1月1日

80年代メタルのギター革命! イングヴェイ、そしてポール・ギルバートの衝撃

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マイケル・シェンカー、リッチー・ブラックモアに憧れて


コロナ禍におけるステイホームの影響で楽器が売れているそうだ。3月~4月にかけてネットショッピングでのギターの売上が、4割以上増加した楽器店もあるというのだから、コロナ禍にあえぐ音楽業界にとっては、朗報のひとつといえよう。

かくゆう僕も、この機会に暫くご無沙汰だったギターをいそいそと取り出して、練習し始めてみた。弾きたくなるのは、やっぱり80sのHM/HRの定番曲だったりする。80年代当時は、『小林克己のロック・ギター教室』のような定番の教則本や、ギター雑誌を使って練習に勤しんだけど、“タブ譜” の精度も低く、フレーズのコピーは容易な作業ではなかった。

けれども、今ではお金をかけずとも、Webの動画などを有効に使えば、いくらでも楽器を学ぶチャンスがある恵まれた時代だ。おかげで、かつて弾けなかったフレーズを、指がもつれながらも(苦笑)、幾つか弾けるようになった。

そんな久々にワクワクする体験をしていると、マイケル・シェンカーやリッチー・ブラックモアをはじめとした洋楽ギタリストなどをコピーしながら、「いつかプロのギタリストになりたい!」と夢見ていた頃を思い出した。

アルカトラスのギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーン登場!


完全な独学だったけど、夢中でギターを続けているうちに、始めて2~3年経った高校生の頃には、バンド活動もしながら、“それなりに” 弾けるようになっていた。このまま続ければ「ひょっとして夢が叶うんじゃないか?」なんて真剣に思い始めた頃に出会ったのが、イングヴェイ・マルムスティーンだった。

「グラハム・ボネットが率いる新バンド、アルカトラスのギタリストがスゴイらしい」―― そんな前評判が、どの音楽雑誌にも当時、センセーショナルに踊っていた。そして遂に、イングヴェイの日本でのお披露目となる、アルカトラスのデビュー作『ノー・パロール・フロム・ロックン・ロール』は、1983年末に発表された。

初めて聴く、まだ当時20歳だったイングヴェイのギタープレイは、思わず口をあんぐりと開けてしまう、異次元の速さだった。程なくして『ベストヒットUSA』で流れた「ヒロシマ・モナムール」のMVで、その動く姿を初めて観ることができた。

クリーム色のストラトキャスターを弾くイングヴェイの右手の動きは、軽く撫でるような “スウィープピッキング” を駆使しており、あまりに速すぎて、かえって動いていないように見えるほど流麗だった。

クラシック音楽のエッセンスを取り入れた “ネオクラシカル”


すっかりイングヴェイのギターの虜になった僕は、何とか少しでもコピーしようと試みた。そんな中で発表されたのが、初のソロ作『ライジング・フォース』だった。そこに収められたインスト曲の衝撃は、アルカトラスの比ではなかった。

自らが影響を受けたバッハをはじめとするクラシック音楽のエッセンスを、ロックギターに大胆に取り入れた “ネオクラシカル” と称される音楽性。そして、パガニーニのヴァイオリンでの技巧を、ギター奏法に置き換えた斬新な発想は、イングヴェイによって確立された。

この境地に達するために、彼は1日10時間以上、地下室にこもって練習を重ねたという。その逸話を知った時、北欧の凍てついた地で、黙々と速弾きの鍛錬を重ねる姿を勝手に妄想した。

イングヴェイの登場前後では、シーンのギタリストが目指す到達点や風景が明らかに変わり、影響を受けた数多くのフォロワーを生み出し続けた。HM/HRにおけるギター革命の観点で言うと、60年代がジミ・ヘンドリックス、70年代がエディ・ヴァン・ヘイレンとすれば、80年代のそれは、イングヴェイだったことに間違いない。

ロックギターの “虎の穴” 出身、ポール・ギルバート登場!


