1999年 1月8日

主題歌は坂本龍一プロデュース!中谷美紀の主演ドラマ「ケイゾク」の復活はあるのか?

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photo:Tokyo Broadcasting System Television, Inc.  

堤幸彦の世界観が炸裂するサイコパスドラマ「ケイゾク」


ノストラダムスが人類滅亡を予言した1999年、ドラマ『ケイゾク』は始まった。『高校教師』や『愛していると言ってくれ』など、恋愛ものをベースとした作品を放送してきたTBSの金曜ドラマ枠で演出家・堤幸彦の世界観が炸裂するサイコパスドラマが放送されるのはかなり異例だったと言える。

当時の私は刑事ドラマに飢えていた。97年に警察官=サラリーマンとしての階級闘争を描き、メディアミックスして大ヒットをかっさらったドラマ『踊る大捜査線』(フジ系)の次なるビッグウェーブを待っていたのだ。この先はどんな手法で警察が描かれるのか? 当時のホラーブームと世紀末感も手伝ってなんだかワクワクした。そこに『ケイゾク』が降臨したのだ。まるで予言書のように。

“ケイゾク” とは、未解決事件を継続捜査する警視庁捜査一課弐係の通称のこと。そこに新規赴任してきた東大卒のキャリア官僚・柴田と、元公安の叩き上げ刑事・真山の男女バディで過去の事件を解き明かしていくストーリーだ。

今見ても震える野口五郎のサイコな怪演


とにかく登場人物のキャラクターが濃い。東大出の柴田は風呂嫌いの世間知らずだが推理力は抜群で決め台詞は――

「あの〜犯人わかっちゃったんですけど〜」

だし、真山はちょっぴりイカれ気味で言動がキレッキレ! 過去の妹の暴行殺人事件に囚われ復讐を決断している。野々村係長の机には常に柿ピーがありミヤビちゃんという女子高生とラブラブだ。

弐係をスパイする木戸は裏切り者のはずなのに命をかけて柴田を守ろうとする。元公安で定年間近の壷坂刑事はヘヴィな過去を背負いながらなぜかパイナップル好きがアピールされる。

何より早乙女管理官こと野口五郎のサイコな怪演が光る! 今観ても震える!

静と動、ギャグとシリアス、日常と異次元の二刀流


第1〜7話までは1話完結が基本で、トリックの解決を軸に小ネタをちりばめたコメディーチックな内容だが、後半につながる伏線(真山の過去や闇など)が徐々に描かれる。そして第8話途中からガラッと空気が変わり、真山と快楽殺人犯・朝倉の壮絶な死闘が展開される。

超能力やオカルトをミックスしながら、サラリーマン序列の悲哀や男女の愛憎といったリアルな現実も描き込み、加えてギャグや小ネタも満載してSFやファンタジーをも詰め込んだ。そうした静と動、ギャグとシリアス、日常と異次元の二刀流が素晴らしい。本当にこんなドラマ、日本では観たことがなかった。

また、オマージュやパロディを多彩にコラージュした映像は、今でこそ当たり前かもしれないが当時は驚愕した。

アガサ・クリスティーやジョン・ディクスン・カーといったミステリ小説の引き合いに加え、『ツイン・ピークス』(90年アメリカ)や『沙粧妙子 ー最後の事件ー』(95年フジテレビ系)、『怪奇大作戦』(68年TBS系)に『太陽にほえろ!』(72年日本テレビ系)といったドラマの引用、果てはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年テレビ東京系)。そして、クエンティン・タランティーノ作品に至るまで!

