ドラマ「パパはニュースキャスター」主題歌、「Oneway Generation」
かつてTBSでは、田村正和主演による、無類に面白いホームコメディドラマのシリーズが放映されていた時期がある。その口火を切ったのが、1984年に始まった『うちの子にかぎって…』だった。それまで渋い二枚目俳優としての役どころを演じてきた田村が、コメディ路線に開眼した正にターニングポイントといえる重要な作品である。
このシリーズが無ければ、後の『古畑任三郎』のキャラクターも生まれなかったに違いない。その成功を受けての『子供が見てるでしょ!』を経て、同じく八木康夫プロデュース、伴一彦脚本によって作られたのが、『パパはニュースキャスター』である。1987年1月から3月までの放送。好評を得て後にスペシャル版も3本作られた人気ドラマであった。そしてそのオープニングテーマに起用されたのが、本田美奈子「Oneway Generation」だったのだ。
「1986年のマリリン」から始まった秋元康×筒美京平コンビの4作目
本田美奈子は1985年4月20日「殺意のバカンス」でデビューした。優れた新人アイドルが多数輩出された “85年組” のひとりで、4枚目のシングル「Temptation(誘惑)」で初のチャートTOP10入り。続く5枚目のシングル「1986年のマリリン」がブレイク作となった。1987年2月4日にリリースされた「Oneway Generation」は9枚目のシングルにあたり、「マリリン」から始まった秋元康×筒美京平コンビの4作目になる。
デビューからずっと作曲を手がけてきた筒美の作品の中でも殊にメロディのよさが際立つこの傑作は、中森明菜「TANGO NOIR」に阻まれて首位こそ逃したもののチャート2位を獲得し、『ザ・ベストテン』や『歌のトップテン』でも2位と、自己最高を記録している。
前作「the Cross -愛の十字架-」はゲイリー・ムーアの書き下ろし、この後の「CRAZY NIGHTS」はクイーンのブライアン・メイのプロデュースと、海外アーティストとのコラボレーションが頻繁になっていた中での正統派である1曲は、結果的に筒美京平によるシングル路線の最後となるわけだが、そのラストを飾るに相応しい秀逸な作品に仕上がった。
1980年代後期における筒美作品でも屈指の傑作と思われる。青春期特有の閉塞感を “一方通行” と表現した秋元康の前向きな詞と、そんな世代の苦悩や葛藤を打ち破るような希望に満ちた筒美メロディとが相俟って生まれた作品。揺るぎない歌唱力を兼ね備えた本田美奈子の歌声はもちろんのこと、忘れてならないのはアレンジを担当した大谷和夫の存在である。
大谷和夫アレンジによる完成度の高さ
ロックバンド “SHŌGUN” でキーボードを担当していた大谷は、ドラマやアニメの音楽のほか、歌謡曲のアレンジ仕事も数多く手がけた。それらの作品に共通しているのは、"躍動感" だった。代表作として西城秀樹「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」や「ギャランドゥ」が挙げられる。田原俊彦「恋=Do!」や「グッドラックLOVE」もまた然り。早見優「急いで! 初恋」も、活気溢れるイントロが魅力だった。
「Oneway Generation」にもそういった要素が感じられ、やはり大谷のアレンジによる杏里「CAT'S EYE」などにも通ずるゴージャスな雰囲気には、まもなくバブル期に突入する時代背景が反映されていたとおぼしい。リズムやコード進行がプリテンダーズ「ドント・ゲット・ミー・ロング」(1986年)に酷似していると指摘する向きもあるようだが、仮にインスパイアされていたとしても称えられて然るべき楽曲としての完成度である。
様々な要素が必然的な出会いを経て重なり合った時、後々まで語り継がれるような傑作が誕生するのだ。
歌手・本田美奈子の絶対的存在感
『パパはニュースキャスター』の第1話には本田美奈子も出演しているが、当時の姿が見られる映像にフルヴァージョンのPVがある。スレンダーで愛くるしい彼女の一体どこからあの力強い歌声が発せられていたのか、今さらながらに見入ってしまうPVで、歌手・本田美奈子の絶対的存在感を再確認して欲しい。
その後、女性だけのロックバンド “MINAKO with WILD CATS” を結成しての活動や、ミュージカル女優としても高く評価されることになるが、個人的にはアイドル時代の最後の輝きを見せてくれた「Oneway Generation」の彼女が頂点だった。当初デビュー曲に予定されていた「好きと言いなさい」や、筒美の自信作であったという「Temptation(誘惑)」のような王道アイドル路線の曲ももっと聴いてみたかった。
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2023.02.04