便利で恐ろしい時代です。「パクリ」とか剽窃とか「似てる」とか検索をかけると、そっくりさんがわんさか出てきます。 80年代にも、すごく似ている、これはカバー? という曲がありました。当時熱心なスタカン・ファンだったんで、すぐに想い浮かぶのはスタイル・カウンシルの「シャウト・トゥ・ザ・トップ」と佐野元春の「Young Bloods」。 これはアリ? と首をひねったものです。佐野さん自身類似を認めているようですが。 もちろん創作ですから、利益とか著作権が蔑ろにされては困ります。それでも想いだすのは、80年代末のこと。フリッパーズ・ギターの「Groove Tube」でのトラックの借用やサンプリングの手法は評論家も巻き込んだ論争になりました。 マルセル・デュシャンの『レディ・メイド』、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』なんて引き合いに出しながら、“オリジナリティーなんてもうないんだよ。組み合わせや借用でしかあり得ないんだよ” なんて論じていた人たちの主張に妙に納得したものです。 物事には限度、も確かですが、 90年代以降まさか規制へ向うとは。3分間 / エイトビート / メロディー勝負のロック、ポップの作り手の苦労が偲ばれます。いつか、どこかで聞いたようなメロディーなんて、そこら中にころがっているんですから。 さて、本題です。今さら気づいた似たものどうし。それは JAGATARA のメジャーデビュー第一弾アルバム『それから』に収録された「cash card カード時代の幕開け」(1989年)と、ピンク・フロイドの『狂気(The Dark Side of the Moon)』からのシングル曲「マネー」(1973年)です。僕のような素人耳にはそっくりに聴こえます。 歌詞もピンク・フロイドの冒頭が「お金、ずらかるんだ」(※1)で、江戸さんもほぼそのまま「キャッシュ・カード、ずらかるぜ」。 ピンク・フロイドが「お金… 諸悪の根源… 昇給なんて…」と逆接調で、江戸さんも「キャッシュ・カード、可愛いヤツさ… いつも大事に枕元に置いて寝たのさ」と皮肉で応酬してます(※2)。 これはパクリですか、それともユーモラスなカバーかオマージュでしょうか? あるいは拝金主義(現金)から高度資本主義社会(カード)に移る時代の反映? はたまた70年代の改作80年代バージョン? 今現在(2018年)、誰か似たメロディーで「お金なくても貸そうっうか〜(仮想通貨)」とか歌ったら、人心を逆撫でしやがってと即バッシングで、損した人の気持ちを考えろとかなんとか炎上するんでしょうか。 でも江戸さんだったら、そんなネット上の仮想論争なんてどこ吹く風。きっと一言「ナンのこっちゃい」(どぅでもいいじゃん)で終わりでしょう。脚注 ※1:この一節、色々な訳と解釈があるようです。 ※2:ネット上での指摘は見当たらないのですが、さすがにメンバーは分かってやってましたよね。JAGATARA のギターであった Ebby さんの証言です。「アケミが書く曲はもっとプログレッシヴな曲が多かったから。意外と。… その頃、俺が思っている以上にあいつの曲って、プログレだった。『CASH CARD』とかね、どうみてもあれはピンク・フロイドでしょ。」(陣野俊史『じゃがたら』河出書房新社、2000年 - 初版、p.118) 歌詞引用: cash card カード時代の幕開け / JAGATARA
2018.03.22
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