ありとあらゆる好物へのリスペクトを堤幸彦は独特の感性でちょこちょこっとひねって観せた。何度味わっても楽しい。何度でも観られる。事実私はこのドラマ全話をこれまでに10回以上も観てしまっている。

「堤以前・堤以後」と評される堤幸彦の演出


堤は『ケイゾク』で頭角を現し、翌年2000年には宮藤官九郎脚本ドラマの名作『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や『トリック』(テレビ朝日系)を手がけた。

彼はオールロケの撮影にこだわり、手持ちカメラ1台のみを使ってアングルに変化をつける手法を編み出し、さらにカット割に独特の効果音を取り入れた。この演出法は後の日本テレビドラマ界に多大な影響を与えたとされる。「堤以前・堤以後」とも評される彼の演出スタイルが2000年代のドラマを変えていったのだ。

ちなみに今も続くバディもの刑事ドラマの金字塔『相棒』が2000年にスタートしている。

主題歌は坂本龍一プロデュース「クロニック・ラヴ」


主演の中谷美紀が歌う主題歌「クロニック・ラヴ」もドラマと共に記憶に刻みつく。坂本龍一プロデュースにより歌手活動をしていた彼女の7作目となるマキシ・シングル。

この曲は元々、坂本が岡田有希子に提供した「WONDER TRIP LOVER」がモチーフになっている。1986年にリリースされたアルバム『ヴィーナス誕生』 の中の1曲だ。これを坂本自身のアルバム『未来派野郎』 (1986年) で「Ballet Mechanique」というタイトルでセルフカバー。これに中谷美紀が歌詞をつけてリメイクした。

――「私は本当に坂本龍一さんのいちファンなので、「Ballet Mechanique」を歌わせてくださいと、自分からお願いしました。ずっと歌ってみたかった曲なので、夢がかなったんです」

―― と、後に中谷は語る。
※WEBザテレビジョン 中谷美紀インタビューより

オープニング、アバンタイトルから画面に流れ出す高揚感のあるメロディーと素直なヴォーカル、透明感溢れるサウンド。荒野の風を思わせる澄み切ったイントロ・アレンジが不穏な空気を醸し、カット割連打の映像にたゆたうように重なっていく――。

聖と俗を思わせる映像のサブカルテイストもたっぷりだ。



「ケイゾク」の復活はあり得るのか?


ネット検索すると「オープニングが怖い」という意見が結構ある。確かにこのプロローグはちょっと不気味かもしれない。

1秒につき何カットも挿入される映像、奇妙で無作為に見える画像が延々と続く。東京タワーや黒電話の受け口、血まみれの手のひら、国会議事堂、ハサミ、陰陽のマーク、鉄橋、出演者のショット等の画像コラージュが淡々と流れていく。

フラッシュバックを利用した独特のスタイルで、そこには各話のヒントとなる画像も含まれている。

TBSの植田プロデューサーはこのオープニングについてこんなコメントを残している。「すべての日常にタブーとされるものとそうでないものがある。じゃあタブーって何ぞや、ということをタイトルバックでやりたかった」―― と。
※YouTube 堤幸彦×植田博樹 全作対談より

その言葉を裏付けるようにサイケデリックな演出と不安を煽りながら消えてゆく様々なカットは何度見ても悪夢のようで美しい。そして永遠に観ていたい幻のような冷たさに満ちている。

連続ドラマの続編こそ作られなかったけれど、西荻弓枝×堤幸彦×TBS植田プロデューサーが生み出した『ケイゾク』の世界観は、10年以上の時を経て『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(2010年/TBS系)というドラマに受け継がれて甦り、神をも巻き込む一大サーガとして新しいファンを獲得していった。

この先だって新たなシリーズ復活は大いにあり得るのだ。

はたして本当に真山は殉職したのか?

柴田の現在は、未来はどうなるのか?

いつまでも期待して待ちたい。


■ TBS系ドラマ『ケイゾク』(全11話)
・放映期間:1999年1月8日〜3月19日
・放映時間:毎週金曜日22:00〜22:54
・脚本:西荻弓枝
・演出:堤幸彦 他
・プロデュース:植田博樹(TBS)
・出演:
 中谷美紀(柴田純)
 渡部篤郎(真山徹)
 鈴木紗理奈(木戸彩)
 竜雷太(野々村光太郎)
 泉谷しげる(壷坂邦男)
 野口五郎(早乙女仁)



追記:脱稿直後に坂本龍一氏の訃報が飛び込んできました。覚悟はしていたけれどショックです。謹んで教授のご冥福をお祈りいたします。合掌。

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2023.04.09
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カタリベ
1968年生まれ
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