8月21日

森昌子「越冬つばめ」の歌詞を深読み!童話「幸福な王子」との共通点はなに?

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許されぬ愛を描いた、森昌子「越冬つばめ」


今日10月13日は森昌子さんの誕生日―― ということで、彼女の人気曲「越冬つばめ」についてコラムを書いてみたいと思う。

リマインダー編集部から「越冬つばめ」という話が出たときに、その言葉から僕が思い浮かべたのは、文人オスカー・ワイルドの短篇小説『幸福な王子』だ。

ざっくり説明すると、魂が宿っている王子の像から「自分の像に装飾されている宝石を、街の不幸な人々に届けて欲しい」と依頼されたツバメ。宝石を咥えては街と像とを往復して次々と宝石を届けてゆく。ただ、そのせいで季節が過ぎてしまい南の地へ行けず、とうとう力尽きてしまった―― という愛と献身の物語。不憫に思った神のご加護により、王子の魂とツバメの亡き骸は、天使に連れられ天に召されるのだ。

さて、今回取り上げる「越冬つばめ」は、許されぬ愛を描いた歌である。天に召されるという救いがあった『幸福な王子』に対し、「越冬つばめ」の男女に救いはない。そこには女の一途な情念による破滅の刹那があるだけで、堕ちてゆくふたりの哀情がしみじみと描かれているのだ。

度々 “演歌” に “怨歌” と文字があてられるのは、人の持つ理性に抗う感情が歌詞に込められることが多いからだろう。



作曲は円広志。「♪ヒュルリ ヒュルリララ」の哀切が伴うサビのメロディ


「越冬つばめ」は1983年8月21日にリリースされた森昌子41枚目のシングル曲である。

作詞は石原真一、作曲は篠原義彦だ。篠原義彦ではよくわからないが、円広志と聞けばピンとくる人も多いだろう。「♪飛んで 飛んで~」のアノ人である。

演歌らしい編曲によってそれっぽくなっているけれど、良く聴くとそのメロディには、フォークソングやポップスの要素が多分に含まれている。

とくに「♪ヒュルリ ヒュルリララ」の哀切が伴うサビのメロディは、冬の寒空に舞うような森昌子の美しい声によって多くの人々が魅了された。

作詞を担当した石原真一は、演歌の印象を持つ人が多いだろう。けれど、太川陽介「Lui‐Lui」や、ビューティー・ペア「かけめぐる青春」など歌謡曲にも幅広く手掛けた作品が存在する。

とはいえ、やはり演歌には滅法強い。叶うことがない愛の行方を描いた「越冬つばめ」は、演歌の歌詞として圧巻の世界観を誇っている。

では、ここからは「越冬つばめ」の歌詞を引用して、石原真一が思い描いた “一途な愛の物語” を想像してみよう。

深読みスタート!「越冬つばめ」の世界観


 娘盛りを 無駄にするなと
 時雨の宿で 背を向ける人
 報われないと 知りつつ抱かれ
 飛び立つ鳥を 見送る私

シチュエーションを七音のリズムで連ねるあたりが、実に演歌である。

「♪娘盛りを~」という女性を諭すような言い回しが、どうにも古めかしい。この歌詞は、明らかにもう若くない壮年の男性を容易に想像させてくれる。会社でいえば部長クラスの役職者に違いない。

時雨とは、秋の末から冬の初めごろに降る雨であり、俳句の世界では冬の季語として使われる言葉だ。つまりこの歌の季節は11月…もしくは12月の初旬だろう。

ツバメについて調べてみると、日本に生息する多くのツバメはフィリピンや遠くインドネシアにまで越冬先があり、だいたい9月から10月には日本を離れ旅立つとのこと。

言うなれば、この「時雨」の2文字は、季節を示唆することで何某らのタイミングを逃したことを暗示している。ちなみに、タイミングを逃して日本に残ってしまったツバメは、寒さの程度にもよるが長くは生きられない。

数行に込められた膨大な情報量。映画的な「越冬つばめ」の世界観


―― それにしても、たった数行なのになんたる情報量だろう。

「俺みたいなロクでもない男に惚れちゃぁいけないよ…これからもっといい男が現れるから、俺のことはもう忘れるんだ」

なんて、旅館の一室で背を向け雨空を仰ぐ男性と、それを布団のなかから静かに見つめる女性の姿が想像できる。なんとも映画的な情景だ。

ただ、「自分の人生を無駄にするな」なんて偉そうに諭しているけれど、ちゃっかり主人公の女性と躰を交わした後というこの流れ―― なんとなく村上春樹の小説っぽいなとも思ってしまった。つまり、この男性は自分勝手な “女たらし”だということ。ともすれば、この状態は不倫の可能性が極めて高い。

