80年代の豪快な記憶の多くはお酒とともにある。
六大学野球で明治大学が優勝すると、歌舞伎町の噴水は大騒ぎになった。初戦から熱心に応援していたわけでもないのに、周囲の熱気に煽られ次々飛び込む阿呆ども。やがて噴水から水が抜かれたのはたぶんそのせいだ。
地元の友達とスキーに行けば三日三晩の大宴会。今や有名企業で大仕事を成し遂げているSくんが介抱されながら突然「台所で吐くことをなんて言うか知ってる?」と世に問うたキッチンハイター事件や、抱き付いた便器ごと横に倒れた人、朝食の席でもまだ酔っぱらっていて「今からじゃんけん大会をやります!」と叫んだ人。みんな今もそれなりに楽しそうに生きている。
だがしかし、そんな話をすると「いや、俺らはそんなもんじゃなかった」と言ってくる輩がいた。チェッカーズ(というか、武内享)だ。
午前9時から仕事なら3時間前の6時まで飲むのが当たり前。ツアー中でも朝まで飲んで、ライブが終わるや否やまた飲む。リハーサル後のシャワーでお酒を抜いて本番に間に合わせるなど朝飯前。
ある年の紅白では集合してみたら6人しかいない。藤井尚之がいない。昨晩からGOLDで飲んでいて、そのまま酔いつぶれて寝ていることは明らかだった。マネージャーに迎えに行かせる一方、リハならばひとりぐらい足りなくてもバレないだろう、と何食わぬ顔でそのまま決行。
86年2月21日にリリースされた「OH!! POPSTAR」にはサックスの音が入っていない。レコーディング前に尚之が西麻布の横断歩道でタクシーにはねられて腕を骨折したからだ。
ポーンと跳ね飛ばされ次の瞬間、唖然とするメンバーを後目にすくっと立ち上がった彼は向こう側へと渡り、恥ずかし気に物陰に隠れたという。「まあ仕方ない」と2軒目に入ってさらに飲み始めた一行だったが、腕の痛みは増すばかり。日赤の救急に行けば当然のごとく骨折診断。『ザ・ベストテン』などへの出演時も尚之はギターを下げ、リーダーたる享が「今回はギターアレンジで…」とMCの疑念をかわしているはずだ。
尚之がはねられたのは旧レッドシューズの前だった。レピッシュ、バクチクなどの打ち上げでの思い出も数多い、伝説の不夜城。定番はコロナとスパイシー焼きそば。場所を青山に移した今もたくさんの逸話を生み続けている。
2017.09.19
YouTube / ELEKU1
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