4月13日

主演は富田靖子!大林宣彦監督の尾道三部作 最終章「さびしんぼう」は黒澤明も絶賛!

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黒澤明監督も絶賛した「さびしんぼう」


映画好きが集まって大林宣彦監督の尾道三部作でどれが好きかという話題になると、面白いように意見が分かれる。

それだけ如何に三作とも素晴らしいかという証しだが、私個人としては断然3作目の『さびしんぼう』(1985年)に一票を投じる。もちろん他の二作も素晴らしいのだが、私が今までに観た全ての日本映画の中で一番好きな作品がこの『さびしんぼう』なので、三部作の中でも当然一番、ということになるのである。

余談ながら黒澤明監督も『さびしんぼう』がお好きだったそうで、公開当時黒澤組のスタッフに、この作品は観ておくようにと言い渡したという逸話が残っている。

三部作の前二作『転校生』『時をかける少女』に続き尾道を舞台としたこの作品。原作は山中恒氏の児童文学『なんだかへんて子』であるが、映画化にあたり主人公の年令は小学4年から高校2年に引き上げられた。



カメラ好きの高校生・井上ヒロキ(尾美としのり)には、言葉を交わしたこともないが憧れのマドンナ(富田靖子)がいる。彼女は隣りの女子高の音楽室で、いつも少し寂しげな横顔を見せ、放課後にピアノを弾いている。ヒロキはそんな彼女をカメラのファインダー越しに(しかもお金がないからフィルムも入っていない状態で)眺めるだけである。ヒロキは彼女のことを心の中で “さびしんぼう” と呼んでいた。

その頃、ヒロキの前にへんてこな少女(富田靖子)が出没するようになる。

――「どこかで見た様な、しょっちゅう会っている様な気がするけど、どこの誰だか、さっぱり思い出せない。ダブダブの服に、ピエロみたいな顔をして、おれの顔を見ては、にいっと笑う」
(パンフレット記載の「ものがたり」より)

―― そしてその少女も自分は “さびしんぼう” だと名乗った。

ピエロ顔の富田靖子がポスターに


ほぼ全編が夕景を思わせるセピアがかった色調の映像で進行し、たとえ実際に尾道の地に足を踏み入れたことがなくても、強烈な郷愁を覚えずにはいられない。しかもこの映画の主題曲ともいうべきショパンの「別れの曲」が随所に流れ、切なさを滲ませて展開する。

とはいえ物語の前半、いや三分の二あたりまでは、原作のエピソードを散りばめつつ、かなりのドタバタコメディ調で展開する。公開時のポスタービジュアルは滑稽なピエロ顔の富田靖子のアップだったし、初見の人は物語の中盤過ぎまでは「コレ一体どーゆー映画なん?」と思われるかもしれない。

富田靖子は、ピエロ顔のさびしんぼう(パンフの表記によると「へんて子」)と、ヒロキ憧れのマドンナこと橘百合子の二役を演じている(厳密には “四役” なのだが…)。

ふとしたきっかけでヒロキはその百合子と知り合うこととなるのだが、その辺りから物語は急速に切なさを帯び始める。

通学途上で自転車のチェーンが外れて困っていた百合子を助け、ヒロキはフェリーに乗り、百合子の家まで送ることになる。しかしながら百合子は、ヒロキがそれ以上自分との距離を縮めようとすることを許そうとしない。

夕景に始まり、やがて日が暮れ切ってゆくこの一連のシーンは胸が締めつけられるように切なく、また同時にこれは若い男子なら誰もが夢想するシチュエーションでもある。改めて大林監督は永遠の青年だったと思う。

そして前半ではいたずらの限りを尽くす「へんて子」も、徐々に寂しげな表情を見せ始める。



濃密にフィルムへと焼き付けられてゆく大林監督の想い


――「ひとがひとを恋うるとき、ひとはだれでも<さびしんぼう>になる。―― これが、この映画に託したぼくの想いである」
(偕成社文庫版「なんだかへんて子」所載・大林監督の解説より)

物語の後半三分の一では大林監督のそんな想いが、濃密にフィルムへと焼き付けられてゆく。前半のドタバタとの対比も見事で、観客は知らず知らずのうちに大林マジックの虜になっていく。

この対比は、のちに大林監督自身も「冒険だった」と語っておられる通り、ひとつ間違えると前半と後半の二極化を招き、一貫性のなさを生み出しかねない危険性があったが、結果的にこの映画では、その辺りが大変うまくいっていたと思う。

主演の富田靖子、尾美としのりの他、脇を固める演技陣―― 藤田弓子、小林稔侍、佐藤允、入江若葉、浦辺粂子、樹木希林、小林聡美、岸部一徳…… といった面々の配置も絶妙であった。余談ながら商店街の場面では大森一樹監督も出演している。



原作には登場しないキャラクター、橘百合子


――「母親と、少年にとってその母親を超える存在となりうるかもしれない未来の妻としての少女を、心理的な三角関係として設定することで、へんて子、すなわち少女時代の母親と現実の母親とを、同一の感性の中で、相対的な関係におけるかもしれないという発想だった」
(前出の解説より)

そう、この “未来の妻としての少女” こと橘百合子は原作には登場しないキャラクターだが、この人物を創出した時点で、この映画の “勝ち” は決まったと思われる。

この物語は、男女間の恋を描いたものでありながら、青年男子にとって最も小っ恥ずかしい存在である母親(関西風にいうと「オカン」)を “三角関係” の一角に位置させたことにスリリングな新しさがあった。

以上の流れから、未見の方にもお察しいただけたと思うが、実はこの「へんて子」、今や年がら年中ガミガミと「勉強しなさい!」としか言わなくなったヒロキの母親の、十六歳の時の姿なのだ。

古い写真から抜け出してきた彼女は水に濡れると死んでしまうのだが、それを覚悟の上で、ラスト近くのシーンで「へんて子」は土砂降りの雨の中、ヒロキに別れを告げる。

雨に濡れてそのピエロ風メイクが崩れ、黒い涙となって頬を伝うのも構わず、ヒロキを愛おしげに見つめる「へんて子」。こんなにも切ない雨の別れのシーンを私は他に知らない。

男子が成長してひとを恋うる時、それは母性との “別れ” の時であるから、「へんて子」はヒロキのもとを去ることを運命づけられていた。この作品の主題曲「別れの曲」は、そのことを静かに語っているのである。

私が公開時にこの作品に接したのは、主人公ヒロキとほぼ同年代だった頃。その時点でも既にどこか懐かしさを感じていたこの『さびしんぼう』も、今や初見から38年を経て文字通り懐かしい存在となった。しかしながらこの作品の持つ清新さは一向に色褪せておらず、時を超えた大林宣彦監督の瑞々しい感性には、改めて感銘を禁じ得ない。

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2023.04.10
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さびしんぼう / Prime Video

 

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カタリベ
1967年生まれ
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