1989年、TVKに「1日でPVを作ってしまおう!」という企画番組が立ち上がった。撮影の様子を番組化し、最後に完成PVを流すというもの。ベールに隠されたアーティストの素顔を垣間見ることができる、なかなか面白い番組だった。
しかし、1日でPVを完成させるというのは、制作サイドはもちろん、アーティストにも大変な負担がかかる。CG処理が発達した現在なら、後からCG処理で華やかさを演出することも可能だが、当時は撮影が全て。何カットも撮影して編集する必要があった。多忙なアーティストのスケジュールを押え、1日でPVを完成させる企画がいかに無謀だったかが想像できるだろう。
確か初回のゲストがREBECCAだった。曲は1989年9月15日に発売された「Super Girl」。南国の海辺のセットに、草花をモチーフにしたビキニの衣装を着たNOKKO。スタジオには本物の白砂を敷き詰めており、NOKKOが「ほんとに砂を敷いてるよ!」と驚くシーンがインサートされていた。
他のメンバーに比べて、ヴォーカルのNOKKOは撮影シーンが多い。砂浜に寝転んだり、踊ったり、歩いたりと何カットもの撮影は夜中まで続いていた。
時間が経つにつれて、NOKKOが泣き言を言うシーンが多く流れた。その様子から現場の大変さが痛いほど伝わってきた。NOKKOがあまりにも大変そうなので、「無事に乗り切れますように」と応援する気持ちと、早く休ませてあげたい気持ちにもなった。
最後のカットの撮影が終わったとき、NOKKOが「やった終わったー! もう二度とやらないから!」とカメラに向かって叫び、スタジオから出て行った。もちろん冗談だからこそオンエアしたのだろうと思うが、最後は笑顔で終わるものと勝手に思い込んでいたのでとても驚いた。
しかし、数か月後、REBECCAは活動を休止し、その後解散した。あのとき、休止することが決まっていたのか、もしくは、思考が現実を作ったのか。
新約聖書中の「ヨハネによる福音書」の冒頭に“始めに言葉ありき” という言葉がある。解釈は諸説あるが、その中に「世界のあらゆるものは全て言葉によって現象化する」という解釈がある。それならば、まだ手にしていないことでも、既に実現したかのような言葉を使った方がいい。
さらには、「人は心で思うところの人になる」とも言う。
それならば、起こってしまったこと(=過去)を悔やんだり、これから起こること(=未来)を心配するよりも、今、この瞬間に集中した方がずっと良さそうである。
ちょっと視点を変えて捉えてみよう。未来も過去も私たちの頭の中、想像の中にしか存在しない。リアルに体験できるのは「この瞬間」だけなのである。確かに、今の積み重ねが未来を創るが、体験できるのは今だけ。実りある瞬間を重ねた方が自分にとって “得” なはずである。
少しの間でいい。
過ぎてしまったことやこれからのことに思考を忙殺するのをやめて、目の前のことを味わってみたらどうだろう?
「多忙な生活の不毛さに気をつけよ。―ソクラテス」
2017.11.18
YouTube / macsynth
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