1980年、ファーストアルバム『神』。81年、セカンドアルバム『神話』。82年、サードアルバム『黙示録』…どんな大層な題名や。
孤高のギタリスト、マイケル・シェンカーという存在はまぁ、それぐらいすごいわけではあるけれど、それにしても大層すぎる。
それぞれのアルバムの原題は『The Michael Schenker Group』『MSG』『Assault Attack』…普通やん。最初の2枚はまさかの「名乗ってるだけ」。3枚目も「急襲」という少し物騒な題名ではあるが、『黙示録』なんてそんな神様関係の意味はどこにもない。
昔から日本には神様が800万人もいるので、「プロレスの神様、カール・ゴッチ」だの「サッカーの神様、ジーコ」だのと神様が乱発される。いずれも現地ではそんな呼ばれ方をされているわけがない。キリスト教では神は天に唯一の存在である。
マイケル・シェンカーのアルバム邦題は、音楽雑誌「ミュージック・ライフ」編集部にいた酒井康がつけた。酒井は日本にハードロック/ヘヴィメタルを浸透させるため知恵を絞り、また単に自分の趣味で勝手な邦題を量産していた。酒井は、のちに日本初のヘビメタ専門誌「BURRN!」の編集長となる。
ぜんぶがぜんぶ酒井康の仕業ではないだろうが、オーストラリア出身のハードロックバンド、AC/DCの81年のアルバムは『悪魔の招待状』、スイスのヘヴィメタルバンド、クロークスの82年の作品は『悪徳のメタル軍団』、イギリスのジューダス・プリーストの『背徳の掟』(84年)…もう、音楽を演奏してるだけなのにめちゃくちゃ悪い連中にされている。英語の原題は全然関係ない。
爽やかなサウンドが持ち味のはずのアメリカのハードロックバンド達も例外なくやられた。モトリー・クルーの82年のデビューアルバムは『華麗なる激情』、同じくLA出身のラットが84年にデビューしたアルバム邦題は『情欲の炎』。…もう、音楽を演奏してるだけなのに色情狂のような扱いだ。
ヘビメタまわりのおかしな邦題の話は尽きない。勝手に「神」にされたマイケル・シェンカー様ではあるが、その超絶のギタープレイ、そして哀愁ありまくりの泣きのメロディ、中学生だった僕は、やっぱり神のように崇拝していたのだった。
そのマイケル・シェンカー様が83年9月に放った4枚目のアルバムが『限りなき戦い』だ。原題は『Built To Destroy』…まぁ、邦題もそんなに遠くない。なにより神様とか聖書とかそんな大層さはない。
そもそも、硬派だと思っていたマイケル・シェンカー様なのに、アルバムジャケットのお姉ちゃんは誰なのだ。なんで大切なギター「フライングV」をベンツに叩きつけているのか。ちょっとわけがわからない。
リンクを貼った「Rock My Nighits Away」を聴けばわかるように、これまでの3枚よりポップな面も打ち出しているが、ファーストアルバムのそれこそ伝説的なインスト曲「Into the Arena」再びといった「Captain Nemo」を聴くとやっぱり「神」だ。
そんな神様を一目見ようと84年の夏、中学男子3人組で、大阪・南港の「SUPER ROCK '84 IN JAPAN」へ参詣に行った。出演は、アンヴィル、ボン・ジョヴィ、スコーピオンズ、ホワイトスネイク、そしてマイケル・シェンカー・グループ。今考えるとありえない豪華さだ。
余談だが、その後も大スターであり続けた他の出演バンドの中で、カナダ出身のアンヴィルだけはその後、音楽シーンから忘れ去られていったのだが、2009年、再起にかける姿が『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』というドキュメンタリー映画になった。ドキュメンタリーには、ヴォーカルのリップスが数十年ぶりに再会したマイケル・シェンカーに声をかけるが、マイケルはまったく覚えていない、という悲しいシーンも収められている。だが映画は世界中で大ヒットし、アンヴィルも奇跡の復活を果たすのである。
さて。大阪ではじめて目の当たりにした「神」マイケル・シェンカーだが、ステージから遠すぎたのと、急遽加入したヴォーカリストがイマイチすぎて、あまり覚えていない。ただ、遠くからでもあの「フライングV」ははっきりと見えた。そして大阪・南港の野外ステージのすこぶる悪い音響でも、泣き叫ぶようなギターの音色だけは、中学生の僕に忘れられない夏を遺してくれた。
ちなみに、あとから読んだインタビューでマイケル自身が答えていたのだが、アルバムジャケットで壊していたギターは、ちゃんと直してツアーに持っていったそうだ。じゃあなんで壊したのかやっぱりわからない。僕が大阪・南港でみたフライングVはたぶん、その修理したやつだと思います。
2017.05.07
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