聴いているだけで幸せな気持ちになる曲がある。
「夏のポラロイド」
この曲は、1987年6月21日に発売された崎谷健次郎の通算2枚目のシングルで、1st.アルバム『DIFFERENCE』にも収録されている。作曲は崎谷健次郎、作詞は秋元康。透明感のあるメロディとストーリー性の高い歌詞。ただ耳を傾けるだけで、一瞬で物語の世界に入り込む。
私事で大変恐縮だが、つい先日、左足首の靭帯を切った。これが2度目のことであり、怪我した部位も同じ、置かれた状況も酷似している。
最初は1989年の夏、チアの本番前、最後の練習時に靭帯を完全断絶。石膏で固められた完全なギプスの4週間。幸い夏休みだったこともあり、ギプスが外れるまで、ベットで寝たきりの生活となった。
何もすることがない、退屈な時間が流れる。部屋にテレビはなく、本を読むか音楽を聴くことくらいしか楽しみがない。崎谷健次郎の曲に出会ったのは、まさにこのときだった。
オープニングから美しく清々しいメロディが流れ、冒頭の歌詞は別世界へと誘(いざな)う。
二人で借りていた夏のコンドミニアム
バルコニーにはデッキチェアー
泳ぎ疲れた君 寝息を立てて
長い髪を静かに 風に揺らした
目の前には青い空と蒼く澄んだ海が広がり、幸せに満ちた2人の姿が目に浮かぶ。
君は夢の中 待ち合わせしても
いつも僕に逢えないと
目覚めた後責めるから
閉じたその瞳 そっと接吻(くちづけ)て
君が待っている空へ
僕の愛をそっと吹き込んだ
秋元康の歌詞ってすごい。たったこれだけの文章で、彼女の彼へ想い、彼の彼女への愛情の深さを感じとることができてしまう。また、夢の中でさえも「彼に逢いたい」と思う彼女はとても可愛い。その様子を彼が愛情深く見守る感じもまたいい。
しばらくすると彼女が目覚め、こう呟く。
君は手をかざし 少し眩しそうに
右の肩 反らしながら
目覚めたとき微笑んだ
夢で逢えたねと 驚いたように
僕にそっとつぶやいて
二度目の接吻をせがまれた
ついに夢で逢える2人。彼の愛情が夢の中まで入り込んだ瞬間だ。
愛情っていい。心を柔らかくする。この歌詞を聞いているだけで、心がふわっと温かくなる。現実世界から離れ、幸せな感覚に包まれる。曲調もまたいい。透明感のある歌声と美しいメロディはイメージ力を高めてくれる。私にとっては足の痛みや晴れ舞台に立てなかった悲しさから、一時的にでも解放してくれた素敵な曲だ。
そして今回の怪我は、バレエの舞台稽古中に起こった。左足首靭帯の部分断絶。簡易ギプスの後に、添え木機能付サポーターと処置も軽く、2週間で復帰。
当初は前回に比べたらマシなように考えていたが、私の考えが甘かった。踊ると腫れあがる足。トゥシューズを脱ぐと鈍痛が走る。ブロック注射も効かず、剣山で突き刺さしたような痛みや、突っ張るような痛み、鈍く重い痛みなど複数の痛みに襲われ、もはや痛みのない状態が分からない。数カ月間痛みと戦いながら本番を迎え、終了後はMRI検査送りとなってしまった。
バレエの稽古は厳しい。怪我は自己責任、出席したからには妥協は許されない。舞台稽古は日々進んでいくので、当たり前だが休めば遅れる。後日のフォローはない。
休みたくても休めない、逃げたくても逃げられない。怪我と向き合い、心と向き合い、平常心を保つように努力する。一刻も早く気分を変えるために、今回もまたこの曲を聴いてみた。すると、幸せな気分に加えて、悔しかった過去の想いが蘇る。この想いもまた、本番を乗り切る助けとなった。
そして今は… 再びトゥシューズを履ける日が来ることを祈るばかりだ。
2017.08.12
YouTube / kentsuper 6
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