平成ギャルSONG(ぎゃるそん!)Vol.5
■ 浜崎あゆみ「A Song for XX」
作詞:ayumi hasasaki
作曲:Yasuhiko Hoshino
編曲:Yasuhiko Hoshino
発売:1999年1月1日(アルバム『A Song for XX』収録)
世紀末、さらに進化を遂げたギャル文化
1999年――。90年代のギャル文化がアップデートを重ね、加速していく中、大きな転換期がやってきた
ノストラダムスの大予言で「恐怖の大王が降ってくる」とされていたこの年の現実は予言より複雑。うんざりする不況が続き、ぼんやりとした不安とミレニアムという新時代への希望が混ざっていた時代。
それでも女の子はまだまだ時代の頂点でギラギラと輝いていた。ヒットランキングに並ぶ女性アーティストソングを見ると、
■ Movin' on without you / 宇多田ヒカル
■ ここでキスして。 / 椎名林檎
■ LOVEマシーン / モーニング娘。
■ 春~pring~ / Hysteric Blue
■ そのスピードで / the brilliant green!
―― さらには1997年から1年間産休を取っていた安室奈美恵が「I HAVE NEVER SEEN」で復帰したのが1998年末の12月23日。事実上、本格的に活動を再開したのも、1999年だった。
ギャルたちの聖地渋谷センター街には、身体を強くタンニングし、油性ペンでアイラインをひいたヤマンバギャルが出現。ガングロ、ゴングロとどんどん黒くなり、安室奈美恵というカリスマの再降臨も影響し、どこまでエスカレートするのか――。
しかしそんななか、彗星の如く現れたのが浜崎あゆみ。
肌を焼かない、髪もロングではない彼女の存在が時代を変えた。新たなギャルの定義「白ギャル」が誕生することになったのだった。
女の子たちの心にグッと入り込んだ「A Song for XX」
浜崎あゆみは1998年のデビュー曲「poker face」からすでに注目はされていたけれど、彼女が女の子たちの心にグッと入り込んだのは、1999年1月1日に発売されたファーストアルバム『A Song for XX』である。いや、もっといえば表題作「A Song for XX」の 、
居場所がなかった
見つからなかった
ーー というサビではなかったか。
歌詞というより心の叫びのようだ。普通に言えそうだが、強がってなかなか言えない言葉。けれど強烈。だからこそストレートに胸に迫りくる。
ギラギラと光を炸裂させていたギャルたちの「影」の部分が、このアルバムとリンクした。光が強いほど影も濃くなる。「楽しむふり」をしながら、もがいている。1999年は浜崎あゆみのブレイクは、ギャル文化を俯瞰で観ていた大人たちにも、それをストレートに気づかせたのだと思う。このアルバムにぎょっとした私は、間違いなくそのひとり。トラウマをここまであけすけに歌うのかとビックリし、殴られるくらいの衝撃を受けた。
浜崎あゆみ通算10枚目のシングルの「A」のなかには「Trauma」(トラウマ)というそのままのタイトルの曲もある。アップテンポなメロディーだが、歌詞は「鏡に向かえなくなっている」という生々しい心の傷が歌われている。なんというか、何度も自分の心の苦しい部分を晒して壊し、再生を試みていて、それを笑顔でごまかしながら打ち明けているイメージだ。
2000年代、浜崎あゆみ特集のドキュメンタリー番組で、カラオケでガングロギャルが、「何気に孤独だよね」といいながら、彼女の歌を歌っていた。ギャハハと仲間と笑い合い、全て解放しているように見えるギャルたちと「孤独」という言葉の不思議な符合は、確かに、浜崎あゆみの歌と重なっていた。
ギャル文化そのものだった浜崎あゆみの「消費感」と心細さ
もうひとつ、浜崎あゆみに驚いたのは「消費感」である。1999年から数年間、私から見た浜崎あゆみは、とにかく急いでいた。4枚目のシングル「For My Dear...」のあたりから、平均2か月スパンで新曲がリリースされる。エッもう次の曲出たの!? とビックリ。
当時はチャートを見渡せば、宇多田ヒカルやモーニング娘。椎名林檎、SPEEDなど、ギシギシと豊かな個性と才能がせめぎ合っていた。そのなかで、気力体力がすり減ってしまわないかなと不安になるような速度と量で駆け抜けるあゆ。その「急ぎすぎている」感じもまた、不安定な時代、そしてギャル文化とリンクしていた。
すさまじい勢いだけど、決して自信満々ではない。逆に「君はどこにいるの」「何を見せればいい」と不安そうに問いかけてくる。それを「英語を歌えないから」とすべて日本語で綴っていた(2002年の「Real me」で初めて英語表記の歌詞が登場)。その代わり、タイトルはローマ字表記。弱さを暗号で隠すように。
私の予想は外れ、あゆはすり減らず、現在も精力的に活動している。ただ、世紀末から2000年代の彼女はちょっと特別で、自分を摩耗することで光り、さらに時代が特別なスポットライトを用意したようにすら思えるほどだった。
金髪のショートヘアにネイルアート、ヒョウ柄など流行らせたものは数知れず。ギャル文化に「白ギャル」という新たなジャンルを生み出したけれど、何より大きかったのは女の子たちの代弁の役割だったと思うのだ。
超絶な歌とダンスのスペックで尊敬と憧れを集めた安室奈美恵の存在が「RESPECT(尊敬)」だったとすると、浜崎あゆみは「sympathy(共感)」。自分の闇を晒し、孤独な女の子たちに寄り添った。
時代が大きく変わり、ギャル文化もどこまで変化するのか見えない。そんな中、分厚いメイクや不思議キャラで心の奥に広がる影を隠し、笑い飛ばしていたギャルたちにとって「あゆ」は、もうひとりの自分だったのかも。その曲を聴き、歌って本音を叫べたのかもしれない。そのシーンを想像すると、「A Song for XX」の「XX」という特殊な表記も、とてもしっくりくる。
きっとそこには、その寂しさと本音を伝えたい人の名前が入るのだろう、と思う。
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2023.03.23