アナログレコードからCDへ、1枚が70分超えの作品も!
今年、2020年上半期(1~6月)、アメリカではCDよりレコードの売上が上回ったそうだ。ここ日本でもレコードはジワジワと盛り上がっており、“レコード・ストア・デイ” は私のまわりの音楽好きの間でもお祭り騒ぎのような状態だ。お小遣いに限りのあるサラリーマンの私にとっては、安く買える中古レコードとしての魅力とDJをするときにレコードだと楽しいという魅力から相変わらず安レコードを買い漁り、置き場所問題で家族から怒られることもしばしばだが、こいつばかりは死ぬまで続く趣味なのだろう。
もし、私が死んだときはお気に入りのレコード数枚を棺桶に入れて火葬して欲しいものだが、塩化ビニールを燃やすとダイオキシンが発生して大気汚染につながってしまう。これでは、スティングに怒られてしまうだろうな…… 棺桶にレコードのダイオキシン問題はとりあえず先延ばしにすることにして、リマインダーの原稿を進めよう!
さて、今をときめくアナログレコードだが、ピンチに追い込まれた時代もあったことは皆さんご存知のとおり。それはCDの登場だ。音楽ソフトの主流がCDになったのは、1990年頃だったと思う。CDが登場した時、その特徴として音質が劣化しないことや収録時間の長さがよく語られていた。そして、80年代後半~90年代初頭にリリースされた音楽作品も、CDで聴かれることを前提としたため、アルバム1枚の収録時間がやたらと長くなり、アルバム1枚が70分を超える作品が珍しくなくなってきた。
ジェネシスが発表した「ウィ・キャント・ダンス」アナログなら2枚組?
前置きが長くなったが、ジェネシスが1991年に発表したアルバム『ウィ・キャント・ダンス』も収録時間がとても長い作品だ。全12曲収録で71分31秒だから、アナログレコードなら2枚組の大作という扱いになるのだろう。この前作『インヴィジブル・タッチ』は全8曲収録で42分51秒だからアナログレコード1枚にジャストサイズと言えるだろう。と言うか、46分カセットテープにアルバム片面ずつ録音できるというのが、80年代には当たり前な感じで、そのイメージ通りの作品と言えるだろう。
一方、本稿の主題『ウィ・キャント・ダンス』なのだが、収録時間の長さや長尺曲が含まれることから、リリース当時は「ピーター・ガブリエル在籍時のプログレ時代を彷彿とさせる…」というレビューや前評判が話題となっていた。本作からのファーストシングルである「ノー・サン・オブ・マイン」も前作『インヴィジブル・タッチ』からシングルカットされた曲に比べて、暗く、ヘヴィーな雰囲気だったこともあり、プログレ云々… というレビューにも納得させられてしまったように記憶している。
しかし、2020年、現在の耳で聴いてみると「言うほどプログレかよ?」って私は感じてしまうのだが、いかがだろうか? 曲とインスト部分が長ければプログレって、それは何だか乱暴な物言いのように感じるのは私だけだろうか?
『ウィ・キャント・ダンス』の収録曲は、前作同様とまでは言わないが十分にポップな楽曲が多いし、5曲がシングルカットされ、トップ10ヒット1曲を含め他4曲も全てがトップ40入りしている。
世界的大ヒット「インヴィジブル・タッチ」と比較されてしまった不幸
そもそも、ピーター・ガブリエルが脱退して最初のアルバム『そして3人が残った(…And Then There Were Three…)』以降のジェネシスは、常にポップなロックバンドであったと思うのだ。プログレ出身であることから細部にこだわった音作りを丁寧に施すことで、完成度の高い作品を常に作り続けてきたバンドなのだ。
しかし、80年代、フィル・コリンズのソロ活動があまりにも大きな成功を納めたことで、その直後のジェネシス作品である『インヴィジブル・タッチ』が極度にポップ度を強め、チャート的にも大成功したことで、そこと比較された『ウィ・キャント・ダンス』はバンドが長年培った本来の姿から誤解を招くような扱いを受けてしまったのではないかというのが私の持論なのだ。
フィル・コリンズは、『ウィ・キャント・ダンス』に伴うワールドツアー終了後にジェネシスを脱退してしまう。そして、残されたトニー・バンクスとマイク・ラザフォードに新たなシンガーを加えた新生ジェネシスは再出発し、アルバムをリリースする。イギリスではヒットするものの作品の評価は今ひとつで、この作品を最後にバンドは解散してしまう。
ジェネシスが80年代ロックに残した大きな功績とは?
ジェネシスが残した功績は、プログレの構成力やアレンジメント能力をポップミュージックに一早く持ち込んだことなのではないだろうか? プログレ出身のメガヒットというと、エイジアが真っ先に思いつくだろう。しかし、エイジアのデビューから数年前に、ジェネシスはプログレ的なアレンジメントをポップミュージックに持ち込むことでイギリスでは国民的な人気バンドの地位を手に入れ、アメリカでも堅実なヒットを飛ばしている。プログレ経由の産業ロックでブレイクという流れの中で、ジェネシスのこうした功績は、もっと評価されるべきではないだろうか?
また、フィル・コリンズのドラムの音色については、エンジニアだったヒュー・パジャムと一緒に「ゲートリバーブ」と呼ばれるドラムの残響音を一定のレベルでバッサリとカットし、アグレッシブかつパーカッシブな音像を作り上げることに成功し、80年代のドラムの音を作り上げたと言っても過言ではないだろう。ゲートリバーブの音像は、メジャーなロックにとどまらず、XTCが積極的に導入したことで、パンク・ニューウェーブのアーティストにも大きな影響を与えた。
コロナ禍で延期されたリユニオンツアー、日本での実現を切に期待!
そして、そんなジェネシスは2020年11~12月にかけて、フィル・コリンズを含む “そして3人が残った編成” のジェネシスでの再結成ライブが決定していた。しかし、世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るったことを受けて、2021年4月に再結成ツアーが延期されることがアナウンスされている。
新作の録音に発展するのかは分からないが、80年代のジェネシスのライブといえば、バリライトがド派手にアリーナを照らしまくるエモーショナルな演出と、鉄壁のアンサンブルと、フィル・コリンズのショーマンシップが融合した “極上のエンターテインメント” と言われていた。残念ながら私はジェネシスのライブは未体験なので、今回の再結成ツアーがもし日本にも来たときは必ず体験したいと意気込んでいる。
きっと、新しいもの好きのフィル・コリンズのことだから、最新のテクノロジーと融合したビックリするようなショーを見せてくれるくれることだろう。そして、このリユニオンツアーの日本での実現を切に期待したいと願っている。
追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。
2020.10.26