2000年 1月1日

安室奈美恵「LOVE 2000」何も変わらなかった世紀末と第1期ギャル文化の終焉

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■ 安室奈美恵「LOVE 2000」
作詞:小室哲哉, Sheila E., Lynn Mabry, 前田たかひろ
作曲:小室哲哉, Sheila E., Lynn Mabry
編曲:小室哲哉, Sheila E., Lynn Mabry
発売:2000年1月1日

コギャル文化のパイオニア安室奈美恵


自分の人生で「2000年」を体験できたのは、よくよく考えればすごいことだと思う。1000年に一度。当時パソコン教室に勤めていた私は「ミレニアム問題」でパソコンが誤作動するというウワサに怯えていた。結局パソコンは何もなく、2000という数字の並びがスゴイだけで、何も変わらないな、と思ったものだ。

そうなのだ。何も変わらない、明日が見えてきた。1999年という終末を乗り越えた2000年のキーワードは良くも悪くも「明日」だったように思うのだ。

ただ、コギャル文化は「明日」とは対極にある。未来が見えないからこそ “今、この瞬間” を楽しみ、若さを刹那的に消費できた。

何かが終わると思っていた、もしくは変わると思っていたが、あまり変わらずやってきた2000年。それは、先延ばしにしていた未来に向かい合わなければいけない困惑の始まりでもあったのかも。

それを象徴するように、1月1日、リリースされたのが、コギャル文化のパイオニア、安室奈美恵の「LOVE 2000」だった。

人類に犯した罪を問う異色作「LOVE 2000」


「LOVE 2000」は、ミレニアムのスタートを飾る曲にしてはとにかくダーク! しかしすごいエネルギーを放っている。随所で繰り返される、不気味で美しいバッハの「小フーガ ト短調」と「ARE YOU READY FOR SYSTEM 2000?」の問いかけが意味深く鳴り響きーー。

 けがされてしまった
 許されてしまった

と懺悔するような歌詞が続きギョッとする。

「2000年という新時代を生きる準備はいい?」というより「2000年、社会のシステムに組み込まれる覚悟はいい?」と念を押されている感覚にもなるのだ。「SYSTEM(システム)」というワードが効いている。恐ろしいほどに!

しかも、この次の17枚目シングルが「NEVER END」である。

ーー この世界は終わらない。明日も、明後日も強く生きなければいけない。

深読みだろうが、そんなメッセージにも思える。

1995年「私を信じて」と時代を蹴り飛ばすように歌いカリスマとなった安室奈美恵に、2000年という節目のシングルで、人間の罪と後悔と新時代の警告を歌わせるとは。小室哲哉自身、予想していなかった未来かもしれない。いろんな意味で挑戦的、かつ実験的!

ちなみに、この「LOVE 2000」は2000年のオリコンランキングの100位以内に入っていない(hitomiの「LOVE 2000」は入っている)。けれど、それが逆にこの曲が持つパンチのすさまじさを物語っているようにも思えてしまう。



2000年のヒット曲に見える「明日」への絶望感


1999年にブレイクし、コギャル文化第二のカリスマとして君臨した浜崎あゆみも、2000年のはじまりは「絶望」を歌っていた。「vogue」「Far away」「SEASONS」の三部作だ。

「SEASONS」のMVでは、喪服を着て歌い「21世紀を迎える前に、20世紀の古い自分を葬り去ろう」としていたという。

椎名林檎は「ギプス」で「明日のことは忘れちゃおう」、鬼束ちひろは「月光」で「この腐敗した世界に落とされて」と歌った。

ーー 新たな時代が来るワクワクより、強く漂う行き詰まり感。

この年、サラリーマンに扮したダウンタウンが印象深いジョージアコーヒーのCMに流れた「明日があるさ」というウルフルズの曲も流行している。同じ明日でも切迫感が全然違う。2000年ヒットのなんとも興味深い対比である。

コギャル文化第一期が終わっていく2001年


さて、コギャル文化ではこの時期、黒ギャルが「限界の輝き」を見せていた。日焼けサロンでどんどん黒く肌を焼き、ガングロ、ゴングロとどんどんエキサイト。人気雑誌『egg』の表紙を、白い髪、真っ黒の顔、ブルーのアイシャドーにつけまつげを施した「ヤマンバ」が飾り、ものすごいインパクトで話題に。

『egg』が歴代最高売り上げをたたき出したのもこの年だ。しかし、見る者に嫌悪感を与えると社会的大バッシングを受け、早くも2001年春頃、ガングロブームは急速に消滅していく。

さらにこの頃になると携帯電話普及率が固定電話を抜き、「iモード」が大流行。「Google」が日本語による検索サービスを開始し、彼女たちが大好きな渋谷109ブランドも、ネットショップで購入可能になった。ギャルたちは渋谷に集まらずとも、その手に世界を持ち始めたのだ。

仲間と一か所に集まり「今この瞬間」を共有したコギャル文化第一期が終わっていく――。

ギャルが大人になる。「S-Cawaii!」創刊


なにより時間は止まらない。ずっとJKじゃいられない。コギャル文化ビッグバンの1995年当時から安室を真似ていた女の子たちは、大人になっていく。

2000年には『Cawaii!』の大人系雑誌『S-Cawaii!』が創刊となった。「S」は姉の「SISTER」だけでなく、「SUPER」「SEXY」「SPECIAL」「STORONG」の意味もある。そして「卒GAL」のSだとも定義されている。「ギャル」という暗号は永遠に持ちつつも、それ以上の何かを目指したい。もっとすてきな何かに! そして2001年の『S-Cawaii!』には、こんな文章が掲載されているーー

 2001年、21世紀の幕は開いたけれど、
 劇的に何かが変わったわけじゃない。
 昨日が今日に、今日が明日になっていく。
 ただそれだけの毎日。
 ほんと退屈な毎日。
 でも、最近話題の雑誌がある、
 「強い女」のための雑誌。

求めるのは、どんな毎日も楽しめる強さ。その見本であり続け、最先端を走っていた安室奈美恵も “今以上の何か” を目指し、2001年1月リリースの「think of me / no more tears」で小室哲哉プロデュースを脱退。以降、セルフプロデュースへと移行する。

カリスマがスタート地点に戻る。そして世紀末という「終わりの空気」を食べて走っていた女の子たちもまた、時代を暴走した誇りと罪を抱えながら、新たなシステムを探しにいく――。

この「LOVE 2000」が収録されたアルバム『GENIUS 2000』は、ひとつの時代の終わりと始まり。安室奈美恵のアーティストとしての貫禄と模索を感じる名盤となっている。

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2023.04.06
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カタリベ
1969年生まれ
田中稲
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