日本クラウンのポップス系レーベルであるPANAMは、2025年に設立55周年を迎えた。今年3月にはPANAMレーベルの楽曲、全133曲を収録したアルバム『PANAM Archives 55th Anniversary』が配信リリースされ、さらに同レーベルの名曲を、様々なアーティストがリメイクカバーする企画『PANAM 55/100 SUPER SONG COVERS』もスタートするなど、にわかに活気づいている。
そして今月から、1970年代のPANAMで活躍したレジェンド級のビッグアーティストを紹介していく企画がRe:minderでスタートした。その第1弾としてピックアップするのはもちろん南こうせつ。日本のフォーク史に欠かせないレジェンド級アーティスト、南こうせつのPANAM時代を振り返る後編は、1978年から1979年にかけての作品群を紹介していきたい。
「夏の少女」のモデルは榊原郁恵? 1975年のソロ転向1作目となるアルバム『かえり道』と、これに続く『ねがい』でソロ活動を軌道に乗せた南こうせつだが、1977年には2曲の重要なシングルを発表している。
その曲とは1977年1月発売の「愛する人へ」。アコースティックなサウンドによる温かくメロウな曲調。「旅の宿」や「落陽」など、吉田拓郎への作詞で知られる岡本おさみが描く世界は、フォークシンガーとしての主張や社会への目配せをさりげなく込めながらも、愛する女性への思いを訴えかけてくる。
VIDEO もう1曲は1977年6月5日発売の「夏の少女」。当時のトレンドであったウエストコーストサウンドを意識した楽曲で、南の温かな歌声と、夏らしく爽やかな曲調がマッチしている。南が敬愛する加山雄三の世界にも近い作風で、この “少女” のモデルになったのは、のちに本人が明かしたところによると、デビュー間もない頃の榊原郁恵だったそうだ。当時、雑誌『週刊プレイボーイ』(集英社)に榊原が水着姿で海辺に佇むグラビアを見て、すぐにサビの部分のメロディーが浮かんだという。
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オリコンアルバムチャートで初の1位を記録した「今こころのままに」 この2曲を収録した3枚目のソロアルバム『今こころのままに』は、同年6月25日に発売され、オリコンアルバムチャートで初の1位を記録した。作詞は岡本おさみと喜多条忠が3曲ずつ、伊勢正三が1曲、5曲が南こうせつ自身の手によるもの。編曲は水谷公生が3曲を手がけたほかは、木田高介がアレンジを担った。
サウンド面は多彩で、喜多条作詞の「くれない丸」は、ドラムの代わりに森谷順のパーカッションが静かに響く中、南自身と女声コーラスグループ、シンガーズ・スリーによる流麗なコーラスが印象深い。水谷編曲の「どうせ人生に迷うなら」はまさかのラテンディスコ調で、水谷のギターと武部秀明のベースがリズムを刻み、ラリー寿永と斉藤ノブのダブルパーカッションが情熱的なサウンドを奏でる。熱量の高いロッカバラード「にぎやかな夕暮れ」では間奏の水谷のギターソロがエモーショナルな感情を誘発する。
「僕のグラフィティー」は南こうせつのシックスティーズ讃歌で、ロックンロールへの憧れと青春時代への回顧を歌ったナンバー。コーラスには南と木田に加え、元ガロの大野真澄と、レーベルメイトの大貫妙子が参加している。一方、歯痛をテーマにした「けんきょ」などコミカルなフォークソングも収録されており、新しい風を取り入れつつ、従来のファン層にも支持される楽曲がバランス良く収録されたアルバムと呼んでいいだろう。
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小林麻美出演のCMソングに起用された「夢一夜」 翌1978年10月にはシングル「夢一夜」を発表。この曲は資生堂・78年冬のキャンペーンソングとして『サイモンピュア』のCMで使用された。竹久夢二の日本画を想起させる和のビジュアルに “素肌有情” “素肌美人” などのキャッチコピーがつけられ、モデルを務めた小林麻美が和服姿でしっとりと佇むその風情が評判となる。
作詞はこの当時、山口百恵のヒット曲を書いていた阿木燿子で、南こうせつとは初の組み合わせ。阿木の歌詞を受け取った南は、あまりに素晴らしい内容にプレッシャーを感じてしまい、通常は1日で仕上げる曲作りが、1週間経っても出来上がらなかった。ある時、南の妻がベートーベンのピアノソナタ第17番「テンペスト」の第3楽章をピアノで弾いているのを耳にし、そこから着想して歌い出しの部分のメロディーが完成したという。
女性視点での歌詞は、南こうせつの柔らかなボーカルで表現されると、女性歌手が歌うよりも一層美しく艶やかに響き、しとやかな大正ロマンの風情が伝わってくる。かぐや姫時代に幾多の楽曲を編曲した石川鷹彦による抑えめのアレンジも魅力的だ。そして、ソロデビューからここまでのシングル4作はいずれも濃密なラブソングか、女性賛美を歌った内容となっていることもこの時期の特徴だ。
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メロウなトーンの和製AORアルバム「こんな静かな夜」 「夢一夜」はオリコン3位まで上昇する大ヒットとなり、ソロシングルでは最高売り上げを記録した。翌月にはこの曲を収録した4枚目のソロアルバム『こんな静かな夜』が発売され、こちらもオリコン1位を獲得。参加ミュージシャンはギターが水谷公生、ベースが武部秀明、ドラムが島村英二と森谷順、キーボードに山田秀俊、田代真紀子、佐藤準ら。
岡本おさみ作詞のカントリーポップ調「オハイオの月」、南自身が作詞したライトメロウなAORサウンド「つぶやき」などで新たな側面を見せてくれながらも、阿木燿子作詞の「冬仕度」では、かなり具体的な描写で叙情派フォーク時代の名残を感じさせるてくれる。表題曲や「流れ星」「時は流れて風が吹く」といったアコースティックな手触りの曲では、聴き手の心に寄り添うような歌の上手さを堪能できる。全体的にアコースティックなムードに回帰しながらも、メロウなトーンの和製AORアルバムと呼べそうだ。
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叙情派フォーク隆盛の立役者である南こうせつ 1970年代後半、フォークは若者に支持される人気ジャンルとして存在感を放っていた。吉田拓郎は井上陽水らとフォーライフレコードを設立し、1975年と1979年には大規模なオールナイトコンサートを開催するなど活発な動きを見せていた。グレープを解散しソロに転じたさだまさしや、新進の松山千春や長渕剛らも大きな人気を獲得している。その中で、シーンの立役者である南こうせつは、フォークの生活感や親近感をキープしながらも、サウンド面では多彩な顔を見せていった。
この後、1979年から同じ日本クラウンの新レーベル “ORPLID” で作品を発表、1981年にはキャニオン・レコード(現:ポニーキャニオン)へ移籍するが、2001年には再びPANAMへと復帰し作品を発表している。PANAMと同じくキャリア55年を迎えた南こうせつは、昨年日本武道館で恒例イベント『サマーピクニック』を開催、同年の第75回『第75回NHK紅白歌合戦』への出場経て、今なお健在ぶりを発揮している。
この記事の前編はコチラ
《四畳半フォークを覆す南こうせつの多彩なる音楽性!神田川だけじゃないJ-POPの先駆け ① 》
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2025.12.27