6月25日

日本における「カノン進行」の源流を探る旅(その3)

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今回のジャケットは、サザンオールスターズの『ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)』(84年)です。この曲も歌い出しが「カノン進行」ですので。

さて、日本「カノン進行」浸透史の第3回目です。ここまでのまとめは、『青い影(A Whiter Shade of Pale)』(67年)、『男が女を愛する時(When a Man Loves a Woman)』(66年)、『レット・イット・ビー』(70年)の洋楽ヒットの土壌の上に、赤い鳥『翼をください』が登場。音楽教育現場から「カノン進行」が、ジワジワと浸透したという話でした。

参考:『日本における「カノン進行」の源流を探る旅(その2)』

しかし『翼をください』だけでは、やはり爆発力に欠けます。日本で「カノン進行」が愛されることになった背景には、もっと爆発的なヒットが存在していたはずです。

そこで、日本における「カノン進行」宣教師とでも言えそうな、このバンドをご紹介したいと思います。

チューリップ――。

驚くべきことに、70年代前半における、彼らの初期のヒット曲の多くで「カノン進行」が使われているのです。そして、その中の代表曲と言える『心の旅』は、何と51.4万枚という大ヒットとなったのです。

では具体的にコード進行を見ていきます。前回同様、分かりやすくするために、キーはすべてCに移調しています。


『魔法の黄色い靴』(1972 / 6 / 5) 0.2万枚

【C】→【G/B】→【Am】→【G】→【F】→【B♭】→【G7】→【G7】

「♪ Oh! そうだよ」からのサビの部分です。極めてビートルズ的な「カノン進行」でありながら、ここでもまた、後半に【B♭】が出て来ていて、このあたりには『翼をください』の直接的な影響を感じさせます。


『心の旅』(1973 / 4 / 20) 51.4万枚

【C】→【Em7/B】→【Am】→【Em】→【F】→【G】→【C】→【G7】

「♪ あーだから今夜だけは」の歌い出しのところ。シンプルな「カノン進行」で、『男が女を愛する時』とほぼ同じ進行。これが50万枚を超える大ヒットとなったわけですから、さしずめ「日本初のカノン・ヒット」になります。


『夏色のおもいで』(1973 / 10 / 5) 12.2万枚

【C】→【Em7/B】→【Am】→【Am7/G】→【F】→【B♭】→【G7】→【G7】

「♪ きみをさらっていく」の歌い出し。これはまぁ、いわゆる「二番煎じ」ですね。『心の旅』の半年後に、二匹目のドジョウ狙いでリリースされたことがバレバレです。またここでも、『翼をください』影響下の【B♭】が出てきます。ちなみに作詞は松本隆。


『青春の影』(1974 / 6 / 5) 7.3万枚

【C】→【C/B】→【Am】→【Em】→【F】→【F/E】→【Dm7】→【G7】

「♪ 君の心へ続く」の歌い出し。コード進行もほぼ純正な「カノン進行」で、またピアノの弾き語りで始まるあたり、日本「カノン進行」史の初期における、抜群の正統派・優等生です。なおサビでは「後ろ髪コード進行」が出てきます。


『ぼくがつくった愛のうた』(1974 / 10 / 5) 8.4万枚

【C】→【Em7/B】→【Am】→【Em】→【F】→【Em】→【Bsus4】→【E7】

まだあります。「♪ ふたりの愛があるかぎり」のところ。これは最後【E7】になり、そこから【Am】に展開していきますので、循環コードではないという点において、やや亜流なのですが。


さぁ、いかがでしょうか。もしかしたら若い方々の中には、「『心の旅』以外大して売れてないじゃないか」と思われる方も多いかも知れませんが、70年代前半という時代を考えると、フォーク / ニューミュージック系の音楽としては、『心の旅』以外も、なかなかの売上枚数だったと言えることを補足しておきます。

そして、これで主要な登場人物が出揃った感じがあります。

■ 60年代後半:『青い影』『男が女を愛する時』『レット・イット・ビー』という洋楽によって、日本人が「カノン進行」の魅力に気付き始めた時代。

■ 70年代:『翼をください』と、『心の旅』を代表とするチューリップのヒット曲によって、日本製の「カノン進行」が浸透した時代。

■ 80年代:そして、松任谷由実『守ってあげたい』(81年)、山下達郎『クリスマス・イブ』(83年)、サザンオールスターズ『ミス・ブランニュー・デイ』(84年)によって、日本製の「カノン進行」が確立した時代。

という流れを経て、90年代前半の、KAN『愛は勝つ』(90年)、槇原敬之『どんなときも。』(91年)、大事MANブラザーズバンド『それが大事』(91年)、ZARD『負けないで』(93年)、岡本真夜『TOMORROW』(95年)という、「がんばろう系カノン」の百花繚乱時代を迎え入れます。

では、あと1回だけお付き合いください。最終回は、「がんばろう系カノン」生成の理由分析と、あと「カノン進行」ぽくないけれど実は「カノン進行」だったという、いわゆる「隠れカノン」の名曲の紹介をしてみたいと思います。

2018.05.13
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  YouTube / 岩垣博之


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