Re:minder より
2018年11月23日(金・祝)、Re:minder がお送りする新イベント、
トーク&ライブ『スナック蘭華』が、歌謡曲 BAR スポットライト新宿にて開催されます。今回のゲストは松武秀樹さん。蘭華さんは、一体どんなお話を引き出してくれるのでしょうか。皆様のご来場をお待ちしております。さて、今回は蘭華さんが、その松武さんとのエピソードについて書いてくれます。
坂本龍一さん、細野晴臣さん、高橋幸宏さんが結成したイエロー・マジック・オーケストラのほとんどの作品、ライブにプログラマーとして参加、レコーディングや世界ツアーにも帯同し、“YMO 第4の男” と呼ばれた松武秀樹さん。日本におけるシンセサイザープログラマーの先駆けであり、“冨田勲の一番弟子” としても知られている。
2016年9月にリリースされた私、蘭華の1stアルバム『東京恋文』では、収録曲「あなた恋し~故郷の春〜」に参加して頂いた。アルバムリリース記念のワンマンライブにもゲスト出演してくださり、今夏も FMヨコハマ(Fm yokohama 84.7)のイベントでご一緒させて頂くなど、大変お世話になっている。
横浜出身の松武さんが小学生の時に歌っていたという「横浜市歌」。
イベントでは、松武さんがその日の為に作ってくださったスペシャルなサウンドで披露。なかなか難しいメロディに苦戦していると、松武さんは一緒に歌って私をサポート。後日、その模様が放送されたのだが、「ラジオで歌声がオンエアされたのは音楽人生で初めてだ」と仰っていた。
イベント後はディープな野毛の街を案内してくださるとのことでスタッフ一同楽しみにしていたのだが、その日は台風が関東を直撃して予定変更! 松武さんの地元の行きつけの中華料理屋に行くことに――。
その店の店主と話していたら、私の母方の祖父母と故郷が同じだということが判明し、「次はお母さんも連れて来てよ!」ということになった。2ヶ月後、約束通り、私のバースデーライブを観に上京していた母を連れ、紹興酒で乾杯。なんと偶然にも、母と松武さん、店主のお父様が同い年で卯年生まれということがわかり、それはそれは楽しい宴となった。
ところで松武さんとの出会いは、音楽関係者が集う上野公園での花見の席だった。日本酒好きな松武さんと皆で呑み語り合っていると、いつも楽しくてあっという間に数時間が経過してしまう。
野毛の昭和歌謡居酒屋や「ホッピー仙人」をハシゴ酒、秋刀魚の綺麗な食べ方も教えて頂いた。大黒埠頭の老舗 BAR「スターダスト」で出会ったという米兵の悲しいエピソードをお聞きしたことは、忘れえぬ思い出。
他にも大滝詠一さんとの制作秘話や YMO のワールドツアーの時のエピソード等々、いつもご自身の音楽の歴史を紐解きながら、お酒と共に解説してくださった。
思い出してみると優しく時が流れていた記憶しかない。それら全てが良い時間なのだ。
松武さんがシンセサイザーに興味を持ったのは、1970年の大阪万博がきっかけ。会場でウォルター・カーロスの『スイッチト・オン・バッハ』を聴いて衝撃を受け、後にそれがシンセサイザーという電子楽器で作られていたことを知った。
冨田勲さんの事務所にアシスタントとして入社した直後に、師匠がシンセサイザーを購入。当時1千万円を超えていたという貴重な楽器を社員にも使わせてくれた。この時20歳だった松武さんはシンセサイザーに触れるのが楽しくて仕方なく、仕事を終えた夜から朝方までこれをいじっては業務開始まで少しだけ眠るという生活が、まったく苦にならなかったという。
独立後の1978年10月、坂本龍一さん初のソロアルバム『千のナイフ』のプログラミングを手掛けたことがきっかけで出会った細野晴臣さんが、作業現場に見学に来られた。その頃すでに細野さんには YMO の構想があったが、納得のいく作品ができていなかったそうで、数日後「電子楽器を使う YMO というバンドをやるので一緒にやらないか」と誘いを受けた。
1980年には、YMO の第2回ワールドツアー『FROM TOKIO TO TOKYO』に出発。サポートメンバーは矢野顕子さん、大村憲司さん、そして松武さんの3人だった。
ジャンルを超えた多くのアーティストの録音に関わりながら、松武さんは自身による音楽ユニット、ロジック・システムを始動、1981年にファーストアルバム『Logic』をリリース。日本のみならず海外でも高い評価を受けている。
これまでにカヴァーしてきた音楽ジャンルは、純粋な電子音楽から CM 音楽、イージーリスニング、ポップス、ロック、歌謡曲、TV・映画サントラ、キッズ音楽まで、極めて多岐にわたる。昨年、音楽生活45周年を記念し、そのキャリアの集大成ともなる CD BOX セット『ロジック・クロニクル』が発売された。
「RYDEEN」YMO
「傷だらけのローラ」西城秀樹
「モニカ」吉川晃司
「リバーサイドホテル」井上陽水
「すみれ September Love」一風堂
「天使のウィンク」松田聖子
「そして僕は途方に暮れる」大沢誉志幸
―― など、数多くの名曲を収録。
矢野顕子、大貫妙子、尾崎亜美、松任谷由実、加藤和彦、南佳孝、来生たかお、カシオペア、沢田研二、氷室京介、BOØWY、TM NETWORK、CHAGE&ASKA、杏里、中島みゆき、中森明菜…
松武さんが手掛けられてきたアーティストの方々の名前をこうして眺めてみると、日本の音楽史に名を残す顔ぶればかり。そんな松武さんと一緒に曲を作ることができたのは、本当に光栄なこと。
1stアルバム『東京恋文』に続き、今年9月にリリースした2ndアルバム『悲しみにつかれたら』にも一曲ご参加頂いた。収録曲「大地の祭り」は、YMO の世界ツアーで活躍したあのタンスと呼ばれるシンセサイザーから誕生。アジア大陸の風を感じる疾走感溢れる仕上がりとなった。
松武さんのミュージックエアポートスタジオで、シンセダビングをしたのだが、タンスを操る松武さんはいつもキラキラしていてカッコいい。そして少年のようだ。
シンセサイザーに触れるのが楽しくて、夜から朝方までいじっていたという20歳の頃から47年経った今(2018年)でも、シンセサイザーを愛する気持ちは変わっていないのだろう。そんな松武さんと、これからも一緒に音作りができたら幸せだ。
この出逢いとご縁に感謝。
2018.11.04