10月11日

クラシックでディスコ!「フックト・オン・クラシックス」と乙女たちの宴

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「フックト・オン・クラシックス」が全英アルバムチャートで最高位(4位)を記録した日
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おいしいところを数珠つなぎ「フックト・オン・クラシックス」


メンツを思い出すとおそらく小学六年生のことだったのだろう。友人宅に集まった5~6人がカーテンを締め切った居間を占領し、ローテーブルの周囲を回りながら踊り狂ったのは。同窓会になるとたまに話題に上がるエピソードだが、私の中でも子供時代に大笑いした出来事ベスト10に入る出来事だ。

多分最初は友人宅で日本から送られてきた『カトちゃんケンちゃん』の録画ビデオを見せてもらっていたのだと思う(当時私は父の仕事の関係で英国ロンドンに住んでおり日本人学校に通っていた)。彼女の家にはビデオという最新機器があり、さらに日本からテレビ番組を録画して送ってくれる素敵なご親戚がいらっしゃったのだと記憶している。

そこからなんで踊り狂ってしまったのかは忘れた。もしかしたらその年にあった修学旅行で行われた夜のお楽しみ会でやったディスコをまたここでやろう、という流れだったのかもしれない。最初は ABBA だったかな。もちろんレコードで。「ヴーレ・ヴー」ですごく盛り上がり、特に歌詞の「♪ Ah-ha」のところはやばかった(笑)。最初は照れもあったはずだけれど、輪になって踊るっていうのはちょっとした、いや、かなり強力な魔法なのかもしれない。「♪ Ah-ha」の度に私たちのテンションはエスカレートしていった。それにしてもレコードだったということは、何度もその曲をかけたことになり、大変だったに違いない。

そして友達が手にしたのが『フックト・オン・クラシックス』。たくさんの有名なクラシック音楽のおいしいところを数珠つなぎにした作品で、当時とても売れていたアルバムだ。レコード屋には、その黒地にボーダーのネオンで彩られ、尻尾? にフックがついた大きなト音記号が描かれたジャケットのポスターがたくさん貼ってあったのを覚えている。

クラシックをポップスに! 演奏はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団


“Hooked on” とは、くだけた表現で “夢中になる” とか “病みつきになる” という意味。その他、Hookの “引っ掛ける” “つなげる” などの意味からもなかなかイカすタイトルだ。今考えるとこれ(だってクラシック)でディスコってすごい。私たちは汗だくになってローテーブルの周りを踊り狂った。まさに荒ぶる乙女たちよ(笑)。

このアルバムは世界中でヒットし、その後、『フックト・オン・クラシックス2』『フックト・オン・クラシックス3』と発売され、どれもヒットするが、やはり最初の一枚の衝撃が素晴らしかった。クラシックをポップスへと翻訳した一枚である。

この曲のアレンジ、指揮をしたのがルイス・クラーク。演奏はロンドンを代表するオーケストラの一つ、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団。ちなみにドラクエシリーズの交響組曲などもこの楽団が演奏している。録音はアビー・ロード・スタジオ。

指揮のルイス・クラークは ELO のキーボーディスト


さて、ルイス・クラークは何者かというと、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のストリングアレンジやキーボードも担当している幅広く音楽活動をしている人。ELO の「エルドラド」や「ザナドゥ」にも彼の功績の跡が残る。若いうちにいくつかバンドを経験しているうちに自分は楽曲にクラシック的なアレンジを乗せるのが好きなことを発見し、そこから音楽を学ぶために大学へ。そこで学んだことがとても大きかったと言う。

そのクラークさんがビートルズを初めて聴いた時に「(それまでラジオから流れてくる音楽はアメリカのものばかりだったので)すごくイギリスらしくてすばらしい!」と思ったらしいけれども、私もこのアルバムはイギリス人らしさを感じていいなあ、と思ってしまう。例えば--

■ トランペット・ヴォランタリー / ジェレマイア・クラーク
■ アラ・ホーンパイプ (『水上の音楽(Water Music)』より) / ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデル
■ シバの女王の入城(オラトリオ「ソロモン」第3幕よりシンフォニア) / ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデル
■ 音楽の冗談 / ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

それこそ “英国王室といえばこの曲ね” というようなものから当時の週末の馬術競技の番組(というものがある。毎週ではないけれど馬だけでなく犬の競技番組もある)の主題曲だったり。ちなみに「音楽の冗談」は原曲よりもテレビの主題曲に近いかも。

そして私としては、モーツァルトへの絶対的信頼感と、チャイコフスキーとメンデルスゾーンで盛り上げるあたりもツボだ。

バッハからガーシュインまで、全106曲をアレンジ!


アルバムは全9曲だが、その中でアレンジされているのは106曲。どれも耳にしたことのある曲ばかり。音楽室には必ずと言っていいほど壁に飾られていた音楽家たちの写真。バッハからガーシュインまで。それこそ現代で言ったら “今年最大のヒットだった曲” というものばかりが詰め込まれている。

本来のクラシック音楽として聞くのであれば同じトーンに塗りつぶされているために不満もあろうが、それがゆえにそれぞれの曲の魅力が浮き彫りになる効果があって面白い。当然、二番煎じ的なものがたくさん生まれたわけだけれども、クラークさんのものには適わない。それはやはり、このアルバムは “新しいものへの挑戦” だったからだ。

おそらくオーケストラのメンバーの中には「なんでこんな演奏?」とか「どうでもいいけれど、恐ろしく早すぎやしない?」など様々な疑問を抱きながら演奏した人もいるだろうけれども、同時に新しいものを生み出しているという実感もあっただろう。

今の時代だったらほとんどが打ち込みで作れてしまうのかもしれない。それをオーケストラで演奏し、しかもライブとなればみんなで移動せねばならないし、贅沢な楽曲構成だ。

ひとつ、とても不思議なのはベートーベンの作品があまり目立たないように感じられ… ないだろうか? ちゃんと有名どころは押さえられているのだが。クラークさんはベートーベンがさほどお好きじゃないのか、好きすぎるのかどちらかであろう(それか、私の思い入れが強すぎるのか)。

さて、私たちの汗まみれの宴はというと、このアルバムの2曲目のゆっくりとした「フックド・オン・ロマンス」が流れると休憩時間となった。今振り返ると、ほんと、ディスコみたいで笑ってしまう。でもあの一部屋であったことを知ったらきっとクラークさんは大いに満足してくれるに違いない。

2020.02.06
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  Apple Music
 

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カタリベ
1969年生まれ
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