1988年10月１日「J-WAVE」開局！音楽の聴き方を変えた新しいラジオ局の誕生

1988年10月１日「J-WAVE」開局

「昭和63年10月１日、午前５時。ただ今より、FMジャパンは本放送を開始いたします。J-WAVEの開局です！」

ーー 実質、昭和最後の年となった1988年の秋、遠藤泰子のアナウンスと、ジョン・カビラによる英語のステーションコールで産声を上げた東京の新しいFM局、J-WAVE。当初、スタジオの所在地は西麻布だった。

当時の私は、ラジオ好きの大学３年生だった。私が上京したとき、都内にはFM局がNHK-FMとFM東京（現：TOKYO FM）しか存在せず、J-WAVEは待望のFM第３波 。その前から試験放送は始まっていたが、正式に開局した後はどんな放送をするのかなと、開局初日からチューニングを合わせてさっそく聴いてみた。正直な感想を書こうーー。

“え、音楽だけ!? ”

流れてくるのは洋楽ばかり。しかも番組という概念もほぼなく、ひたすら曲、曲、曲のシャワー。それをナビゲーターと称したDJが、ネイティブな英語で紹介する。時報からジングルから、何から何までオシャレの洪水。AMラジオのように余分なトークはほとんどナシ。しかも、日本の音楽がほぼかからなかった。私は思った。

“これ、音質のいいFENじゃん！”

J-WAVEの名付け親はセゾングループの堤清二？

ここで、当時の世相について触れておく。開局から３ヵ月ちょっと経った1989年１月、年明け早々に昭和天皇が崩御。平成がスタートした。日本経済はバブルの真っ只中で、ハッキリいって日本中が浮かれていたし、世の中全体、カネが余りまくっていた。

そんな1980年代末、東京に新しい民放FM局を作ろうという動きに真っ先に乗っかったのが、セゾングループだった。西武百貨店やパルコを擁するセゾングループは、糸井重里ら新鋭コピーライターを起用したイメージCMや、独自の文化戦略を掲げて80年代を突き進んできた。J-WAVE設立もその一環と言えるだろう。

諸説あるが、局名の “J-WAVE” は、作家で詩人でもあった当時のセゾングループ総帥・堤清二氏が名付け親と言われている。思うに、開局当時の正式社名である “FMジャパン” という名称でのスタートだったら、同じラインナップの楽曲を流していたとしても、あれだけのブームは起こらなかっただろう（現在は社名も「株式会社J-WAVE」に統一）。

コンセプトは “More Music Less Talk”

なぜ "WAVE" だったのか？

単に電 “波” に引っ掛けただけではない。その頃の六本木には『WAVE』という音楽好きがみんな通ったレコードショップがあり、ここはパルコの子会社だった。ワールドミュージックに強く、ジャンル分けも独自。品揃えがとにかく異常で、海外に行かないと手に入らないようなニッチな洋盤も『WAVE』には置いてあった。しかも店員はみんな音楽通。１尋ねると10、いや100返してくれる人たちばかりだった。

当時、J-WAVEというステーションネームを聞いて、おっ、『WAVE』のラジオ版が始まるのか？ と受け取った人も多いだろう。実際、セゾングループ（というか堤氏）は局名にその意思を込めたのではないかと推察する。FMともAMとも名乗らず “WAVE” と称したところに、音楽文化・放送文化の新しい波を起こすぞといった意気込みを感じたし、開局当時に掲げたコンセプト “More Music Less Talk”（音楽を多く、トークはより少なく）は従来のラジオ局とは真逆。まさに放送界の “ニューウェーブ” だった。

で、またここで正直に告白するけれど、私はJ-WAVEを２、３日聴いて “あ、もういいや” と、聴くのを止めてしまった。なんか馴染めなかったのだ。もちろん音楽は大好きだし、洋楽も聴くけれど、自分はトークももっと聴きたい。曲メインにするのはわかるけど、こんなふうに思ったのだーー。

“これって、ラジオなのか？”

何を言ってるかなんて、どうでもいいんだよ。すべてはイキフンだろ

一方、余計な喋りは要らないから、オシャレな音楽をいい音質でいっぱい聴かせてよ！という層には、J-WAVEは大歓迎された。考えてみればそういうニーズに応えている局はそれまで存在しなかったから、ブームが起こったのは至極当然だった。

今でもよく覚えているが、それまで店内BGMとしてNHK-FMやFM東京を流していた店は、J-WAVEが開局すると同時に、一斉にそちらへ切り替えた。私がよく通っていた喫茶店と書店、理髪店がそうだった。店内にJ-WAVEを流すことは “時代の先端を行っている” というアピールになり、１つのトレンドでもあったのだ。また、私の周囲にいた音楽好きの間では 、最近J-WAVEばかり聴いているという人がやたらと増えた。中には、ドライブ用のカセットテープをいちいち作らなくてよくなったと喜ぶ人も。実際、そういう需要も大きかったように思う。馴染めない自分は少数派なのかとあらためて実感した（笑）

当時不思議に思ったのは、ナビゲーターが喋っている英語交じりの曲紹介を、リスナーはちゃんと聴き取れているのか？ という疑問。―― それが私が馴染めなかった理由でもあるのだが、熱心なリスナーの友人に聞いたら、答えはこうだった。

