80年代の日本ポップスを代表する音楽家を3人挙げるとして、松任谷由実、桑田佳祐、山下達郎という人選に、異論はそれほどないと思われます。
ここで作曲家としての3人を考えてみたいと思います。3人とも深い音楽的知識を持っていて、現在に至るまで、素晴らしい作曲作品を生み出し続けています。しかし、バラエティ溢れる作風の松任谷由実、桑田佳祐に比べて、山下達郎の作品には、ある一貫した強烈な個性があります。
それは「メジャーセブンス」というコード(和音)の徹底的な多用です。正確にカウントしたことはありませんが、特に80年代の作品に限れば、9割以上の楽曲でメジャーセブンスを使っていると思います。
メジャーセブンス。記号では「maj7」「M7」「△7」。ごくごく簡単に(乱暴に)言えば、「ド・ミ・ソ」という普通のメジャーコードに「シ」という、奇妙でクセの強い音を混ぜたコード=「ド・ミ・ソ・シ」という音の組み合わせです。
このコードの、日本のポップスにおける歴史はそれほど古くなく、60年代後半に、日本のシンガーソングライターの先駆けと言える、加藤和彦(一説には、ザ・フォーク・クルセダーズ『オーブル街』が、日本のポップスで初めてメジャーセブンスを使った曲)や、かまやつひろし、加山雄三らが、おそるおそる使い始めたものです。
そして、70年代に入って、尾崎亜美と荒井由実という、PUFFYに先駆けた「アミ・ユミ」が、その使用頻度を高め、そして80年代、山下達郎が多用することで、日本の音楽シーンに一気に浸透したコードです。
その響きのイメージをあえて言葉にすれば、「おしゃれ」「都会的」「哀愁」「センチメンタル」ということになりますが、もっとピタっとはまる言葉として、70年代後半の流行語=「メロウ(mellow)」があると思います。
まぁ、そう思ってしまう要因として、尾崎亜美が南沙織に提供した、メジャーセブンスを多用した傑作メロディ=『春の予感(I've been mellow)』(78年)があるのですが。
え? 「山下達郎の作品のどこがメジャーセブンスなのか」ですって? いやいや、あれもこれもメジャーセブンスなのです。
あのシュガー・ベイブ『DOWN TOWN』のイントロも、あの『RIDE ON TIME』の歌い出しも、そしてあの、やたらと印象的な『SPARKLE』のギターイントロも、あれもこれもメジャーセブンス。
では、今回も、私自身のピアノで、『RIDE ON TIME』の歌い出しのメジャーセブンス(Gmaj7)を説明する映像を付けておきますね(下参照)。
初めの4つの音の重なりがメジャーセブンスの響き。その後、『RIDE ON TIME』の歌い出しの「♪ 青い~」。コードの話を分かりやすくするのは、実演しかありません。次回はギターも弾いちゃいますよ。
80年代とはシティ・ポップの時代で、シティ・ポップとはメジャーセブンスで、そして、そういう時代の響きを、中心となって作り上げたのが、山下達郎なのだと言えると思います。
では次回は、なぜこのコードがおしゃれで、メロウで、シティ・ポップな響きなのかを、音楽理論的に説明することとしましょう。果たして、コードの響きや印象を、論理的に説明できるのかどうか。ご期待下さい。
あ、私の新刊『サザンオールスターズ1978-1985』が出ました。ぜひご一読下さいませ(※下にインフォメーション、リンクページがあります)。
2017.07.24