そんなイングヴェイすら凌駕してしまう、さらなる衝撃波を僕は受けることになる。それが、ポール・ギルバートだった。

80年代という新時代に相応しい、異次元のテクニックを競い合うパンドラの箱を、イングヴェイが開けて以降、世界中から雨後の筍のように、テクニック自慢のHM/HR系ギタリストが登場した。

その仕掛け人が、イングヴェイを発掘してシーンに紹介した、シュラプネル・レコーズを主宰するマイク・ヴァーニーだ。究極の千里眼を持つマイクのお眼鏡に叶ったのが、イングヴェイよりも3歳年下の若きギタリスト、ポール・ギルバートだった。

ポールがイングヴェイと異なるのは、独学に頼らず、高校を卒業後ロックギターを学校で習得した上でプロになったギタリストであることだ。ポールが学んだのは、ロサンゼルスにある、現代アメリカ音楽を教えるミュージシャンズ・インスティチュートのGIT(ギター)科だった。

ギターを教える学校の類は、当時から日本にも存在していた。けれども、プロギタリストの養成に専門特化して、その技術からアーティストの資質に関わる部分まで、現役のプロギタリストからも体系的に学べる、ロックギターの “虎の穴” 的な学校は、世界でも稀有な存在だった。

何より、反逆の象徴と言える “ロック” を、そのイメージとは真逆な “学校” で堅実に学び、そうしたギタリストがHM/HRシーンの最前線に登場してきた事実が、ある意味で驚くべきことだった。

GITで優秀な生徒だったポールは、わずか1年程度で卒業し、逆に自身が講師として教える立場になったという。そんな中で、ポールはマイクのプロデュースの元、ポールのギターを広く知らしめるためのバンド、レーサーXでデビューすることになった。

超絶高速フレーズ! レーサーXとしてバンドデビュー


そのデビュー作『ストリート・リーサル』を聴いた時の言葉にならない衝撃が、今も脳裏に残っている。まだ19歳の若きポールが奏でる冒頭の小インスト「フレンジィ」は、イングヴェイとエディ・ヴァン・ヘイレンを倍速で回したような、複雑で超絶な高速フレーズが展開されていた。

音質こそ良くなかったけど、本編のどの曲でも縦横無尽に、とにかく弾きまくる。粒立ちが揃った正確無比な速弾きは、もはや “光速” というべきレベルの類だった。曲芸的なプレイの数々を聴き終えた頃には、ぐったりして意識が遠のく思いがした。

それと同時に、自分とほぼ同世代の若者により、ロックギターの技巧がここまで進化したことに、「このレベルに達するのは不可能だ」と恐れを抱いた。その日以来、ギターを手にする時間が短くなり、プロのギタリストになりたいという思いが薄らいでしまったのは、皮肉なことだった。

イングヴェイとポール・ギルバートのギター革命


後日初めて観た、ポールが演奏する映像には改めて驚かされた。平均的な日本人の2倍はあるのではないかと思える長い4本の指を、あり得ないスピードで均等に駆使して、変幻自在に6本の弦をピッキングする様を目の当たりにした。

ポールもイングヴェイのごとく、1日8時間以上の練習を欠かさないという、我々の想像を絶する鍛錬を積んできた努力家だ。それに加えて、GITで確固たる理論に基づいてロックギターを学んだことが、70年代には存在しなかった完璧な技巧を備えたギタリストを生み出したことに、疑いはないだろう。

今ではイングヴェイやポールのような技量を持ち、速くプレイできるHM/HRギタリストは珍しくなくなった。その中の多くは、数多に増えた音楽学校でロックギターを学んだギタリストも少なくない。

そうした現代のギタリスト達の礎となり、強い影響を及ぼしたのは、イングヴェイが起こしたギター革命であり、それを深化させたポールの功績だろう。あの時、僕に衝撃を与えた2つのインパクトは、現代へと直接つながる大きなターニングポイントだったと、改めて思えるのだ。

2020.09.03
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  YouTube / Paul Gilbert


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