この一節から、道ならぬ恋であることを理解しながらも、ずるずると関係を続けてきた中年男性と、うら若き女性が織りなす不毛な愛の一場面だと僕は想像を膨らませた。

しかし、この後の展開は、僕が想像していた範疇を軽く飛び越えてきたのだ。

追いすがる女性の涙に根負け?“ききわけのない女”とは


「飛び立つ鳥」とは男性のことであり、それを見送るのは主人公の女性だ。飛び立つ鳥=単身赴任であり、任期が終われば本社へ帰ってしまうことを、南の土地に越冬するツバメの習性と重ね合わせたのだろう…と同時に、愛人関係を匂わせる役割も与えている。この場合は壮年の男性だけど、年上の女性が愛人として囲う男性を “若いツバメ”と言うからだ。

さて、情事を終えた男性は、単身赴任の期限を理由にこの関係を精算しようと別れを切り出した。ただ、歌詞をよく思い出して欲しい…そう、時雨である。季節はもう初冬であり、ツバメは越冬の…つまり男性は別れのタイミングを大きく逃していたのだ。

 季節そむいた 冬のつばめよ
 吹雪に打たれりゃ寒かろに
 ヒュルリ ヒュルリララ
 ついておいでと 啼いています
 ヒュルリ ヒュルリララ
 ききわけのない 女です

── 雨は雪に変わっていた。

11月末から12月の初めに雪が降るならば、男性の単身赴任先は東北の地方都市といったところだろう。若い女性との関係を手放す惜しさからか、男性は会社にいくつもの嘘を重ねて帰京を遅らせていた。それが季節に背いたツバメの姿であり、色欲に溺れた成れの果てである。

男性は意を決して女性に別れを告げ、旅館を出ようとする…。そしていつしか、冷たい雨は雪へと変わり吹雪いていた。

「こんな寒い日に何処へ行こうというの?…今日はもう部屋に戻りましょう」

そう囁いた女性は男性の袖口に手を添え、腕を取り、そして静かに涙を流したのだ。

―― そう、「ついておいで」と啼いているのは、部屋に戻ろうという女性から男性への悪魔の囁きである。一度は別れを告げた男性だったが、追いすがる女性の涙に気持ちがゆらぎ根負けしてしまう。

“ききわけのない女”とは、言い換えれば“したたかな女”だったのだ。それは続く二番の歌詞で明らかにされる。部屋に連れ戻された男性は再び女性と躰を重ねてしまい、奈落に堕ちていくのだ。

許されぬ愛の情念歌い上げた歌手・森昌子


 燃えて燃えつき 冬のつばめよ
 なきがらになるなら それもいい
 ヒュルリ ヒュルリララ
 忘れてしまえと 啼いています
 ヒュルリ ヒュルリララ
 古い恋ですか 女です

この歌詞から想像させられるのは「心中」である。

近松門左衛門の人形浄瑠璃『曽根崎心中』が有名だが、道ならぬ恋、許されざる不倫…そんな追い詰められた男女の行きつく先のひとつに”死”という事実があることは否めない。

「♪なきがらになるなら それもいい」とは、死を覚悟した二人の純愛と言い換えることもできる。ただ、男性にそれほどの覚悟が無いとしたら…実に危うい歌詞である。

「古い恋ですか」などと言葉を濁しているが、ものすごく覚悟を試されている曲なのは間違いない。

「女です」という歌詞がズッシリと重くのし掛かってくる。一途な女性の情念そのものだからだ。

許されぬ愛の情念を昇華させる意味合いがこの曲の歌詞に込められているとしたら、大変な曲を森昌子は歌うことになったと感じただろう。



「幸福な王子」と「越冬つばめ」にみる、情に流された引き際


『幸福な王子』と「越冬つばめ」…どちらも情に流された引き際に切なさが垣間見える。

前者は見返りを求めない献身という温かい幕引きの物語だったが、後者は叶わぬ恋に溺れた先の失落であった。そこに救いはない。待っているのは地獄である。

ただ、現実の世界では許されぬことも、歌の世界であれば道ならぬ恋の行方に思いを馳せる人が多いことも事実。ままならぬ愛憎劇に共感してしまうのは人の性であり、一途な愛に対して、人は心奪われてしまう生き物なんだなぁと改めて考えさせられた。

さて、重い内容に止めを刺すようでなんだけど、このコラムを書いていて思い浮かべた百人一首があるので、その短歌を寄せて今回は締めたいと思う。

 忘らるる 身をば思はず ちかひてし
 人の命の 惜しくもあるかな
 ―― 右近

あなたに忘れ去られることよりも、永遠の愛を誓ったあなたの命が神からの罰を受ける… ということが私は惜しいのです。

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2022.10.13
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カタリベ
1967年生まれ
ミチュルル©︎たかはしみさお
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