中森明菜 Best Performance on NHK in January Vol.2(2026/1/15配信)
1980年代のJ-POPシーンを語るうえで、必ず名前が挙がる存在―― 中森明菜。その評価は当時を知る世代にとどまらず、SNSや動画配信サービスを通じて楽曲に触れた若い世代にも確実に広がっている。そう、その表現力は時代を越えて通用するものとして、現在進行形で支持を集めているのだ。現在、そんな彼女のNHK出演映像をデジタルリマスターして無料配信するプロジェクト『中森明菜 Best Performance on NHK』が、2025年4月から1年間限定で毎月1〜2回公開されているが、2026年3月の終了までいよいよ残りわずかとなった。
異色のテクノ歌謡として知られている「禁区」 1月15日に配信された楽曲は1984年から1987年に放送された回から以下の4曲。
▶︎ 禁区
『レッツゴーヤング』1984/1/15放送
▶︎ 十戒(1984)
『レッツゴーヤング』1985/1/6放送
▶︎ Fin
『おもいっきりスタジオ101』1987/1/4放送
▶︎ SOLITUDE
『おもいっきりスタジオ101』1987/1/4放送
まずは、『レッツゴーヤング』で披露された「禁区」。1983年に細野晴臣が作曲して発表されたこの曲は、シンセサウンドを前面に押し出したアレンジが印象的で、当時の歌謡曲シーンの中でも異色のテクノ歌謡として知られている。この曲はテレビの歌番組においてオリジナルのアレンジを再現しにくく、本人も歌いにくかったのではないかと考えるのは邪推だろうか。しかしそれを感じさせず、難易度の高い曲を淡々と歌い上げている点に、当時の中森明菜の表現力の高さがうかがえる。
また、『レッツゴーヤング』での「禁区」の歌唱映像が公開されるのはこれで5度目となるが、それぞれが違う衣装での披露となっている。今回の衣装は前衛的でアーティスティックなモード。ターコイズグリーンを基調にしたオーバーサイズのトップスで、身体のラインをあえて曖昧にする構築的シルエット。抽象絵画のように赤や黄色が配色され、曲と相まったテクノポップ感を強く感じさせる。
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終盤でしなやかにのけぞる「十戒(1984)」のパフォーマンス 続いての「十戒(1984)」も、先ほどと同じ『レッツゴーヤング』で披露された映像から。今年1月1日公開のラインナップにも含まれている「飾りじゃないのよ涙は」と同日の歌唱映像である。
曲が始まる前に紹介されるファンからのイラストやレター、そして曲前から飛び交う黄色い歓声からは、当時の圧倒的な人気ぶりが伝わってくる。そんな熱狂的な空気とは対照的に、彼女が身にまとっているのは装飾を抑えた黒を基調としたシックなワンピースだ。「十戒(1984)」の衣装といえば、胸元に十字架を光らせ、チュールスカートにレースのグローブを合わせた姿を思い浮かべる人も多いだろう。しかし今回の衣装はシンプルで、身体のラインを美しく際立たせるデザインとなっている。
この曲の振り付けでとりわけ印象的な、終盤でイナバウアーのようにしなやかにのけぞるパフォーマンスも、より映えているように思える。ワンコーラスのみの歌唱ながら、要所でカメラをじっと見据えて歌う視線の強さも相まって、短い時間とは思えないほどのインパクトを残している。
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中森明菜の表現者としての魅力が凝縮されている「Fin」 次の2曲は『おもいっきりスタジオ101』からの映像だが、こちらは今回の配信を機に知った番組だった。この頃は『レッツゴーヤング』が終了して、その後継番組として『ヤングスタジオ101』が始まっていたことから、この番組のお正月特番的な位置付けであった可能性が高い。1度きりのお正月番組ということであれば、今となっては滅多に観られない貴重な歌唱映像であることがわかる。
この番組で披露された「Fin」は、衣装・佇まい・歌声のすべてが静かに結びついた印象的な1曲だ。この曲をカーキ系の衣装で歌う映像はよく見かけるが、今回は全身を白で統一したスタイリングで登場。深めにかぶった白いハットの縁から、凛とした大人の表情を覗かせている。オーバーサイズの白いロングコートが翻るたび、その内側に隠れていたきゅっと締まった白いワンピースが現れ、計算されたシルエットの美しさが際立つのも今回の衣装の魅力だ。派手な演出に頼らずとも、佇まいと低音域を軸にした深みのある歌声だけで聴き手を引き込み、この曲の静かな余韻を形づくっている。そこにこそ、彼女の表現者としての魅力が凝縮されている。
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仕草や佇まいにも一層の大人びた落ち着きが感じられる「SOLITUDE」 続く「SOLITUDE」も、「Fin」と同じく静かな余韻をまとった楽曲だが、その表現はより内向きだ。衣装はシルバーと黒のチェック柄のドレスで、華やかさを抑えた色合いが楽曲の孤独感を滲ませている。額を出したヘアスタイルによって、先ほどの「Fin」とは異なり表情は隠されることなく、どこか寂しげな憂いがそのまま画面に映し出される。
この曲は、発表から約1年半を経てのパフォーマンスとなるが、リリース当時に比べて表現はより抑制され、仕草や佇まいにも一層の大人びた落ち着きが感じられる。身振りは控えめで、立ち姿やわずかな視線の動きで心情を伝えるパフォーマンスが印象的。静かでありながら感情の密度は高く、その佇まいが「SOLITUDE」という曲名にふさわしい孤独の気配をじわじわと印象づけていく。
VIDEO 今回の4曲はいずれも、これまでもさまざまな番組で何度も歌われ、このプロジェクトで幾度と配信されてきた楽曲だ。しかし、その瞬間ごとの表情や衣装、テンポ感や声の揺らぎには異なる魅力があり、同じ曲であってもまったく違う印象を受ける。ぜひ『中森明菜 Best Performance on NHK』で公開される貴重な映像の数々を通して、中森明菜というアーティストのパフォーマンスを堪能していただきたい。
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2026.01.23