デビュー50周年のツアー「The Journey」の真っ最中のユーミン
ユーミンは現在、デビュー50周年のコンサートツアー「The Journey」の真っ最中だが、筆者が初めて観たユーミンのコンサートは、1983年2月6日にNHKホールで行われた『PEARL PIERCE〜ようこそ輝く時間へ〜』ツアーの最終公演だ。アルバム『REINCARNATION』発売の直前だったということもあり、アルバムから「NIGHT WALKER」「ハートはもうつぶやかない」を特別に披露してくれたことをまるで昨日のことのように思い出す。コンサートが終わり、歩いた夜の表参道がやたらキラキラ輝いて見えたのは、きっとユーミンマジックにかかったせいで、その魔法はあれから40年を経た現在でもまだ解けないままでいる。
まあ、そんな個人的な思い出はさておき(笑)、ツアー最終日の2週間後にニューアルバムがリリースということは、つまり60公演行われたツアー中にアルバムを制作していたわけで、改めてユーミンの創作意欲と体力に感服するばかりである。
当時耳馴染みのない新感覚のワード「REINCARNATION」
1983年2月21日に発売された『REINCARNATION』はユーミン通算14枚目のオリジナルアルバムだが、アルバムタイトルは当時耳馴染みのない新感覚のワードであった。『REINCARNATION』は “輪廻転生” という意味で、サンスクリット語のサンサーラに由来し、命あるものは何度も転生し生類として生まれ変わるという思想だ。しかし、ユーミンの手にかかると決して宗教チックな楽曲にはならず、ロマンティックなラブソングに生まれ変わるから不思議だ。“輪廻” という言葉は現代ではかなりメジャーなワードになったが、ユーミンのアルバムなくしてはここまで広まらなかったかもしれない。
「REINCARNATION」は、1981年のコンサートツアー「水の中のASIAへ」の中で披露されていた曲で、30メートルのドラゴンのセットに乗りながら歌われた曲だが、アルバムとはかなり歌詞が違う。Aメロの部分の歌詞は以下の通りだ。

私は催眠術師
今から3つ数えると
あなたは心を開き
記憶のビデオが逆さに回りだす
生まれる前の世界へ
しばらく入っていくと
あなたはしゃがれた声で
滅びたアジアの言葉を話し出す
当時のユーミンが、アジアに対して感じていた神秘やロマンの気持ちがこの歌詞に投影されているが、この時点ですでに前世というテーマを扱っている部分がとても興味深い。
アルバムに収録されている「REINCARNATION」は、万人にもわかりやすく歌詞が書かれているのが特徴で、愛する恋人は前世でも愛しあっていて、来世でも必ずあなたを見つけてみせるというロマンティックなラブソングに生まれ変わっている。このアルバムの発売から2か月後に、ユーミンが原田知世に提供した「時をかける少女」がヒットしているが、この曲にも時を超えて愛する恋人たちが描かれている。
散りゆく桜に思いを馳せる名バラード「経る時」
“女の第六感” という恐ろしい言葉があるが(笑)、収録曲の「ESPER」はそんな第六感をテーマにした曲だ。多くの人々は霊感のようなものを持ち合わせているわけではないが、普段誰かのことをふと考えていたら街でばったり会ったり、急に連絡が来たりすることはないだろうか。そんな目に見えない感覚を我々にわかりやすく、曲を通じて教えてくれるのがユーミンなのだ。

人気バラード「NIGHT WALKER」は、雨の深夜の霞町辺りが舞台になっているが、”あの頃に ハネをあげて走っていきたい” というフレーズが印象的だ。「心のまま」「星空の誘惑」は、現在行われているコンサートツアー「The Journey」の中で歌われている重要な曲なので、今回改めてこのアルバムをご紹介出来てとても嬉しい。
アルバムのラストに収録されている「経る時」と「REINCARNATION」は、対の関係性にある1曲で、今はなき千鳥ヶ淵沿いのフェヤーモントホテルのティールームから散りゆく桜に思いを馳せる名バラードだ。花は散っても、季節が廻ればまた花が咲くように、肉体が滅びても魂はまた生まれ変わるという、アルバムのテーマがこの曲にも投影されている。2001年に発売されたアルバム『acacia(アケイシャ)』のテーマは「アカシックレコード」だったが、タイトルナンバー「acacia(アカシア)」の「懐かしい未来」というワードがまるで「REINCARNATION」の続編のように響いてくる。
“懐かしい未来、新しい過去” 、新感覚のコラボアルバム「ユーミン乾杯!!」
12月20日に発売されるユーミンのコラボレーションアルバム『ユーミン乾杯!!』は、ユーミンの原曲マルチテープの一部を用い、当時のデータとアーティストがセッションするという新しい制作手法により制作された新感覚のアルバムだが、キャッチはなんと “懐かしい未来、新しい過去” 。 “新しい過去” というのは、とても新鮮なフレーズだ。つまり昔の辛い思い出も、現在の自分の生き方次第では、きっと新しい過去になるのだと勝手に深読みをしているのだが(笑)、そんな個人的な理屈抜きで、純粋に今からこのアルバムが楽しみでならない。

筆者自身は、魂の生まれ変わりを100%信じているわけではないのだが、バカリズムが脚本を手がけたドラマ『ブラッシュアップライフ』を見ていたら、同じ人生を何週もやり直すのも面白いなと思えてくる。初めて会った人なのに、どこかで会ったような気がしたり、偶然に会った人が運命の人だったりする見えない力というのはきっと存在していて、そんな説明がしにくい複雑な感情を、ユーミンはこれまで歌を通して我々に教えてくれていたんだということを、今回改めて再確認できたような気がしている。
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2023.12.03