じつは結構高いハードル? 女性アイドル主演の映画
80年代女性アイドルの成功を測る指標。シングルレコードのリリース枚数、ヒット曲の数、歌番組での露出度、ドラマの主演…… 等々。そして、そのひとつに映画への主演もあると思います。新人アイドルを売り出すための作品(パンジー『夏の秘密』、少女隊『クララ白書 少女隊PHOON』、セイントフォー『ザ・オーディション』等)は除いて、ここは “主演3作品以上” でフィルターをかけてみます。
薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子、斉藤由貴と言った映画製作会社所属の女優を除けば、この基準をクリアするのは、松田聖子(『野菊の墓』『プルメリアの伝説 天国のキッス』『夏服のイヴ』『カリブ・愛のシンフォニー』)、小泉今日子(『生徒諸君!』『ボクの女に手を出すな』『怪盗ルビイ』)、菊池桃子(『パンツの穴』『テラ戦士 ΨBOY』『アイドルを探せ』)、南野陽子(『スケバン刑事』『はいからさんが通る』『菩提樹 リンデンバウム』)くらいではないでしょうか。結構高いハードルです。
女子大生ブームを蹴散らしたおニャン子クラブが映画に進出
1985年フジテレビでスタートしたバラエティ番組『夕やけニャンニャン』。番組内のオーディションで選ばれたメンバーたちで構成されたおニャン子クラブは、当時の女子大生ブームを蹴散らし、人気は社会現象化。全メンバーの出したレコード売上はたった1年間で900万枚以上。1986年、主演作品『おニャン子 ザ・ムービー 危機イッパツ!』でハードルの高い映画に進出します。
監督には海外に長く住み、映画ジャーナリストから監督になった新進気鋭の原田真人(現:原田眞人)。おそらく時間のない中で、素人の女子高校生(一部除く)集団に役を演じてもらおうとは最初から考えなかったのでしょう。ダンスレッスン、テレビリハーサル、ポスター撮影、ラジオ局のDJトークなど彼女たちの日常の姿を撮影。一方で桃井かおりはじめプロの役者にドラマパートを演じてもらいます。
■ おニャン子の私物をオークションしたり、おニャン子クローンをアメリカで研究させたりする隠れおニャン子総会(山口良一、安岡力也、小野武彦)
■ おニャン子たちが卒業していくのが耐えられず、コンサート会場爆破計画を立てる男(関根勤)
■ 田舎町からおニャン子のコンサートを観るために横浜球場まで走る若者たち(江口洋介と宮川一朗太)
これらを監督のご子息原田遊人くんを中心につなぎ合わせることで、作品を創り上げることにしたのかと思われます。
主題歌は「お先に失礼」人気メンバーにはソロ曲の見せ場
2021年3月、国立映画アーカイブ『1980年代日本映画―― 試行と新生』で本編を再見。1986年8月梅田劇場で観て以来、じつに35年ぶり。
オープニング、日本武道館でのコンサート。「セーラー服を脱がさないで」のイントロが流れステージに走り出てくるおニャン子たちの姿にテンションがグッと上がります。それは、洋楽好きが『ボヘミアン・ラプソディ』ライブエイドのシーンに興奮するのはこんな感覚なのだろう… と思ったり。
主題歌「お先に失礼」は夏らしいアップテンポの曲。秋元康先生の詞は「セーラー服を脱がさないで」同様テーマは “夏・体験物語” かと。「♪GO! GO! GO!」「♪急いで急いで頭で考えるより 急いで急いで実践するのが大切」「♪お先お先に失礼 誰かねェ早くレディにさせて」と劇中前半に2回流れます。
そして人気メンバーにはソロ曲の見せ場も!
■ バレンタイン・キッス / 国生さゆり
■ 瞳に約束 / 渡辺美奈代
■ 自分でゆーのもなんですけれど / ニャンギラス
さらにBGMで、
■ 夏のクリスマス
■ 風のInvitation / 福永恵規
■ およしになってねTEACHER
■ KISSはMAGIC / 福永恵規&内海和子
■ 象さんのすきゃんてぃ / うしろゆびさされ組
■ バナナの涙 / うしろゆびさされ組
■ 落ち葉のクレッシェンド / 河合その子
そして後半は横浜球場サマーコンサート。映画版のセットリストは、
■ 乙女心の自由型
■ 避暑地の森の天使たち / 渡辺美奈代、渡辺満里奈、富川春美
■ 夏を待てない / 国生さゆり
■ シンデレラたちへの伝言 / 高井麻巳子
■ 夏休みは終わらない
■ 瞳の扉
■ 冬のオペラグラス / 新田恵利
■ じゃあね
■ 真っ赤な自転車
―― 「瞳の扉」でぐっときます。なんでこれが最後じゃないんだろう?
おニャン子クラブでも超えられなかったアイドル映画のハードル
映画のラスト、横浜球場にようやく到着した若者たち。会場後の方から、このツアーで卒業となる新田恵利 / 名越美香 / 福永恵規 / 吉沢秋絵 / 山本スーザン久美子が「真っ赤な自転車」を歌うのを見つめます。カメラが彼らをぐるっと回ると、自分もその隣にタイムスリップしたような感覚に。そう、江口洋介も1967年生まれの同い年、18歳。僕たちの1986年の夏が終わります。
映画興行の方は、とんねるず主演『そろばんずく』と2本立てで公開されるものの不入りに終わります。
結局翌年の解散までグループとしての映画は製作されず、メンバー主演の作品は国生さゆり『いとしのエリー』(同時上映『タッチ3 君が通り過ぎたあとに』)のみ。アイドル映画のハードルはおニャン子たちでも超えられない高さだったようです。
2021.08.23