小学生の頃、近所の駐車場の空きスペースでよく野球やキャッチボールをしていた。
車も少ない砂利を敷き詰めただけの月極駐車場。その駐車場の隣のマンションの一室には、週末にもなると50人以上の若い女の子たちが行列をなしていた。
今でいえば、原宿のかき氷店アイスモンスターやギャレットポップコーンの行列に近いノリ。中高生が多くキャーキャーと凄い熱気だったことを覚えている。そこは小さな音楽事務所で当時アイドル的な人気を誇った原田真二さんが所属していてコンサートのチケットなどを求めてファンが常に詰めかけていた。
その喧騒を横目に眺めながら私たちは近所の子供たちを集めては毎日隣で野球ばかり。時々事務所のお兄さんたちに遊んでもらったものだ。当時の私にとってお兄さんたちは初めて出会う女の子みたいに髪の毛が長い男の人だった。ヴィジュアル的にはSHOGUNとか、はっぴいえんどみたいな感じ。黒いサングラスがカッコ良かったのを思い出す。今思えばバンドマンだったのかもしれない。
ある日、いつもと違うお兄さんがいて、「キャッチボールしよう。」と言った。新しいお兄さんが加わってとても嬉しかったのを覚えている。ただ、髪型もサングラスも他のお兄さんたちと違い、子供の時分の私でもまとっている雰囲気がまるで違うことがわかった。そのお兄さんと遊んだのはその一度きり。それ以来、その日のキャッチボールがなぜかずっと忘れられなかった。
ひと月も経った頃、その時一緒に遊んでいた友達が、「あのキャッチボールのお兄ちゃん、絶対、陽水だよ。」と言った。あれが本当に井上陽水さんだったのか真相は闇の中だが、陽水さんの「white」を聴く度、あの日のキャッチボールを思い出してしまう。
嘘をつく子は日暮れの
別れの時の居場所がわからない
遊びつかれた言葉と
空気のぬけたゴムマリかかえて
ミルクを飲んでも同じでしょうか?
甘いミルクを飲んでも白いだけです。
white
作詞・作曲:井上陽水
編曲:星勝
発売:1978年7月25日
2016.02.24
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