10代の頃、渋谷は苦手な街だった。
1980年6月、大好きなラモーンズが 渋谷PARCO 内にある西武劇場(現:PARCO 劇場)でコンサートを演ることを知った。前座はシーナ&ロケット。1日2回公演を含む3日間のスケジュールを吟味、当時学生だったこともあり、初日と最終日を観る事にした。
当日渋谷の雑踏から延々と坂を登り、会場のある 渋谷PARCO を目指す。公園通りの壁画はこの年に発売されたアルバム『エンド・オブ・ザ・センチュリー』。気分が高揚したそんな時に限ってトイレに行きたくなった。
当時の 渋谷PARCO は館の規模の割にトイレが極端に少なかった。梅雨時の夕方、女子トイレはどの階も行列。困った私は地下の駐車場を目指した。基本、駐車場階のトイレは大抵空いているがこれが大誤算。後で判明したが、渋谷PARCO の駐車場は地下で全ての建物が繋がりだだっ広い上に迷路みたいになっていたのだ。
トイレを探すのも一苦労。これじゃ早めに来た意味が無い。広い迷路の様な駐車場を徘徊する事20数分… ようやくトイレのサインを発見する。小走りでようやく薄暗いトイレに着くが女子用トイレの入口は無情に「故障中」の張り紙。
もうまるでコント。私はここから無事に西武劇場に辿り着けるのか?
開演時間がせまる中、「魔の駐車場」で人気が無いのを確認し、意を決して人生初の男子用トイレに入った。狭い個室一室のトイレで無事に用を済ませ、心底渋谷が大嫌いになり個室のドアを開けたら、目の前に男性が立ってた。万事休す!
見上げる程大きい、革ジャンを着た長髪の猫背の彼こそラモーンズのボーカル、ジョーイ・ラモーンその人。時が止まるという体験は、この時が初めてだった。
私は咄嗟に「怪しい者じゃないの! 女子トイレが故障中で仕方なく男子用トイレを使ったの」と言いたいが「アイム・ソーリー」しか出て来ない。彼は優しく微笑んで小さなくぐもった声で何か言ったが頭の中が真っ白な私には上手く聞き取れない。私はたどたどしく英単語を連ねながら事情を説明し、彼はそんな私の話をずっと狭いトイレで頷きながら聞いてくれた。
「もうすぐショーだから後でね」
―― と握手し、私はトイレの外に出た。その後も、どの位「魔の駐車場」でさ迷ったか覚えていないが西武劇場に何とか辿り着くことができた。ラモーンズの一曲目はたしか「電撃バップ(Blitzkrieg Bop)」。約1時間で25曲位、ほぼノンストップのライブだったと思う。そこにいた皆が客席を乗り越えて前に行き私も押されてもみくちゃになりながら初体験尽くしの興奮と高揚に包まれた。
詳細はよく覚えていない。でも、ライブが終わったとき大嫌いな渋谷が少し好きになった。
2018.10.15
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