週刊少年ジャンプの黄金期、連載漫画が続々アニメ化
1984年当時の週刊少年ジャンプは、まさに黄金時代だった。『Dr.スランプ』『キン肉マン』『キャプテン翼』『キャッツアイ』『よろしくメカドッグ』や『ウイングマン』など… 80年代を代表する漫画が目白押しで、発売日の毎週火曜日が楽しみで仕方なかった。そして続々と連載作品がアニメ化されており、まさに “週刊少年ジャンプ三昧” の毎日を過ごしていた。
そんなある日、連載中のある人気漫画がアニメ化されるとの記事が目に入る。その話題はたちまちクラス中に広まった。しかし、そこで真っ先に交わされた会話は期待ではなく「いや無理やろ…」という不安だった。
その作品名は… そう『北斗の拳』であった。
現在よりも表現規制の緩やかな昭和時代だったが、幼い小学校5年生でも “放送コード” の存在は知っていた。ケンシロウに経絡秘孔を突かれ、独特の断末魔とともに人体破壊される悪党どもの最期が、そのまま放送されるわけは無く、一番の魅力でもあるその殺戮シーン無くして、『北斗の拳』は成り立たないのではないか。そう考えていたのだ。
「北斗の拳」アニメ化決定、主題歌はクリスタルキングが担当
そんな心配をよそに、1984年10月からのテレビアニメ放送開始が決定し、徐々に情報が解禁されていく。その情報の一つに主題歌の話があり、それをクリスタルキングが担当することが判明する。
―― クリスタルキングって、あの「大都会」の?
最初に思い浮かんだのはそれだ。「大都会」がヒットした1979年から1980年にかけて、僕はまだ7歳かそこらだったが、強烈に印象に残っていた。いかつい低音の兄ちゃんとモジャモジャ頭の声の高い人による、力強いメロディと美しいハーモニーは幼い心にもしっかりと刻まれていたのだった。
「なんか最近見てないけど、まぁ敵の悪党にも出てきそうなビジュアルやし大丈夫やろ(笑)」
そんな根拠のない淡い期待を主題歌にも抱きながら、いよいよ10月11日の放送開始を迎える。僕はドキドキしながらテレビの前に鎮座し、19時になるのを待っていた。
無国籍で無秩序でカオス!“YouはShock” の衝撃
「199X年、世界は、核の炎に包まれた…」
銀河万丈によるナレーションで始まったオープニング。核戦争で荒廃した世界の都市が映し出される… 崩壊した自由の女神、折れ曲がったエッフェル塔… 重苦しい映像を打ち破るようにタイトルロゴが登場。そしてすぐさま歌が始まった。
サーチライトに照らされ暗闇から浮かび上がるケンシロウの姿、そしてそれにシンクロするハードなギターサウンドで奏でられる印象的なイントロ。そして続いて放たれた最初のフレーズに、まさしく “衝撃” を受ける。
YouはShock
“You are shocked” でもなく “You are shocking” でもなく “You は Shock” である。そのインパクトのあるワードを初めて聴いた時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
今になって思えば、この日本語としても英語としても文法として成り立っていない言葉は、無国籍で無秩序でカオスな『北斗の拳』の世界を表現しているのかもしれない。
そして、『北斗の拳』の世界を表している歌詞はそれだけではない。
邪魔する奴は 指先ひとつでダウンさ
全てとかし 無惨に飛び散るはずさ
これぞまさに経絡秘孔を突かれた相手が「ひでぶっ!」「あべしっ!」と破裂し絶命していくさまをストレートに描いているではないか。
田中昌之の高音ヴォーカルに込められた「北斗の拳」の本質
そしてサビの部分、田中昌之の高音ヴォーカルで歌い上げられる歌詞に、『北斗の拳』の本質が込められている。
俺との愛を守る為 お前は旅立ち
明日を 見うしなった
微笑み忘れた顔など 見たくはないさ
愛を取り戻せ
「愛をとりもどせ!!」には、このサビの部分を含めて、1番2番合わせて7回も “愛” という言葉が登場する。
過激なバトルとバイオレンスがメインのアクションアニメには、一見似つかわしくないと感じるかもしれない。しかし『北斗の拳』の本質は、恋愛、兄弟愛、師弟愛、慈愛… さまざまな “愛” のために、愛に飢え、愛を守り、愛に殉ずる漢たちが闘いを繰り広げるところにあるのだ。
歌詞の中で何度も繰り返される “愛” という言葉は、まさしく『北斗の拳』の世界観そのものなのである。
『北斗の拳』はその後「2」まで3年半の長きに渡り放送され、テレビアニメだけではなく、ゲームやパチンコ・パチスロ、はたまた実写版の映画や舞台にまで展開、40年近く経った現在でも人気作品として君臨している。
これは原作漫画の素晴らしさはもちろんだが、テレビアニメと、その主題歌「愛をとりもどせ!!」がもたらしたインパクトの影響も強いのではないだろうか―― この力強いイントロと “You は Shock” という叫びを聴くたびに、今でもアドレナリンが放出されるのを感じながら、僕はいつもそう思っている。
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2023.09.25