明るい曲が流行ると景気は良くなるってホント?
「明るい曲が流行すると景気は良くなる」という学説があるらしい。なるほど、明るい曲はカラオケボックスに行ったら景気づけの一発目に入れたくなるし、そこに振付を加えて盛り上がりたくなる。確かに、明るい曲には人を能動的にさせたくなる何かがありそうだ。
“景気”という言葉の意味を分解すると、“空気の景色”、つまり “気分” が要素に含まれるという説も聞いたことがある。それこそ「いつも心に太陽を、くちびるに歌を」という詩もあるくらいだ。明るい曲が人々の気分、しいては経済に及ぼす作用というのは、何かしらあるだろう。
そんな事を考えていた時、ある一人の作曲家の存在が浮かんできた。80年代、明るい空気の裏には、いつもこの人の心弾むメロディがあった。そう、“サニーサイド・オブ・80年代歌謡曲”を語る上で、この作曲家の名前は絶対に外せない。その名は馬飼野康二さんだ。
作曲界のキングカズ、筒美京平と並び昭和ポップスを支えた馬飼野康二
昭和ポップス好きな人なら、馬飼野康二という名前は一度や二度は見聞きしたことがあるだろう。その知名度の高さの要因はやはり活躍期間の長さ。1970年代から2010年代、各年代でヒット曲を連発する馬飼野さんは、御年72。作曲界のキングカズと言いたくなるような息の長さだ。アニメ『忍たま乱太郎』の主題歌として20年以上歌い継がれている「勇気100%」は彼の作品である。また、男闘呼組、SMAPから嵐、Hey!Say!JUMP、Sexy Zone に至るまで、ジャニーズ事務所所属グループのデビュー曲の多くを手がけてきた事でも知られる(※1)。
作風はダイナミックでパンチがある曲が目立つ。「ブルースカイ ブルー」「愛のメモリー」「古い日記」etc. 挙げ始めたらキリがない。作曲界の巨人、筒美京平の影に隠れがちではあるものの、筒美・馬飼野の2人は、70年代以降の昭和ポップスを作曲で支えてきた両輪だと言っても過言ではないだろう。
そんな馬飼野康二は、80年代を代表する幾人かのアイドル達へ、彼らのターニングポイントとなる楽曲を提供している。共通項は “夏ソング”。今回、3曲ご紹介したいと思う。
笑顔満開!河合奈保子の出世作「スマイル・フォー・ミー」
まずは、1981年、河合奈保子「スマイル・フォー・ミー」。この年の夏、オリコンチャートで初のベスト10入り(4位まで上昇)を果たした、名実とともに彼女の出世作。それまでマイナー系の曲調が続いていた彼女だったが、やはり奈保子さんは、満開の笑顔で元気で明るい曲がぴったり!
「これを待ってた!」そう感じたファンも多かったのではないだろうか。僕もハート型のスマイルマークが付いたスタンドマイクが欲しかったなぁ。翌年も、馬飼野さんの作曲で「夏のヒロイン」がヒット。彼女の健康的な魅力は、夏という季節と馬飼野康二の明るくフレッシュなメロディの相乗効果で開花したのだった。
快進撃!小泉今日子の人気を決定づけた「渚のはいから人魚」
そこから3年後、1984年には、小泉今日子「渚のはいから人魚」。この曲で、彼女はオリコンチャートで自身初のNo.1に輝いた。「まっ赤な女の子」「半分少女」「艶姿ナミダ娘」の3連続ヒットで満塁のところ、この曲で走者一掃ホームランといったところか。まさにキョンキョンの人気を決定づけた1曲だった。
この頃の彼女は超スケジュール多忙で、『ザ・ベストテン』でも中継での出演が殆どだったのだが、僕が印象に残っているのは、柏市の豊四季台団地からの中継。団地の広場の仮設ステージに、時のアイドル小泉今日子が降臨!5月の中継だったにもかかわらず、夏祭りと見間違う程のギャラリーが押し寄せたのだ。まあ、今の時代だったらまずやらない類の中継だろう(笑)。
80年代有数のキラーフレーズ「♪ ズッキンドッキン!」を持つこの曲は、後年、なぜか笑福亭鶴瓶が、『笑っていいとも特大号』で物真似の定番として受け継いでいくこととなる。
セールス上昇!近藤真彦の元気印「ケジメなさい」
そして同じく1984年の、近藤真彦「ケジメなさい」。この曲でマッチ自身、低下傾向だったセールスが7作ぶりに上昇に転じただけでなく、『ザ・ベストテン』でも4週連続1位!久しぶりの大ヒットとなった。2019年に、本作を作詞した売野さんのラジオ番組に馬飼野康二さんがゲスト出演された際、売野さんが最も印象に残っている馬飼野康二ワークスとして、この「ケジメなさい」を挙げていた。
馬飼野先生曰く、もともとは、この「♪ ケ・ジ・メ~~」のフレーズはイントロとして作った部分だったというのだから驚きだ。それまでトシちゃんに比べてマイナー曲調が多かったマッチが、夏にこういう元気印の曲をヒットさせてくれた事が、当時小学生の僕は嬉しかった。振付もテレビの前でよく真似をしたものだ。
まさに再生可能エネルギー、馬飼野康二の飛び切り明るい夏ソング
さて、冒頭の「明るい曲が流行すると景気は良くなる」の仮説に話を戻そう。今回挙げた3曲は、商業的には充分 “成功” と評価できる結果を出し、30年以上経った今でも世間的な認知度も高い。いずれも紅白歌合戦歌唱曲となった事も、“その年の代表曲” のお墨付きを得た証と言える。まさに、夏男・馬飼野康二の面目躍如だ。
まあ、これらの結果を以て、馬飼野康二さんが80年代の夏の景気に影響を及ぼした、とまで言うのはさすがに大袈裟かもしれない。けれども、これらの飛び切り明るい夏ソングが、“太陽光エネルギー以上に人々の心にエネルギーをもたらしてくれた” くらいのことは言っても良いのではないか。そしてこれらは勿論、30年以上経った今でも、各家庭で使用できる “再生可能エネルギー” だ。
時は2020年、今年の夏は海水浴場もプールも、新型コロナウィルスの影響でその多くが閉鎖になるとのこと。そんな今こそ、馬飼野さんが産み出してくれた、これらの再生可能エネルギーの力を借りて、気分だけでも晴れやかに行きたいものだ。
7月4日(土)のイベントでは、アイドルからシティポップまで、夏に聴くべき最強のサマーチューンが続々登場! パネラーには、本記事を書いたカタリベ古木秀典サンをはじめ、「昭和ポップス」の提唱者さにーサンも参加します。昭和の夏を彩ったサマーソングについて、しゃべって楽しい観て楽しい!※1:男闘呼組のデビュー曲「DAYBREAK」は Mark Davis 名義で、SMAPのデビュー曲「Can't Stop!! -LOVING-」は Jimmy Johnson 名義で、それぞれ馬飼野康二が作曲した
2020.06.26