前回、山下久美子のレコーディング、佐野元春作「So Young」の話で、“アレンジの伊藤銀次さん” なんてサラッと書きましたが、実は伊藤銀次さん登場の裏にはまたしても私の失敗物語が隠れているのです。
1st&2ndアルバムでは、60年代ポップス的な世界を基調に音作りをしていた山下久美子ですが、ライブでの盛り上がりなどを踏まえて、次はよりロック色を強めてみようという考えがありました。
それにはやはりギタリストによるアレンジがいいのではと思い、アルバムの半分は以前からつきあいのあった石田長生さんにお願いし、もう半分を、その頃仲良くなったギタリスト、Kさんにお願いしたのです。
Kさんとは、どうせやるならミュージシャンを集めて音を出しながらアレンジを練っていこうということになり、河口湖のほとりの合宿型スタジオでリハーサル合宿を行いました。
ところが……、どうもよくないのです。計4日間スタジオにこもり、いろいろやってみたのですが、アレンジがまったく面白くなりません。
Kさんはロック&フュージョンギタリストとしては凄腕でしたが、ポップソングをアレンジするということには慣れていなかったのだと思います。そこを見極めずに見切り発車してしまった私のミスです。
さて、困りました。もうレコーディングスタジオもブッキング済で、ミュージシャンのスケジュールも押さえてあります。しかしこのままレコーディングしてよい作品ができる自信がまったくありません。
この頃、もう木﨑さん(木﨑賢治)はほとんど私に任せてくれていました。私ももうアシスタントではなく自分が仕切る立場だぞと張り切り、少し得意にもなっていました。だけどこの状況を前にして、私はなす術なくオロオロするばかりでした。
合宿所から木﨑さんに電話しました。
泣きつきました。
当時のスケジュール帳を見ると、合宿が1980年5月25日から28日です。そしてレコーディングはわずか2週間後の6月11日から始まっています(先に石田長生チームでしたが)。
木﨑さんはたちどころに問題を解決してくれました。まず相応のキャンセル料を支払うことで、Kさんとミュージシャン全員をキャンセルしました。そしてピンチヒッターとして伊藤銀次さんに掛け合ってくれたのです。
早くも6月3日には、銀次さんと木﨑さん、久美子、私でミーティングをしています。銀次さんもびっくりしただろうけど、快く引き受けていただいたどころか、ロックでポップなすばらしいアレンジをしてくれました。
アルバムのタイトル曲「雨の日は家にいて」は大好きな曲で、今でも時々聴きますが、聴くたびに、自分の未熟さを思い知らされたあの事件をほろ苦く思い出します(まあ今でも未熟なんですが……)。
それにしても、銀次さん、よくスケジュール空いてたな……。
2017.05.17
YouTube / pp moon
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