12月21日

中森明菜のクリスマスアルバム「SILENT LOVE」伊集院静が紡ぐショートストーリー

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中森明菜のミニアルバム「SILENT LOVE」がリリースされた日
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数多く存在するアイドルのクリスマスソング


何年か前に友人とご飯を食べていた時に、隣のテーブルから会話が聞こえてきた。隣のテーブルの構成は、課長クラスの上司ひとりと新入社員らしき男女ふたり。そのテーブルはいつしか音楽の話題になったので思わず聞き耳を立てると、何故か松田聖子の話題になっていた。その上司は「赤いスイートピー」はユーミンが松田聖子に提供した曲なんだぞ!」と、酒も入っていたせいかやたら上機嫌に話をしていた。それを聞かされている部下の反応がいまいち薄かったのが気にはなったが、上司は追い打ちをかけるように「恋人がサンタクロース」はユーミンが松田聖子に提供した曲なんだぞ…」と会話を続けた。事実というのはいつしかこのように捻じ曲げられて伝わっていくものなんだろうな… とその時に思った(笑)。

実は、この「恋人がサンタクロース」が松田聖子のオリジナル曲だと思っている人は結構多くて、収録したアルバム『金色のリボン』の大ヒットの影響が大きいかもしれない。この『金色のリボン』はLP20万枚、カセット10万本の完全生産限定の2枚組仕様で、1枚が「Blue Christmas」、1枚が「Seiko・ensemble」と名付けられていて、「恋人がサンタクロース」のカヴァーは「Blue Christmas」サイドに収録されている。もちろんこのアルバムは大ヒットになり、当然のようにオリコンの1位を獲得している。



念のために説明すると、「恋人がサンタクロース」は、松任谷由実が1980年12月1日にリリースしたアルバム「SURF&SNOW」に収録されたクリスマスソングだ。この曲の影響でクリスマスは、恋人たちの重要なイベントになったほど、影響力の大きい曲だ。

80年代アイドルによるクリスマスソングは数多く存在するが、クリスマスソングは短い期間しか聴かれないこともあり、あくまでもアルバムの中の1曲という立ち位置の曲が多い。2004年にソニーミュージックからリリースされた「アイドルクリスマス」というコンピレーションがあるが、TOPアイドルのクリスマスソングを中心に17曲が収録されていて、これがとても素晴らしい内容なのだ。ちなみにこのアルバムには、松田聖子、中森明菜をはじめ、南野陽子、おニャン子クラブ、早見優、原田知世、岩崎良美などのアイドルのクリスマスソングが収録されている。

アイドルのクリスマスソングは数多く存在するが、クリスマスアルバムとなるとこれまた別の話で、リリースできるのはほんの一握りの恵まれたアーティストだけなのだ。1982年に松田聖子『金色のリボン』、1983年のクリスマス時期にシンガーソングライターの石川優子が『Christmas』というクリスマスアルバムをリリースしている。この2枚は個人的に特別なアルバムで、毎年必ず聴いている愛聴盤だ。そして、もう一枚が1984年に発売された、今日のメインテーマである中森明菜のクリスマスアルバム『SILENT LOVE』である。

明菜がストーリーテラーになったクリスマスアルバム「SILENT LOVE」


中森明菜は82年にデビューしたのち、毎年2枚のオリジナルアルバムをリリースしているが、どれも高セールスを記録しており、当時のニューミュージック系のアーティストにも引けを取らない存在感を示していた。中森明菜の作り出す歌の世界はどの曲にも背景にストーリーがあり、明菜自身が物語のストーリーテラーのような役割を果たしていたと言ってもいいだろう。それゆえに、その世界に入り込み抜け出せなくなっている自身の姿を、歌番組で幾度も目撃している。80年代アイドルのクリスマスソングは、とにかくキラキラとしたポップな曲が多く、恋人と過ごすクリスマスを心待ちにする可愛らしい主人公がほとんどだ。しかし、1984年に発売された中森明菜の4曲入りクリスマスアルバム『SILENT LOVE』は、明菜がストーリーテラーになった、それまでになかったタイプのクリスマスアルバムなのだ。

