11月10日

元祖ヴィジュアル系!ヴィサージは80年代《ニューロマンティック》の先がけバンド

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Visage / Visage

食わず嫌いだったヴィサージ


食べ物の好き嫌いは、貧乏暮らしの大学時代に克服した私ですが、音楽については好き嫌いが多く、かつなかなか直りません。ただもう “食わず嫌い” はなくなりましたが、昔はそれも多かった。ルックス重視のアイドル的な人たちが好きじゃなかった(そのくせ好きな女性アイドルはいましたが…)。ザックリ言うと「ミュージック・マガジン」派で、アンチ「ミュージック・ライフ」。ML誌でフィーチャーするようなロックアーティストたちは “ミーハー” だと決め込んで、敬遠していました。だから “KISS” とか “Queen” は食わず嫌いで、KISSはまあ音楽も好みじゃないんだけど、Queenはその後私のフェイバリットバンドのひとつ。ちゃんと聴くのが遅くなってとても損した気分でした。

「ニューロマンティック」なんて呼ばれた一群、1980年代初めの英国のアーティストたちも、だいたい化粧してたんで、食わず嫌いの対象でした。“ヴィサージ” はその嚆矢とされているくらいですから、当然のように当時はスルーしていたのですが、のちにミッジ・ユーロ(Midge Ure: guitar)のソロが好きになり、彼がヴィサージの結成メンバーだったと知って、後追い聴きしました。やはり損していましたね。

ヴィサージ(Visage)はスティーヴ・ストレンジ(Steve Strange: vocal)とラスティ・イーガン(Rusty Egan: drums)がロンドンのクラブで主催していた「デイヴィッド・ボウイ&ロキシー・ミュージック・ナイト」的なイベントで流す曲を求めて、イーガンがミッジ・ユーロの協力を得て、自分たちでつくり始めたことによって形成されていきました。「New Romantic」という名称もここで生まれて広がっていったのです。

バンドには上記3人に、“ウルトラヴォックス”(Ultravox)のビリー・カーリー(Billy Currie: keyboard)、“マガジン”(Magazine)からジョン・マッギオーク(John McGeoch: guitar)ら3人が加わって、7人組となるのですが、そのオリジナルメンバーでつくったのはデビューアルバムの『Visage』だけでした。

セカンドアルバム『The Anvil』(1982)ではマッギオークらが抜けて5人体制、さらにユーロも “ウルトラヴォックス” に行って、サードアルバム『Beat Boy』(1984)でガクンと売上が落ちると、1985年には解散してしまいました。2002年に復活するのですが、以降はストレンジのソロプロジェクトのような形なので、ここでは触れません。



ニューロマンティックがコンセプト、アルバム『Visage』のよさ


ファーストアルバム『Visage』は思いの外素晴らしい。特に1曲目の「Visage」から、「Blocks on Blocks」→「The Dancer」を経て4曲目「Tar」への流れは実にスリリングで心が踊ります。

“クラブで流すためにつくった” だけにダンサブルだし、「ニューロマンティック」というコンセプトだけにおしゃれです。はっきりしたコンセプトに向かっているからプレイヤーの自信が感じられます

5曲目に収録されている「Fade to Grey」はバンドのセカンドシングルとしてカットされると、全英8位のヒットとなり、ヴィサージの代表曲となったのですが、逆に私はこの曲のよさがわかりません。「we fade to gley」という掛け声みたいなフレーズが何度も繰り返され、フランス語で女性がブツブツと語り続ける。メロディのあるふつうの歌は8小節パターンが2回のみ。かと言ってリフやサウンドで聴かせるほどでもなく、ただ単調なダンスビートが続いていくだけという、なんだかとりとめのない曲です。グレーを基調としたアルバムジャケットとこの曲タイトルの統一性がキャッチーだったのかな。

でもキャッチーさでは、アナログならB面3曲目にあたる「Moon Over Moscow」ですね。歌は “ムー” とか “アー” だけのほぼインストなんですが、シンセによるテーマフレーズに中毒性あり。実はこの曲だけ聞き覚えがありました。昔、ラジオかなんかで流れたのでしょう、たぶん。ぶっちゃけ、ディスコでヒットした「ジンギスカン」みたいな感じの、ちょっとバカっぽい曲なんですが、今まで記憶に残っているというのは、やはり曲の強さだと思います。

全体的にいわゆるシンセポップなんですが、あのヤマハ「DX7」の発売は1983年ですから、まだアナログシンセサイザーしかない時代です。でもアナログシンセの音、好きですね。デジタルシンセは守備範囲が広すぎて、逆に個性がないと感じるのですが、アナログシンセはそれにしか出せないクセの強さで、少しでも入っているとサウンド全体がシンセ臭くなってしまうところが、短所でもあり魅力でもあります。

『Visage』でどんなシンセサイザーを使っていたのか、クレジットがないので分かりませんが、絶え間ない進化で、音や機能が改善され、次々と新製品も登場していた頃です。77年にはローランドから、本格的に “打ち込み” ができるデジタルシーケンサー「MC8」が発売されていましたし、78年には、今も愛好者がいる銘機「プロフェット5(Prophet-5)」が発売されました。今までできなかったことができるようになる。イマジネーションがグングン広がる。音楽家にとって、どんなに刺激的でワクワクする時代だったことでしょう。『Visage』からは、そんなミュージシャンの高揚感が伝わってくるような気がします。

そして、今でも気持ちよく聴けるのは、ドラム、ベース、ギターというリズムの “背骨” がしっかりしているからですね。シンセはあくまで “ウワモノ”、飛び道具です。“体幹” がしっかりしていないと、落ち着きのないウザったいものになってしまう。寿司はなんと言ってもシャリがよくないと美味しくないのと同じです(違うか…)。

短命でも大きな存在感


だけど、そもそもが、クラブで流す音楽を提供するためにつくった寄せ集めバンドです。『Visage』制作後はすぐバラバラになり、ミッジ・ユーロはビリー・カーリーと意気投合してウルトラヴォックスへの参加を決め、ジョン・マッギオークらマガジンからの3人は “スージー・アンド・ザ・バンシーズ”(Siouxsie And The Banshees)に参加してしまいました。ストレンジが彼らを説得して、なんとか4人を呼び戻して2枚目、3枚目まではつくったものの、わずか5年、実質2年程度という短い活動期間でした。実は、寄せ集めにも関わらず、ストレンジの方針だったのか、大半の曲のソングライティングにメンバー全員の名前がクレジットされていて、それが形だけでなく、「全員があれこれ口出しをするのがトラブルの元だった」とのちにユーロが語っているように、破局の要因でもあったようです。「船頭多くして船山に登る」ってやつだったんですね。



それでも、シンセポップとダンスビートを華やかなファッションと結びつけ、“スパンダー・バレエ”(Spandau Ballet)、“ウルトラヴォックス”、“カルチャー・クラブ”(Culture Club)、“デュラン・デュラン”(Duran Duran)、“ヒューマン・リーグ”(The Human League)、“ABC”、“アダム・アンド・ジ・アンツ”(Adam and the Ants)など多くの個性的なバンドを輩出した「ニューロマンティック」ブームの、先頭を走り抜けたヴィサージの存在は、たしかに貴重でした。

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2023.05.12
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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