松任谷由実「守ってあげたい」閉塞感に包まれた今こそ心に沁みる歌詞

第二次ユーミンブーム、最大のきっかけは「守ってあげたい」の大ヒット

1981年に始まったと言われる「第二次ユーミンブーム」、石川ひとみが三木聖子の「まちぶせ」（荒井由実作詞・作曲）をカヴァーしてヒットしたというのもあるが、最大のきっかけはやはり薬師丸ひろ子主演の角川映画『ねらわれた学園』の主題歌としてリリースされた「守ってあげたい」の大ヒットだろう。

それまでのユーミンは、結婚して荒井由実から松任谷由実に名前が変わってからしばらくの間、セールス的に芳しくない状態が続いていた。クオリティの高いアルバムを頻発していたにもかかわらず、である（ご本人も後に自身のラジオで「低迷していたころ」と言及している）。

しかし、角川のプロモーション力はさすがで、映画のスポットCMがテレビでガンガン流れたこともあり、気が付くと「守ってあげたい」はチャートをじわじわと駆け上がり、８月にはついに『ザ・ベストテン』にランクインしていた。

「いくらなんでもテレビには出てこないだろうなぁ…」と思っていたのだが、ある日テレビを見ていた姉が叫ぶ。「ちょっと！今ユーミン出てるで！」

それはTBS系で放送された『日本作曲大賞』。第１回と言う記念すべき回にユーミンは「守ってあげたい」で大賞を受賞する。それを見て私は一気に色めき立った。なぜなら私が動くユーミンを観るのはそれが初めてだったのである。

しかし、受賞後にピアノ弾き語りで「守ってあげたい」を披露したユーミンの声は明らかに緊張でうわずっていた。しかも途中でエンディングのテロップが流れた上に歌唱中に放送が終了。私が初めて目にしたユーミンはなんともトホホ… な状態で終わったのである。

大きな話題となった１度きりの「ザ・ベストテン」出演

そのリベンジ、とばかりに次にユーミンが出演したのが1981年10月８日、『ザ・ベストテン』。新聞のラテ欄に “松任谷由実”の名前を見つけた私は姉に向かって叫んだ。「ちょ！ ユーミン、また出るで！」

番組が始まり、ドキドキしながらテレビを観ていると、５位の河合奈保子「ムーンライト・キッス」に続いて紹介された「守ってあげたい」は４位。ユーミンは放送の前月まで回っていたコンサートツアー『水の中のASIAへ』の衣装で登場する。

「主人がね、来週あたり出たら？ と食事しながら突発的に言いまして…」

というユーミンに対して、

「あら、あなたご主人がおっしゃるとそういう風になさる方なの？」

という黒柳徹子の鋭いツッコミ（後に「あれは怖かった」とユーミンは徹子本人に語っている）。

「作曲大賞でもすごくアガったので悔しいから勢いで出た」というユーミンだったが、先ほどの徹子の圧に怯えたのか（笑）、それとも生出演だからなのか、その緊張ぶりは観ているこちらにもビンビン伝わってきた。

この１度きりの『ザ・ベストテン』出演は大きな話題となり、「守ってあげたい」は69.5万枚を売上げ、オリコン年間シングルチャートで10位、『ザ・ベストテン』と『ザ・トップテン』でもそれぞれ年間８位を記録した。

2020年紅白歌合戦で自ら選曲、熱唱「守ってあげたい」

それから39年後の2020年12月31日、NHK『紅白歌合戦』でユーミンが「守ってあげたい」を歌ったのはまだ記憶に新しい。コロナ禍で日本全体が不安になっている中「みんなにエールを届けたい」とユーミン自身が選んだのがこの曲だった。

　So, you don’t have to worry, worry,
　守ってあげたい
　あなたを苦しめる全てのことから
　’Cause I love you, ’Cause I love you.

日本が、いや、世界中が閉塞感に包まれてしまった今、このフレーズが心に沁みた方は多いのではないだろうか。

この曲は女性から男性に対して “守ってあげたい” という感情を示した、当時としては少し珍しいシチュエーションの作品として捉えられた記憶があるが、私はこの曲を聴くたびにお坊さまのありがたい説法を聞いているような気持ちになる。自分の中の汚れたものがすべて取り除かれ、ささくれた心が浄化されるのだ。辛いことがあったとき、失恋したとき、どうしようもなく自分が嫌になったとき、常にこの曲に守ってもらえたような気がする。特に仕事で辛いことがあったときには、

　もう一度あんな気持ちで
　夢をつかまえてね

というフレーズで、入社した頃の初々しかった気持ちを思い出したりして、随分と救われたものだ。

今年で発売から40年。それだけ時が流れても常に時代に寄り添う作品を生み出すユーミンという人は、やはり「とんでもない（褒め言葉です）人なんだなぁ」と思った。きっと50年経っても、100年経っても、人の心を穏やかにするエバーグリーンな作品として「守ってあげたい」という曲は残り続けるのだろう。




2021.06.21