最近、すっかり出不精になってしまった私。
以前は休日になると浅草あたりまで古い映画が観たくて六区に軒を連ねる名画座によく通ったものだ。健さんの「網走番外地」(東映)、市川雷蔵の「眠狂四郎」(大映)、扇ひろ子さんが恐ろしく美しかった「斬り込み」(日活)。こういった古きよき時代の作品を昭和の雰囲気を残した劇場で観る。
荒唐無稽なストーリーとアウトロー。そして美しいヒロイン。それがとても刺激的でたまらなかった。
映画を観終えると決まってその足は場外馬券場近くの飲み屋街へと向かう。休日の午後、まだ空は明るい。何しろこの辺りの飲み屋は日が暮れるとすぐに店じまいしてしまうので昼間から飲むというのが定番のコースだった。
イーグルスの「テイク・イット・イージー」(1972年)に誘われて入った店で私はチューハイを頼み、ザラメの砂糖で甘く煮込んだ牛スジを味わう。店主がロック好きだったため、有線はいつも洋楽チャンネルに合わせてあるのが気に入って、映画の後はこの店に入るのが私のルーティンであった。
一時間も飲んでいると真っ赤な夕焼けに包み込まれて飲み屋街が「三丁目の夕日」のような風景に変容する。そうなればじきに店じまいである。最後の一杯を注文するとなぜか決まって不思議と流れてくるのがジョージ・マイケルの「ケアレス・ウィスパー」(1984年)。
この曲が流れると私はちょっとばかりナーバスな気分になってしまう。日曜の夕方、テレビで「笑点」や「サザエさん」を観終えた後にやってくる一抹の不安な気持ち。子供の頃に感じたあの感覚である。
楽しい時間は過ぎ去って、この曲を聴き、また明日から仕事だと思うとチューハイの最後の一滴さへも愛おしく思われた。
Careless Whisper
作詞・作曲:George Michael / Andrew Ridgeley
発売:1984年(昭和59年)7月24日
2016.02.28
YouTube / georgemichaelVEVO
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