“何を言ってるかなんて、どうでもいいんだよ。すべてはイキフン（雰囲気）だろ”

この言葉は目からウロコだった。考えてみれば、英語ができない大多数の日本人リスナーは、洋楽を歌詞の意味もわからず “イキフン" で聴いている。じゃあ曲紹介もそれでいいだろ、というのは、善し悪しは置いておいて確かに一理ある。英語交じりの曲紹介はカッコいいジングルのようなものとして聴く人がいるということも１つの発見だった。こういうライト層を取り込んだことも、J-WAVEがすぐに軌道に乗った理由だろう。

クリス・ペプラーがナビゲーターを務める「TOKIO HOT 100」

さて、開局後数日でJ-WAVEから離れてしまった私だが、あれだけは聴いといたほうがいいという友人の勧めで、定期的にチェックしていた番組がある。クリス・ペプラーがナビゲーターを務め、開局時から現在も続いている『TOKIO HOT 100』だ。トウキョウじゃなく “トキオ”。100はヒャクじゃなく “ワンハンドレッド” と読む。

要はランキング番組だが、そこにランクインする楽曲は邦楽がほぼ皆無で、オリコンチャートの上位曲とはまったく異なっていた。基本、J-WAVEでのオンエア回数やリクエスト数を中心に、都内の主要CDショップの売上げランキングを加味した独自のチャートを作成。レコード会社や芸能事務所とのしがらみを排除して、局として、この楽曲、このアーティストを推していく” という姿勢は新鮮だった。

ちなみに、第１回チャートの１位曲は、フィル・コリンズの「A Groovy Kind of Love」（邦題：恋はごきげん）。上位曲はいくつか知っていても、下位になると聴いたことのない曲ばかりで、“ほぇ～” っという感じで聴いていた。イイなと思った曲をレンタル店に借りに行ったこともあるし、私にとっては洋楽コンシェルジュのような番組だった。

J-POPという言葉の発祥はJ-WAVE？

J-WAVEの純洋楽路線はここでも堅持され、開局当初、1989年の年間チャートHOT100にランクインした日本人アーティストは、佐野元春ただ１人。1992年に至っては１人もランクインしなかった。ここまで徹底されると、レコード会社の邦楽プロモーターとしては、どういう曲だったらJ-WAVEで流してもらえるのか？ と必死で考えるようになる。J-WAVEでのオンエアは、プロモーターにとっては大きな勲章でもあった。

歌謡曲臭がせず、海外のアーティストと比べても遜色のない楽曲ーー。たとえば久保田利伸の「Dance If You Want It」など、厳しい基準をくぐり抜けてオンエアされた邦楽曲は “J-WAVEでもかけられる日本のポップス” という意味合いから、やがてJ-POPと呼ばれるようになった。メガヒットが頻出した1990年代、もっと広義の日本発のポップスという意味で一般化したこの言葉は、実はJ-WAVEが発祥である。

J-POPの誕生、そして本来のラジオって？

やがてバブルが弾け、後ろ盾になってくれたセゾングループが経営不振に陥ると、J-WAVEは大きく路線を変えていった。スポンサーの意向に寄せた番組作りを求められるようになり、ゲストとのトークを重視した番組が増え、邦楽もかかるようになった。また、ピストン西沢がナビゲーターを務めた『GROOVE LINE』のように、洋楽だけでなくアニソンや歌謡曲もかける番組も現れた。私がJ-WAVEをわりと聴くようになったのは、実はその頃からだ。

また、UAやMISIAのように、自らナビゲーターを務めるアーティストも登場。開局から10年ほど経過した1999年の『TOKIO HOT 100』の年間チャートには彼女らのほか、宇多田ヒカル、スガシカオ、CHARA、Mr.Children、Dragon Ashなど、邦楽アーティストの曲が20曲近くもランクインしている。局の路線変更もあるが、同時に日本のアーティストの創る楽曲が “進化” した証しでもある。2000年には、椎名林檎の「虚言症」が邦楽初の１位曲となった。シングル曲ではなく、アルバム『勝訴ストリップ』収録曲というところが、いかにもJ-WAVEらしい。

2020年代、曲だけ聴ければいいという層の大多数はサブスクへ流れてしまった。ゆえにAMラジオではこのところ音楽番組がどんどん減り、トーク番組が増えている。これも時代の流れなのかもしれないが、ラジオを通じて様々な音楽を教えてもらい、作り手になった私としては非常に残念な傾向だ。

そんな中、J-WAVEは誕生の経緯からして、音楽と密接に関わっているFM局だ。今番組を聴いていると、トークと音楽のバランスがとてもいい按配になっているように感じるし、聴取率も上がっているのは興味深い。意外とそこに今後ラジオ局が生き残っていくヒントがあるんじゃないか？ だって、37年前、J-WAVEを聴いて “これってラジオなのか？” と感じたこの私が、今のJ-WAVEを聴いて “本来のラジオって、こうだよな” と思ったりするのだから。


Updated article：2025/10/01
Previous article：2022/08/13

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2025.10.01