森高千里が書く詞には二種類ある。「渡良瀬川」を代表とする、風景や温度まで伝わってくるような情緒が溢れ哀愁ただよう詞と、「ミーハー」や「ストレス」を代表とする、これぞ森高という “正直でリアルなオリジナリティの固まりのような詞” の二つだ。
吉田拓郎が、ミュージシャンとしての森高千里を「我々ミュージシャンが、今まで何十年もの期間をかけて作り上げた詞の世界観を、森高が一瞬で破壊してしまった」と、高く評価しているというのは有名な話だけど、もちろんこれは、これぞ森高という “正直でリアルなオリジナリティの固まりのような詞” の方のことだ。
では、なぜ森高千里はこれほどまでに正直でリアルな詞を書くことができるのか。
それは彼女にお手本が無いからに他ならない。プロの作詞家のような先に出来上がっている曲に合わせにいくテクニックも無いし、これは歌詞に相応しいとか相応しく無いとか、線を引いて言葉を選ぶこともしない。彼女が創り出す詞は、まさに今までの歌詞には無かった、若い女性(森高千里自身)の正直でリアルな日常なのだ。
だから森高千里はおもしろい。まさに、誰にも真似出来ない完全オリジナルの世界=森高ワールドだ。
「臭いものにはフタをしろ!!」は、僕が最も森高千里の正直でリアルな日常が表現されていておもしろいと思う曲だ。パイオニアのコードレス留守番電話のCMソングとしても採用されたので、ファンでなくても覚えている方は多いのではないだろうか。
エイトビートでノリノリのロックンロールで “おじさんになるな” という男性へのメッセージソング。発売されたのは1990年5月25日だから僕がまだ24歳の時だ。当時は他人事だったこの曲も、今聴くと、今の自分へのリアルで強烈なメッセージとなっているからドキッとしておもしろい。
Re:minder世代の方(男性限定)なら、きっと思い当たることがあるはずだ。僕はこの曲を聴くたびに自分は “臭いもの=おじさん” になっていないだろうか、と身を引き締める事にしている。
歌詞にもあるように、ストーンズ初来日の時に、コンサートを観に行かなかった彼女に、「アーティストなのに観に行かないなんてもぐりだ。オレは10回観に行った」と自分の価値観を押し付けてきた男に腹が立ったという実体験から生まれた曲らしい。
若い女の子の実体験をこうも正直に歌われて、しかも男どもの痛いところを見事に突く。こんな歌詞の楽曲を歌うアイドルなんて、当時も今も森高千里だけだろう。この曲で彼女が言っている “おじさん” は、年齢で区切っている訳ではない。ここがポイント。
「年齢に関係なく、自分(昔)の考えや価値観を押し付けてくるのがおじさん」だと言っているのだ。
年齢的におじさんになった僕は今、若い女の子と食事する時、この曲を教科書にしている。“おじさん” ではなくせめて “おじさま” って言われたいからね。アタマに “素敵な” が付いてくれればベストだ。
でも、雑学をシャワーのように浴びせる癖があるので、ダメかもしれない…。
2018.05.25
YouTube / 森高千里
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