 6月27日付~7月11日付(3週連続1位)
▶︎ 8月15日付~9月12日付(5週連続1位)
間の3週間こそ、沢田研二の「勝手にしやがれ」に1位の座を奪われているが、彼女たちのナンバーワン伝説はこの後すぐにやって来る。8月15日付で再び1位を奪還したピンク・レディーは、翌1978年2月28日付チャートまでの28週(7ヶ月)のうち、実に27週にわたって1位の座に君臨!次作の「ウォンテッド」、次々作の「UFO」という連続メガヒットで “1位かっさらい状態” と化したのである。
この記録を見れば、誰も彼もが “おぼれた” 状況にあったことはご理解いただけるはずである。ピンク・レディーは安心安全の摩訶不思議な絶妙セクシー加減で、子供たちにも “おぼれる” という感覚を体感させてしまった。なにも少年少女たちだけではない。青年たちも、はたまたそれ以外の全世代を巻き込む狂乱の渦であり、社会現象にもなったのだからやっぱり凄いのだ。
それはあたかも巨大な生物に襲いかかられ、メチャクチャにされるような…… それくらいの激しさだったのだ。
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2026.08.23