レッド・ホット・チリ・ペッパーズが90年代に残した3枚のアルバム ③『カリフォルニケイション』
ジョン・フルシアンテが電撃復帰した「カリフォルニケイション」 2024年5月、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下:レッチリ)が来日した。今回のライブは代表曲を惜しげもなく披露し、大ヒットメドレーの圧巻のステージでオーディエンスを楽しませてくれるだろう。
今回の来日公演を記念して、90年代にレッチリがリリースした3枚のアルバムについてコラムを書かせてもらう。今回の題材は、ジョン・フルシアンテが復帰したアルバム『カリフォルニケイション』について語ってみよう!
1992年、ジョン・フルシアンテの脱退後の後任ギタリストとして元ジェーンズ・アディクションのデイヴ・ナヴァロを迎えたレッチリだったが、アルバム『ワン・ホット・ミニット』を制作し、その後のツアーを終えたところで、音楽性の違いからレッチリを脱退してしまう。
しかし1999年、デイヴの前任ギタリストだったジョン・フルシアンテがうつ病と薬物中毒を克服してレッド・ホット・チリ・ペッパーズに電撃復帰を果たしたのだ。ジョンが病と薬物中毒を克服した背景には、レッチリのベーシスト、フリーの助けが大きかったようで、そんな友情もジョンのバンド復帰を後押しした。
前作から一転、苦みを増した作品づくりへ こうした紆余曲折を乗り越えたレッチリは、1999年にアルバム『カリフォルニケイション』をリリースした。本作は今までのレッチリの作品と比較するとなかりメロウな作品で、物悲しい歌メロが印象的な作品となっている。それまではファンクとロックをミクスチャーするハイブリット機能を高めることで、新しさと緊張感ある音像を生み出していたが、本作では、ミクスチャーという手法ではなく、楽曲そのものの魅力で勝負している。
前作『ワン・ホット・ミニット』ではデイヴ・ナヴァロのギターと他のメンバーが鳴らす音がぶつかり、せめぎ合うことで適度な違和感と高い緊張感を生み出しており、それが作品の魅力となっていたのだが、『カリフォルニケイション』ではジョン・フルシアンテのギターはレッチリサウンドに完全に溶け合っており、ロックバンドとしての一体感を強く感じさせる作風となった。
ミクスチャーロックとしての過激さが減退したことで地味な印象を与えた反面、成熟したロックバンドが鳴らす威風堂々とした王道感とどこか物悲しさを感じさせる楽曲の魅力は、より広いリスナーの支持を集め、キャリア最大のヒット作となった。
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「カリフォルニケイション」に宿る切なさの秘密とは? ジョン・フルシアンテが復帰したことで彼らのメジャーブレイク作『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』を彷彿とさせるファンク色の強い作品になると思われていた『カリフォルニケイション』だったが、物悲しく苦みを増した作品に仕上がった。この変化の背景を考えると、レッチリを離れていた期間のジョン・フルシアンテの暮らしぶりを参照することでそのヒントが見えてくる。
前述のとおり、この間、ジョンはうつ病と薬物中毒を患っており、ドラッグを買う金を稼ぐためにソロアルバムを作っていたほどに生活は荒んでいた。彼の最初のソロアルバム『Niandra Lades and Usually Just a T-Shirt』は最初のレッチリ在籍時期から録りためた小品で構成されている。
宅録レベルのデモテープ同然の音質なのだが、そこで奏でられる弾き語りの作品は、ジョンのむせび泣くような歌とギターが響く悲痛な楽曲で埋め尽くされている。ここから聴こえてくる歌とギターは正気の沙汰とは思えない狂気を孕んだもので、ポップミュージックとしてのわかり易さや楽しさとは無縁の作品だが、狂気の向こう側にはジョン・フルシアンテが抱えている悲しみや切なさが感じられる儚くも美しい作品だった。
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無敵のレッチリ、黄金時代の幕開け こうしたジョンの作風や精神状態は当然、レッチリの『カリフォルニケイション』にも持ち込まれ、もともとバンドが持っていたアグレッシブな演奏と融合し、ミクスチャーという手法に頼ることなく、レッチリならではの “力強いのに泣けるロック” という王道サウンドを獲得したのだ。
そして、ここから無敵のレッチリの快進撃が始まる。『カリフォルニケイション』に続いて、2002年には『バイ・ザ・ウェイ』、2004年には『ステイディアム・アーケイディアム』と次々に傑作アルバムを発表し、いずれもが大ヒット作となる。80年代半ば、カリフォルニアのローカルシーンの有望バンドだったレッチリは、約20年の歳月をかけて世界最大のロックバンドに君臨したのだ。その道程は決して平坦なものではなかったが、幾多の困難を乗り越えてロックバンドという物語を作り上げていった。
そして、この後もジョン・フルシアンテの脱退と再加入という誰も予想しなかった展開を見せながらも2025年の今日でもロックシーンの頂点に君臨している。そして、これからもナンバーワンバンドの物語は続いていく。
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2024.05.20