雑誌やネットの「ダサいレコードジャケット特集」になると、ほぼ100%、必ず取り上げられる一枚がある。それどころか「ダサいジャケットNo.1」ではないかと思われるのが、ライオットの『NARITA』だ。
もう、百聞は一見にしかず、こんなにパンチの効いたアルバムの表紙は、空前絶後ではないか。
恥ずかしい話だが、私の人生における最初の「ジャケ買い」、いわゆる中身も確かめずに衝動買いしたのは、このLPだった。音楽と同じくらい特撮を愛していた私は、いにしえのパチモン怪獣カードを思わせる色彩に一発でノックアウトされた。
説明しよう。パチモン怪獣カードとは、60年代後半から70年代前半に駄菓子屋などで5円とか10円で売られていたカードで、円谷プロ、東宝、東映などの怪獣を元ネタに、デザインをちょっとだけ変えたり、写真を切り貼りしたりして作られた、インチキ臭さが特徴だ。
著作権的には限りなく黒に近い灰色なのに、堂々と©を付けて「これはウチのオリジナル!」と主張しているところや、ずさんなコラージュの安っぽいセンスが、逆に子供心に突き刺さった。サンプルに1枚あげてみたが、皆さんにおなじみの有名怪獣が何匹も合成されていることがスグにわかるだろう。
で、このアルバム。富士山、相撲レスラー、タイトルでもある漢字の「成田」から日本がテーマなのは一目瞭然。頭だけアザラシで、それ以外が人間というナゾのキャラクターは “ジョニー” と言って、彼らのデビュー時からアルバムジャケットに登場しているバンドのマスコットである。
ライオットは、 NY出身のヘビーメタルバンドだ。同じジャンルのクワイエット・ライオットと混同されやすいが、別である。あっちは不世出のギタリスト、故ランディ・ローズを排出し、後に全米チャートの上位にも上りつめるグループだが、こっちには飛び抜けた才能のプレイヤーはおらず、全米ヒットも持っていない。ベイ・シティ・ローラーズやクィーンのように二枚目のメンバーもいない。
では、なぜそんなグループが、(日本盤が発売される程度に)日本でちょっとは受け入れられていたのか?
彼らの77年の1stアルバム『怒りの廃墟(ROCK CITY)』(日本盤は翌78年に発売)の中に「ウォリアー」という曲があり、天下の渡辺プロ所属・アイドル歌手の五十嵐夕紀によって「バイ・バイ・ボーイ」なる邦題でカバーされたのである。
さらにこの1stアルバムには「トーキョー・ローズ」なる楽曲も入っていた。そんなワケで、当時の日本で思いがけず人気を博したことが彼らには嬉しかったらしく、2ndアルバムではさらに日本が大きく扱われることになった。
モチーフとなったのは成田空港の土地問題をめぐる、いわゆる「成田闘争」である。70年代の後半、1980年も目の前ともなれば、学生運動はすでに鎮火し、あさま山荘事件や安田講堂攻防戦でしか見たことのなかった過激派と機動隊の衝突は、なんだかパラレルワールドのもう一つの日本での出来事のようにも見えた。私もまだ世間知らずの少年だった。
タイトルチューン「NARITA」は歌のないインスト曲であるが、この前奏は、ロック史上に残る名リフであると私は思っている(リフについては、当サイトのスージー鈴木氏の解説を参照されたい)。
一発屋というか、この曲だけは、格好いい。今でもテレビのバラエティ番組でよく使われているので、聞き覚えがある人もいるかもしれない。とくに乱闘シーンなどでの使用率が高く、音響効果さん必須のアイテムとなっている。
あのダサい表紙、今にしてみれば “COOL JAPAN” を先取りしていたとも思えるライオットの『NARITA』。79年5月に日本でのみ発売され、後に米国でも発売されるが、80年代後半には廃盤。やっぱり日本以外では売れなかったようだ。
実は私もあの1曲が無ければ、人生初のジャケ買いを後悔していたに違いない。
2017.06.15
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