1月9日

昭和から平成へ。キングダム・カムのハードロックと自粛ムード

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キングダム・カムの来日公演が大阪厚生年金会館大ホールで行われた日
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1989年1月7日、TV のニュースを見ながら、「昭和」の終わりを固唾を呑んで見守ったあの日。世の中から喧騒が一斉に消え、静寂をあれほど感じたことはなかった。日本中に自粛ムードが漂ったのは、東日本大震災などの後に受けた感覚にも近かった。

7日午後には新元号「平成」が発表され、翌8日から新しい時代が始まったものの、こうした状況下でとりわけ影響を受けたのがエンタメ業界だ。TV やラジオ、そして街角のどこからも音楽が鳴り止んでしまった状況が、この先一体どうなってしまうのか? 気が気でなかった。

というのも、僕は直近に予定された洋楽 HM/HR のライヴチケット2枚を大切に持っていたからだ。1枚は89年1月8日大阪城ホールでのラット、もう1枚は翌9日大阪厚生年金会館大ホールでのキングダム・カムの公演チケットだった。

88年12月31日と89年1月1日に東京ドームでボン・ジョヴィをヘッドライナーにした一大カウントダウン『ヒートビートライヴ89』が行なわれており、その出演バンドとして来日中だったのが両バンドだった。東京公演は残念ながら観られなかったけど、単独の大阪公演が実現して僕はとても楽しみにしていた。

まず、ラット公演に関する最新情報は、恐らくラジオや新聞を通じて知ったはずだ。結果的にやはり8日の公演は中止となってしまったが、幸いにも2日後の10日に振り替え公演が同会場で決まった。世間では自粛ムードの中で中止になってしまうイベントも続出していただけに、僕は少しホッとしていた。

一方で、公演規模が小さいキングダム・カムに関する正確な情報を上手く得ることが出来なかった。この状況の中で本当に予定通り公演は行なわれるのか? 当日、僕は半信半疑のままで会場へと向かった。

到着して入り口の状況を見ると、間違いなく入場受付が始まっており、その心配は杞憂に終わった。いざホール内へと入ると3階席まであるのに、開演間際になっても1階の3分の2程度しか埋まっていない。キャパ2400の大ホールだったので、恐らく1000人弱の入りだったのではないか。自粛ムードの中で来るのを諦めた人が多かったのか、それとも単にチケットが売れていなかったのかわからないが、明らかに寂しい入り具合は一目瞭然だった。

アメリカ/ドイツの HM/HR バンド、キングダム・カムは、88年のデビューアルバム『キングダム・カム』が発売されるやいなや、そのサウンドスタイルからレッド・ツェッペリンの再来だという評価を受ける一方で、只のモノマネでクローンだという批判も飛び出し、賛否両論を巻き起こした。

しかし、アルバムは全米ビルボード12位にランクインしてゴールドディスクを獲得。ヴァン・ヘイレンらビッグネームと共に、北米での大規模なモンスターズ・オブ・ロックのツアーに参加するなど大成功を収めていた。まさに HM/HR シーン随一と言える旬のバンドだった。

昨今の洋楽ロックシーンで、若手のグレタ・ヴァン・フリートがツェッペリンの再来と一様に絶賛されたが、何だか不思議なものだ。彼らのクローン度合いに比べると、キングダム・カムは決してクローンとは言えなかったと思うし、当時あそこまで批判される理由はなかったはずだ。

キングダム・カムはツェッペリンへの、あくまでもオマージュのもと、そのエッセンスを巧みに取り入れ、80sの HM/HR として昇華させた良質なサウンドを創り上げたと思う。何より叙情的なメロディが満載だった点は日本のマーケットの嗜好にも合っていた。

さて、肝心のライヴ自体は音源以上にエネルギッシュで若々しく、看板のレニー・ウルフのハイトーンヴォーカルが冴え渡るサウンドは、そのポテンシャルの高さを十分に感じさせてくれた。レニーの前身バンド、ストーン・フューリーの不朽の名曲「ブレイク・ダウン・ザ・ウォール」が披露されたのも感動的だった。

それ以上に、場内が暗転して僕にとっての平成初めてのライヴが始まった瞬間、何とも言えない深い感慨に打たれた気持ちを今も忘れられない。それは、失ってこそ初めてわかったロックの尊さを実感したからだ。

出口が見えない自粛ムードの中で、ロックは暗黙の了解のように封印された。それだけにオーディエンスの誰もが、普段当たり前のように触れていたロックをようやく聴ける幸せに包まれていたに違いない。

平成から新元号「令和」の始まりは、昭和から平成の時とは異なり、明るい未来に向けたムードに包まれている。僕たちがいつもと何ら変わらずにロックを楽しめる、そんな平穏な日常の中で新しい時代を迎えられることが、何よりも嬉しく思えるのだ。

2019.04.30
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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