11月1日

80年代オランダ産ゴス、クラン・オブ・ザイモックスが「4AD」を黒に染める

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クラン・オブ・ザイモックスのセカンドアルバム「メデューサ」がリリースされた日
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オランダ出身のゴスバンド、クラン・オブ・ザイモックス


半年ほどこの連載でマーティン・アストンの『4AD物語』を読み解きながら、このレーベルのゴスバンドを掘り下げているが、クラン・オブ・ザイモックス(別名ザイモックス)という、今も活躍中のバンドの最高傑作『メデューサ』について今回はお話ししよう。オランダ出身のこのバンドがいかにして英国のレーベルと契約を結んだかなど、まずはバンドの成り立ちから説明していきたい。

バンドリーダーであるロニー・ムーリングスはゴス界ではアイコン的存在だ。3才で音楽に目覚めた早熟な彼は12才のときに Zymotics(ザイモティクス)というバンドを組むが、紙面にバンドロゴが載ったときの見栄えの良さを考えて Xymox(ザイモックス)に改名。その理由が「ロゴにしたら有刺鉄線みたいだろ?」とのことで、確かに言われてみたら、頭と尻の “X” はそう見えなくもない。予言的中…と言っていいものなのか、後にデビューする時のバンド名はこれである。

その後ロニーはナイメーヘン大学で社会学を学ぶ傍ら、LAルインというバンドを結成、その後、レイスに改名。のちにエレクトロニカとゴシックを融合させた耽美的な作風を作る人とは思えぬ “ヘヴィメタル風” 音楽をやっていた… とロニーは黒歴史的に述懐している。「でもメロディアスだった」と苦しい言い訳もしているのだが。

暗黒美学に目覚めたバンドリーダー、ロニー・ムーリングス


ロンドンパンクが勃興した空気感とシンクロするように、70年代後半から80年代前半のオランダは経済的に停滞しており、政府への不平不満も高まっていた。大学生だったロニーも、核武装解除やスクウォッティングの権利(※1)を求めてデモ行為に励む熱い人だったようだが、D.A.F.(ドイチュ=アメリカニシェ・フロイントシャフト)に代表されるノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ドイツのニューウェーヴ運動)やジョイ・ディヴィジョンの出現に触発されて一気に内省的な方向にシフトした。『4AD物語』によると、ロニーはそうした時代の音楽を以下のように評している。

完全なるニヒリズムとシニシズムのための絶妙なムードを醸す、新たなインダストリアル・ミュージック…… 全身黒を着る者たちのサウンド・トラックだ。これはその時代のほとんどの若者、主に学生やドロップアウトした人間のライフスタイルにフィットしていた。


暗黒美学の目覚め、である。ロニーはバーテンダーで食いつなぐ傍ら、バウハウスやザ・バースデイ・パーティーといった同時代ゴスバンドのライヴを観る中でますます「誰も聴いたことがない音楽を作りたい」という欲望を高めていく。

アンカ・ウォルバートとの出会い、そしてピーター・ヌーテンの参加


そんな折にアンカ・ウォルバートという、バンド初期の中心メンバーとなる女性と、オランダ・ナイメーヘンのバーで運命的な出会いを果たす。「盛り上がってしまってその晩一緒に寝てしまった」とあっけらかんと振り返るロニーも、なかなか隅に置けない。

そしてアンカはベーシストにしてロニーの恋人になる。以前のコラムで紹介したコクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンスもそうだが、男女のカップルがバンドの中心メンバーになるというのは4ADの隠れた伝統のようだ(※2)。ただ大きな違いは、ロニー&アンカの二人は競争心が激しく、揉めに揉めたということだろうか。そんな中、オランダにギグでやってきたデッド・カン・ダンスのブレンダン・ペリーにロニーが手渡したデモがきっかけで、最終的にザイモックスは4ADと契約に至る。

続いてバンドに “第三の男” ピーター・ヌーテンが現れる。ADHDを患った彼がさらにバンドの不仲を助長することになるのだが、ロニー、アンカに次ぐ三人目のソングライターとしてバンドに貢献したことも確かだ。

