バブル景気の最中、僕はまだ10代前半だったので、浮かれた喧騒の中に身を置いていたという自覚がない。
ジュリアナもマハラジャも TV の中の出来事として終わった。けれども唯一、オレはあの時確かにバブルの恩恵を受けていた! と納得できる経験がある――。
それはゲームセンターでセガのカードライブ・ゲームに出会ったことだ。今思えばこれが実にバブリーなゲームだった。
86年から稼働した『アウトラン』はクルマの運転席とゲーム画面が一体となった巨大な筐体を持つ体感型ドライブゲームである。当時のセガは、この手の遊園地っぽい体感型ゲーム開発を得意としていて、『ハングオン』(バイクレース)や『スペースハリアー』(シューティング)といった名作ゲームを連発していた。
いずれもゲームセンターの花形機種であり、ゲームが上手いとちょっとしたヒーロー気分が味わえた。だからといって女子からモテるということは決してなかったが、とにかく仲間同志で競い合うように夢中になったものだ。このセガの一連の体験型ゲームが登場してきた頃から、うつむいて画面に向かうスタイルだった暗~いゲーセンが、ちょっとだけ明るいスペースになったと思う。
さて、この『アウトラン』、運転席のハンドルやアクセル、ブレーキ、シート、シフトレバーなどどれも超リアルな手触りで、なによりも画面のグラフィックが感動的に美しかった。
車種はフェラーリ・テスタロッサを模した真っ赤なオープンカー。画面の中の助手席にはブロンドの美女が乗っており、このクルマを駆って椰子の木が立ち並ぶビーチから、ドイツ・ロマンティック街道ふうの並木道や夕暮れに染まる草原地帯といったヨーロッパ調の観光名所をモチーフにしたコースを疾走、タイムトライアルを競う訳だ。
クルマがクラッシュしたりコースアウトしたりすると、ハンドルと車体が本当にガタガタと派手に揺れる(人に見られているとすごく恥ずかしい)。この完全なる擬似ドライブにどハマリした僕は、このゲームをやっている時ばかりは学ラン姿でフェラーリを乗り回すバブリーなカードライバーだった。
まずこのゲームは、コインを入れ3曲の中から BGM を選ぶところから始まる。ハンドルを右・真ん中・左に回しながら、カーラジオから流れる音楽を選択。ドライブ気分を高めるこうした演出もなかなかに気の利いたオシャレ設定であるが、さらに輪をかけてゴージャス&バブリーなのが BGM そのもの。
セガのサウンドクリエーター、川口博史が手がけた「MAGICAL SOUND SHOWER」「SPLASH WAVE」「PASSING BREEZE」と題された3曲は、今でもゲーム音楽の “神曲” として語られることが多い。なかでも僕が必ず選んでいた「MAGICAL SOUND SHOWER」は松岡直也直系の本格ラテンフュージョン仕立てで、バブル度もきわめて高い名曲だ。
ちなみに後継となる『アウトラン2』のキャッチコピーは “跳馬・美女・絶景”。これまたいかにもバブル期に人気を博したゲームにふさわしいではないか。今ではダウンロードして手元のゲーム機でプレイできるわけだが、音楽のアナログと配信と同様に、それは僕にとってはもはや別モノである。
2018.12.27
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