1984年の中森明菜といえば、シングル「北ウイング」「サザン・ウインド」「十戒 (1984)」「飾りじゃないのよ涙は」という代表曲を連発した1年で、その1年を締めくくるかのように発売されたのが、この『SILENT LOVE』だ。発売日が1984年12月21日だったので、「クリスマスはこのアルバムを聴け!」とばかりに(笑)、クリスマスの直前にリリースされているのも当時の人気を物語っているようだ。



このアルバムは40万枚完全限定盤でリリースされ、国際郵便の包装風なジャケットになっており、アルバムのコンセプトに沿ったデザインになっている(見たことはないが、ファンクラブ限定のジャケットも存在するらしい)。

作家・伊集院静が手がけたショートストーリー


『SILENT LOVE』は作詞を手がけた伊達歩(伊集院静の作詞家のペンネーム)が手掛けたショートストーリーによるコンセプトアルバムになっていて、主人公はDANとREI(ちなみに “檀れい” が宝塚に入団したのは1990年なので、本作とはいっさい関係ない)。198X年12月12日から12月25日のクリスマスまでのストーリーが描かれていて、作詞:伊達歩、作曲:井上大輔、編曲:瀬尾一三が手がけているので、全体的に統一感を持った作品になっている。

この先は、結構妄想入ってますのであらかじめご了承ください――

主人公のDAN(男)とREI(女)の始まりは、12月12日のベイサイド・横須賀だ。1曲目の「BLUE BAY STORY」でふたりの物語は始まるが、とてもクリスマスアルバムとは思えないツッパリ路線のサウンドから始まる。そして2曲目の「LITTLE PARTY」でガラッと雰囲気が変わる。それもそのはず、舞台は海のそばに住むDANの部屋だ。きっと二人は結ばれ、ツッパリ気味だったREIは女になったのだろう…。

この「LITTLE PARTY」は、のちに竹内まりやが書き下ろした「約束」にも似た3連のバラードだ。そして、舞台はいきなりエアポートへ。曲は「TERMINALまでのEVE」だ。彼がクリスマスイブに海外へと旅立ってしまうので、見送りに行ったREIは赤いドレスでオシャレをしている。でも、それには気付かない鈍感なDAN。REIは可愛いクリスマスカードを送ってほしいとDANにせがみ、舞台はクリスマス当日のREIの一人の部屋に。

続く「星のX’MAS‐BERRY〜A TENDER STAR」では、〜こんな可愛いカードをどんな顔をして買ったの〜とあるように、ピンクのクリスマスカードがREIの部屋に届く。きっと照れながらDANはREIのためにカードを買ったのだろう。次の日にカードが届くのは時間軸に無理があるが、この際細かいことはいっさい気にしない。曲はフェイントをかけるようにギターソロが激しく唸るマイナーコードのバラードで、個人的にはそっちの方が気になるが、そこから組曲のように曲は「A Tender Star」と転換し、急にサウンドが優し気な雰囲気に…。そこでDANとREIの物語は、離れ離れだったとしても、幸せな気分に包まれたまま幕を閉じる…。これがざっと『SILENT LOVE』のストーリーだ。

是非今年のクリスマスは中森明菜の『SILENT LOVE』を聴きながら過ごしてみてはいかがだろうか? あれから38年、DANとREIは子宝に恵まれ、今では多くの孫たちに囲まれてクリスマスを過ごしていますように…。と余計な妄想をしながらコラムも幕を閉じたいと思います(笑)。

今年はクリスマスイブとクリスマスが土日なので、みなさま良いクリスマスをお過ごしください。12月25日(日曜日)の23時から放送される、僕のレギュラー番組『ラジオ歌謡選抜』(FMおだわら)はクリスマスソング特集なので、是非聴いてくださいね。最後は宣伝です(汗)。

それではみなさま、MERRY CHEISTMAS!

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2022.12.23
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カタリベ
1967年生まれ
長井英治
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