6月1日

ユニコーン「服部」ロックを嗤うロックバンドの覚醒

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photo:SonyMusic  

1989年、バンドブーム真っ只中。無数の若者たちが “二の線でいくか三の線でいくか” 運命のY字路を選んでいた頃、その中央にある建物をよじ登る奇策に出た5人組がアルバムを出した。ユニコーンのサードアルバム『服部』だ。

もともとプロデューサーの助手だった ABEDON(阿部義晴)が正式加入し、現行メンバーが揃った初作でもある。ボーカルを務めるのは奥田民生、EBI、ABEDON の3人だが、ソングライティングにはすでに5人とも参加している。

収録曲のうち、テッシーこと手島いさむ(ギター)作品は「デーゲーム」と「珍しく寝覚めの良い木曜日」の2曲。風貌は典型的な HR/HM 系でいて、当初からフォーキーな作風を得意としていたようで、歌の譜割りが明瞭で口ずさみやすい。おそらく彼らの活動旧史(1987~93年)において、民生以外の作品で最も有名なのは「デーゲーム」と「自転車泥棒」だろうから、テッシーは採用率が比較的低めながらも"打率"は高かったといえる。

一方、伊達男の EBI(ベース)は “傾向が定まらない作風” がすでに定まっている。3拍子だったり5拍子だったりするヴォードヴィル調の「ペーター」と、ラテンで始まりパンクで終わる「君達は天使」の2曲。どちらも流行歌然としたストーリーテリングからかけ離れた歌詞であり、自身の澄みきったハイトーンボイスで歌われるから余計に変態めいて響く。昔も今も、EBI だけはメンバーとほとんど共作をせず野放し状態だ。

そんな彼とは反対に、共作で本領を発揮するのが最年長者の川西幸一(ドラムス)。前年発表の1曲「ペケペケ」がユニコーンの方向性を決定づけたとする見方があるが、書いたのは川西&民生コンビである。『服部』では、無名の子供に歌わせた「ジゴロ」で作曲、定番の「おかしな2人」「人生は上々だ」で作詞を担当している。ノベルティソング一筋の男。とりわけその軽妙な詞才は、民生への影響面も含めてもっと語られるべきものだ。

そして、唯一立ち位置が今と違うのが ABEDON(キーボード)。持ち歌の「人生は上々だ」では意外にも補作詞のみ。単独作は民生が歌う「逆光」で、コレは明らかにアルバムのトータリティを考慮して採用された趣だ。上京前から結束されていた広島県民の輪の中で、最年少の他県民がレコーディングの裏まわしを課せられたのだから相当大変だったろう。

それでもコメディリリーフとしての徹底ぶりが功を奏し、以後彼の引率力は着実に増していった。今日では、川西に代わりバンドリーダーと目されている。

なお、表題曲や「大迷惑」をはじめとするその他の楽曲を手がけた絶対的エース、奥田民生の才能等々については割愛。当時から天才だ。総じて、ひとを喰ったことばかりするのに結局かっこいいバンドであるのは、このアルバム以降ずっと変わらない。

2000年代後半から、洋邦問わずバンドシーンで再結成の報をよく見聞するようになった。はじめはブームの一種と認識していたけれど、どうやら違う。ロックミュージシャンという生業が当初の定説よりもだいぶ永くやって構わないのだと分かるに伴い、バンドがやり直して構わない選択肢に変わったのが、世界的にその頃だったのだろう。

有名バンドの再結成組において、ユニコーンの活躍は異例中の異例である。

一度解散したのが1993年、再結成が2009年。彼らの第一手は、ありがちなベスト盤ではなく、ヒット曲のリメイク盤でもなく、録って出しのライブ盤でもなく、メンバー全員がかつてと変わらず作詞・作曲・ボーカルを務めた完全新作だった。

それでいてオリコンチャート週間1位を獲得。その後も “同窓会” に終始する気はさらさらないというクリエイティヴなスタンスを貫き、現在のすばらしい日々に至る。

ここまで隙のない現役感と成功を見せられると、16年ものブランクは必然だったのだとファンも認めざるを得ない―― と同時に、彼らが『服部』で確立した唯一無比のバンドマジックを彼ら自身ずっと忘れずにいたから、皆いい意味でオトナにならずに再会できたのだろうなとも思う。


※2018年6月1日に掲載された記事をアップデート

2019.06.01
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カタリベ
1982年生まれ
山口順平
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