ジュリアン・レノンの再来日公演は1986年8月。初来日から僅か1年2か月後のことであった。セカンドアルバム『デイ・ドリームの街で』(原題:THE SECRET VALUE OF DAYDREAMING)がデビューアルバム『ヴァロッテ』から1年半後に発表されたこともあるが、新人アーティストには短いスパンであった。 東京公演は8月10日(日)。会場は都心から離れたよみうりランドオープンシアターEAST。そして開演時間は何と15時であった。未だ夏フェスの無い時代、真夏の昼間のライブは異例だった。短いスパンでの再来日、近くはない会場、炎天下での開演、この3つの条件が重なってか、前年武道館を埋めた観客はその半分以下に減っていた。 この野外ライブのためなのか髪も短くなりチェックのベスト1枚で現れたジュリアンは、しかし酷暑の中、『レッツ・ダンス』(83年)でデヴィッド・ボウイと共演したカーマイン・ロハス(b)がバンマスである6人のバンドをバックに熱演を見せた。レコード会社に急かされ不本意の中発表した新作に不満があったのか、デビューアルバムの曲の方が多かった。そして、本編最後で父ジョンもカヴァーした「スタンド・バイ・ミー」を前年同様披露し大きな喝采を浴びたジュリアンは、アンコール2曲めに特別なプレゼントを用意していた。 短いドラムのイントロで始まったその曲は「イット・ウォント・ビー・ロング」。ビートルズのセカンドアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』の冒頭を飾る父ジョン作の曲で、ビートルズがライブで演らなかった曲なのである。 炎天下で、ジュリアンもハンドマイクでの歌だったのだが、オリジナルに忠実な演奏で、ジュリアンについ父ジョンの面影を追ってしまう僕の様なファンにとってやはり嬉しい1曲であった。この曲を作った時ジョンは23歳。そしてこの曲を歌っているジュリアンも23歳。それが選曲の理由だったのだろうか。 前年も歌った父ジョン作の「デイ・トリッパー」が続き、最後は新作を締める佳曲「ウォント・ユア・ボディ」をエレピの弾き語りでしっとりと歌い上げ、1時間40分のライブは終わった。 ジュリアンはこの年を最後に父ジョンの作った曲を歌うことを止めてしまう。真のアーティストとして独立するには当然の道筋であっただろう。しかしそれが故にこの真夏の炎天下での「イット・ウォント・ビー・ロング」は、熱くも儚い思い出を30年後の今でも僕の胸にしっかりと刻んでいる。 この公演は未だジュリアン・レノンの最新の日本公演。そしてよみうりランドオープンシアターEASTも2013年に閉鎖となり最早跡形も無くなっている。
2016.09.15
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