女性アイドルの勝負曲は5曲目?
「アイドル5曲目ブレイク説」
―― とは私が勝手に言っている話なのだが(笑)、80年代前半の女性アイドルは5曲目のシングルに勝負曲を持ってきてブレイクしているケースが多い。
例えば1980年にデビューした河合奈保子「スマイル・フォー・ミー」や柏原芳恵(当時は柏原よしえ)「ガラスの夏」は、それまでの曲よりもグンとセールスを伸ばしている。どちらもシングル5曲目のリリースである。
1982年デビュー組の場合、デビュー曲から飛ばした松本伊代や2曲目で一気にブレイクした中森明菜は例外として、他のアイドルたちはやはり5曲目でブレイクしている。
堀ちえみ「さよならの物語」、早見優「夏色のナンシー」、石川秀美「Hey!ミスター・ポリスマン」、そして小泉今日子「まっ赤な女の子」と、並べてみたらご納得いただけるだろうか。どれも各々のアイドルとしての存在を印象付けた曲で、この5曲目をきっかけに安定した人気を獲得している。
小泉今日子が挑んだ70年代正統路線「半分少女」
となると、当然その次の6曲目が大事になってくるわけで、ちえみは「夏色のダイアリー」、優は「渚のライオン」、秀美は「恋はサマーフィーリング」と、夏らしく明るいポップなナンバーを持ってきた。
しかしキョンキョンは少し違った。デジタルアレンジを施したテクノポップ歌謡「まっ赤な女の子」と同じような路線で行くのかと思いきや、70年代歌謡を彷彿とさせる正当路線で挑んできた。それが「半分少女」である。
作詞は橋本淳。ブルー・コメッツやヴィレッジ・シンガーズといったGSの曲から、いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」平山みき「真夏の出来事」まで、60年代から70年代にかけて、たくさんの名曲を生み出された方である。
そして作曲は筒美京平、となると、このタッグから漂うのは70年代。私が最初にこの曲を聴いたときは、前作と違って少し後戻りしたような、アナクロな香りがしたのだが、キョンキョンが好きだと言っていた私のクラスメイトも「なんか今度の新曲、古くさくね?」と感想を述べていた記憶がある。
橋本淳×筒美京平コンビが放った80年代アレンジ、小泉今日子の声も際立つ
しかしよくよく聴いてみると、70年代と明らかに違ったのはそのサウンド。当時大流行したYAMAHAのシンセサイザー「DX7」を多用しており、80年代にアップデートされたアレンジに仕上がっている。
それにこの曲、シンプルに聴こえるが、実はメロディに結構な高低差がある。歌うのはなかなかに難しかったのではないかと思うのだが、そこがキョンキョンの魅力を引き出す鍵だったのではないだろうか。
そう、この曲の魅力は何といってもキョンキョンのヴォーカルにある。高低差があることで、あのコケティッシュな、ほんと少し後を引くようなあの声がより際立つ。そしてその声で、
かなしくしく 泣いてるわ
うれしくしく 感じるの
などと歌われた日にゃもうメロメロである。特に、
Hold me tight~
… を、
ほ~みた~い
… と粘っこく歌うくだりは “メロメロ最高到達点” と言えよう。キョンキョン全曲の中でも最高ではないだろうか? そのくらいあの「ほ~みた~い」の粘っこさは強力である。
歌詞と曲名がたくましくさせる “聴き手の想像力”
また、行間を想像させる橋本淳の歌詞も素晴らしい。
夕べはゴメンね
おびえてしまったのよ
ん? 一体夕べは何があったの? と、聴き手に委ねるところが実に憎らしい。「半分少女」というワードも含めて、想像たくましくするのがこれまた楽しかったりもするのである。
余談だがこのコラムを書くにあたり、前出のクラスメイトが「ほ~みた~い」の頭に「あ」を付けて「アホ~みた~い」と替え歌していたという、とてもくだらないエピソードを思い出してしまった。ほんとにくだらねー(笑)。
ちなみにこの曲はオリコンシングルチャート最高4位、『ザ・ベストテン』でも同じく最高4位を記録し、前作のブレイクからうまく上昇気流に乗ることができた。そして、その次にリリースした「艶姿ナミダ娘」でエンジンがかかったキョンキョンはさらにアイドルとして邁進していくわけだが、その前にこんな佳曲があったんだよ、ということを思い出してもらえたら嬉しい。
40周年☆小泉今日子!
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2022.02.20