内省的な “美” の中から見えてくる政治的外圧


このピーターがヨーロッパゴス勢の浸っていた空気感を伝えつつ、このバンドの追いかける “美” を雄弁に物語っている。以下、『4AD物語』の抜粋を熟読されたい。

80年代初期は鬱積した混乱の時代で、僕たちは常に戦争の恐怖に晒されていたし、経済は傾き、お先真っ暗だった。トレンドは「黒(black)」と「陰気(gloomy)」で、時代を取り締まる雰囲気は「憂鬱(depressing)」だった。僕はこの文化の中にいることに居心地の良さを感じていたけど、美の輝きのようなもの、より美的に満足できる何かを求めていたんだ。そしてジョイ・ディヴィジョンの『クローサー』の中にその美を発見した。それは僕の人生を即座に変容させるような力をもっていたんだ


これは興味深い言葉だ。ここで「辛い時代に美のきらめき(a glimmer of beauty in troubled times)」というマーティン・アストンの至言を追加爆撃すると、ゴスミュージックの美学が明確に伝わってくる。

拙著『ゴシック・カルチャー入門』(Pヴァイン)でも述べたことだが、パンクの政治的暑苦しさを嫌って、ゴスは敢えて非政治的な “趣味” に没頭した。しかし非政治的なありようそのものが極めて政治的というパラドクス。ジョイ・ディヴィジョンにせよ、今から語るザイモックスの『メデューサ』にしても、その内省的な “美” には、実は相当な政治的外圧がかかっていることが見えてくるのだ。

凄まじかったバンド内の軋轢、その真相は?


というわけで前置きが長くなったが、セカンドアルバム『メデューサ』がリリースされるわずか三か月前にチェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)が起きている。そうした放射能の “恐怖” と作品に内在する “美” をどこまで結び付けていいものか分からないが、作品の内と外の世界がまったく無関係だとは上述の文脈から言えまい。

このときのバンド内の軋轢は凄まじかったらしく、アルバムは「原発事故級の爆発」を何とかこらえて制作されたという。特にピーターとアンカの確執はたいそうなもので、「アンカはレコーディングで大した貢献もしてないのにギャラを貰いすぎだ」とピーターは不満を爆発させる。しかしアンカの作曲数が2、ピーターの作曲数が3なのだから大差はない。ただ、これはあくまでロニーの記憶であり、当の二人はこのような確執はなかったと否定している。真相は藪の中… というわけである。

ところで、ロニーという人物も強力なエゴの持ち主で、発言を鵜呑みにできないところがある。というのも、このアルバムからバンド名を “ザイモックス” から “クラン・オブ・ザイモックス” とクレジットするようにしたが、その理由が笑うに笑えない。「僕がミスター・ザイモックスというわけで、あとは残りの仲間(クラン)たちって感じかな」。なんて明け透けな……。

ダークウェーブの先駆け、群を抜いて異端な “オランダ産暗黒美学”


肝心のサウンドの方はどうかというと、セルフタイトルのファーストアルバムに見られた性急さや稚拙さが、芳醇なゴシック的アンビエントにまで昇華されている。

特にロニー作曲の「メデューサ」「ミシェル」「ルイーズ」「バックドア」の四曲はエレクトロニカとゴシックの融合が絶妙で、のちにダークウェーブと呼ばれるジャンルの先駆けをなしている。

ショッキング・ブルー、アース・アンド・ファイヤー、フォーカス、ゴールデン・イヤリング…… 70年代に活躍したオランダ産バンドは数あれど、ジョイ・ディヴィジョンを独自に咀嚼したクラン・オブ・ザイモックスの “オランダ産暗黒美学” は、やはり群を抜いて異端だ。


※1:スクウォットとは、住居の不法占拠を意味する言葉。70年代~80年代のオランダでは、このスクウォッティングが社会的な運動になった。

※2:本文にあります、男女のカップルがバンドの中心メンバーになる…という内容については、
■ 『コクトー・ツインズの原点「ガーランズ」呪術と電子工学の出会い』
■ 『異色のワールドミュージック? デッド・カン・ダンスの異教礼讃音楽』
…でも紹介されています。こちらも是非ご覧ください


2020.05.28
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カタリベ
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