8月8日

マイケル・シェンカーの泣き叫ぶギターとヘビメタまわりのおかしな邦題

1100
4
 
 この日何の日? 
SUPER ROCK '84 IN JAPANの大阪公演(大阪・南港フェリーターミナル前広場)が開催された日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1984年のコラム 
松田聖子「ピンクのモーツァルト」松本隆が仕込んだ謎めいた言葉たち

80年代カラオケの実情:意外なアイドル、香坂みゆきの歌うフワフワ感

ラウドパークの原型?スーパーロック福岡公演は日本初の屋内メタルフェス

田原俊彦「顔に書いた恋愛小説」アイドルからエンターテイナーへ第2章スタート!

世界でいちばんドラムをカッコよく叩く男、それがコージー・パウエル

ストリート・オブ・ファイヤー「俺のロック」を教えてくれた青春の寓話

もっとみる≫



photo:FANART.TV  

1980年、ファーストアルバム『神』。81年、セカンドアルバム『神話』。82年、サードアルバム『黙示録』…どんな大層な題名や。


孤高のギタリスト、マイケル・シェンカーという存在はまぁ、それぐらいすごいわけではあるけれど、それにしても大層すぎる。


それぞれのアルバムの原題は『The Michael Schenker Group』『MSG』『Assault Attack』…普通やん。最初の2枚はまさかの「名乗ってるだけ」。3枚目も「急襲」という少し物騒な題名ではあるが、『黙示録』なんてそんな神様関係の意味はどこにもない。


昔から日本には神様が800万人もいるので、「プロレスの神様、カール・ゴッチ」だの「サッカーの神様、ジーコ」だのと神様が乱発される。いずれも現地ではそんな呼ばれ方をされているわけがない。キリスト教では神は天に唯一の存在である。


マイケル・シェンカーのアルバム邦題は、音楽雑誌「ミュージック・ライフ」編集部にいた酒井康がつけた。酒井は日本にハードロック/ヘヴィメタルを浸透させるため知恵を絞り、また単に自分の趣味で勝手な邦題を量産していた。酒井は、のちに日本初のヘビメタ専門誌「BURRN!」の編集長となる。


ぜんぶがぜんぶ酒井康の仕業ではないだろうが、オーストラリア出身のハードロックバンド、AC/DCの81年のアルバムは『悪魔の招待状』、スイスのヘヴィメタルバンド、クロークスの82年の作品は『悪徳のメタル軍団』、イギリスのジューダス・プリーストの『背徳の掟』(84年)…もう、音楽を演奏してるだけなのにめちゃくちゃ悪い連中にされている。英語の原題は全然関係ない。


爽やかなサウンドが持ち味のはずのアメリカのハードロックバンド達も例外なくやられた。モトリー・クルーの82年のデビューアルバムは『華麗なる激情』、同じくLA出身のラットが84年にデビューしたアルバム邦題は『情欲の炎』。…もう、音楽を演奏してるだけなのに色情狂のような扱いだ。


ヘビメタまわりのおかしな邦題の話は尽きない。勝手に「神」にされたマイケル・シェンカー様ではあるが、その超絶のギタープレイ、そして哀愁ありまくりの泣きのメロディ、中学生だった僕は、やっぱり神のように崇拝していたのだった。


そのマイケル・シェンカー様が83年9月に放った4枚目のアルバムが『限りなき戦い』だ。原題は『Built To Destroy』…まぁ、邦題もそんなに遠くない。なにより神様とか聖書とかそんな大層さはない。


そもそも、硬派だと思っていたマイケル・シェンカー様なのに、アルバムジャケットのお姉ちゃんは誰なのだ。なんで大切なギター「フライングV」をベンツに叩きつけているのか。ちょっとわけがわからない。


リンクを貼った「Rock My Nighits Away」を聴けばわかるように、これまでの3枚よりポップな面も打ち出しているが、ファーストアルバムのそれこそ伝説的なインスト曲「Into the Arena」再びといった「Captain Nemo」を聴くとやっぱり「神」だ。


そんな神様を一目見ようと84年の夏、中学男子3人組で、大阪・南港の「SUPER ROCK '84 IN JAPAN」へ参詣に行った。出演は、アンヴィル、ボン・ジョヴィ、スコーピオンズ、ホワイトスネイク、そしてマイケル・シェンカー・グループ。今考えるとありえない豪華さだ。


余談だが、その後も大スターであり続けた他の出演バンドの中で、カナダ出身のアンヴィルだけはその後、音楽シーンから忘れ去られていったのだが、2009年、再起にかける姿が『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』というドキュメンタリー映画になった。ドキュメンタリーには、ヴォーカルのリップスが数十年ぶりに再会したマイケル・シェンカーに声をかけるが、マイケルはまったく覚えていない、という悲しいシーンも収められている。だが映画は世界中で大ヒットし、アンヴィルも奇跡の復活を果たすのである。


さて。大阪ではじめて目の当たりにした「神」マイケル・シェンカーだが、ステージから遠すぎたのと、急遽加入したヴォーカリストがイマイチすぎて、あまり覚えていない。ただ、遠くからでもあの「フライングV」ははっきりと見えた。そして大阪・南港の野外ステージのすこぶる悪い音響でも、泣き叫ぶようなギターの音色だけは、中学生の僕に忘れられない夏を遺してくれた。


ちなみに、あとから読んだインタビューでマイケル自身が答えていたのだが、アルバムジャケットで壊していたギターは、ちゃんと直してツアーに持っていったそうだ。じゃあなんで壊したのかやっぱりわからない。僕が大阪・南港でみたフライングVはたぶん、その修理したやつだと思います。

2017.05.07
1100
  YouTube / AXEFLYERFV


  YouTube / 2012JohnGalt
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1969年生まれ
田中泰延
コラムリスト≫
13
1
9
8
5
トライアンフはなぜ来日しなかったのか? 80年代 HM/HR シーン最大級の謎
カタリベ / 中塚 一晶
85
1
9
8
6
ボン・ジョヴィが勝負を賭けた名盤「ワイルド・イン・ザ・ストリーツ」
カタリベ / 藤澤 一雅
93
1
9
8
4
スーパーロック ’84 イン・ジャパン — 80年代でもっとも熱かった夏の日
カタリベ / 藤澤 一雅
28
1
9
8
9
ブラック・サバスの不遇ボーカリスト、トニー・マーティンは頑張り屋!
カタリベ / 鳥居 淳吉
12
1
9
8
1
ジャパン「錻力の太鼓」グラマラスな美貌のアイドルバンドが芸術性を獲得!
カタリベ / 岡田 ヒロシ
33
1
9
8
9
80年代ジャパメタの既成概念を打ち壊した「X」の軌跡と奇蹟
カタリベ / 中塚 一晶