廃れていくアレンタウン、こんなはずじゃなかったのに…
ビリー・ジョエルの名曲「アレンタウン」は、ペンシルベニア州に実在する街を題材にした歌だ。かつては製鉄業で栄えたが、1970年代に入ると徐々に衰退。この曲がリリースされた1982年には、失業者が街に溢れ、深刻な社会問題となっていた。
この歌の主人公はアレンタウンに住む若者で、自分の街が廃れていくのを日々肌身に感じている。
僕らはアレンタウンで暮らしている
工場はどこも閉鎖されてしまった
ベツレヘム製鉄所の外では
誰もが時間を持て余し
求人票に記入して、列に並んでいる
彼の両親が若かった頃、アレンタウンには安定した仕事があり、子供たちは「真面目にがんばれば、必ず報われる」と教えられて育った。少なくとも、親と同じ程度の生活はできるはずと信じられていた。しかし、大人になってみると、現実は大分違うものだった。「まさかこんなことになるなんて」、「こんなはずじゃなかったのに」という感情に戸惑いながら、日々を生き抜くことに精一杯なのだから。
戸惑いの中の希望、たとえ根拠がないとしても…
これはアレンタウンに限ったことではない。今の僕らもまた、そんな戸惑いの中で生きている。いつの時代も、苦難はやって来ては去り、そしてまたやって来るのだ。
街には落ち着かない空気が漂い
ここで暮らすのが
ますます困難になってきている
しかし、この歌の主人公は街を去ろうとせず、「アレンタウンで待っている」と歌う。ビリー・ジョエルはその理由を、「いつか今より良い暮らしになる」と彼が信じて生きているからだと語っている。
その後もアレンタウンの製鉄業が息を吹き返すことはなかったが、現在ではサービス業を中心に発展し、多くの企業がこの街に本社を構えるまで復興を遂げている。
おそらく、苦難が去っても、すべてが元に戻ることなどないのだろう。いくつかの古いものは消え、新しい何かがそれに取って変わる。そうした変化に対して、僕ら自身もまた変わることで順応していくしかない。それはきっと痛みを伴う作業になると思う。
けれど、この苦難の後には、より良い時代が来るのだと信じたい。アレンタウンで新しい時代が来るのを待ち続けた、この歌の主人公のように。大切なのは希望だと思う。雲の切れ間から漏れてくる光を見失わないこと。根拠などなくてもいい。希望とは元来そういうものなのだから。
2020.05.09