8月25日

角川映画「蘇える金狼」松田優作が演じるダークヒーローに僕らはハマった!

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中二病の僕らがハマった “新時代のダークヒーロー”


映画『蘇える金狼』が公開されたのは1979年の夏休みのころ。当時といえば僕らの世代はちょうど中二病(厨二病)の真っただ中にあった。悪っぽいものやオタクっぽいメカや道具に憧れ、クルマやバイク、時として拳銃やナイフのようなものにまで思いを馳せることもあった。当然音楽の趣味も歌謡曲よりもロックや洋楽へ興味の中心が移り、異性の好みについてもより大人っぽい志向を公言するようになる。

主演の松田優作が演じる主人公 “朝倉哲也” は、そんな僕らがハマるダークヒーローとなった。題材として扱われる企業の汚職や癒着など、法的に難しいことはよくわからないが、麻薬や殺人などの犯罪はテレビの刑事ドラマでもお馴染みだからそれとなく理解はしていた。

マセラティやランボルギーニのスーパーカーを乗り回し、鍛え上げた肉体を黒のレザースーツで覆い隠したスタイル。表はうだつの上がらないサラリーマンだが、裏ではプロボクサー並みの格闘術と射撃の腕前、明晰な頭脳を活かして私欲にまみれた悪党どもを一蹴する。そのリアリティのある二面性は幼少期に変身ヒーローものに慣れ親しんだ僕らの願望にも通じるものがあったかも知れない。

ダークヒーローを体現した松田優作


バイオレンスあり、濃厚なラブシーンありで、今見れば明らかにR指定は免れない内容に違いないが、つくづく当時はまだ大らかな時代だったのだろうと思う。

法的社会的環境、また職業観からいっても、ハードボイルドなアクションヒーローといえば、日本ではせいぜい刑事か私立探偵と相場が決まっていた。昔の日活映画には “殺し屋” なんて稼業が描かれていたけれど、果たしてそれがヒーローかといえば違うだろう。『ゴルゴ13』はといえばその活躍の舞台は国内に止まらない。原作者の作家、大藪春彦がその道の草分けといわれるのは、こうしたハードボイルド不毛な土壌にサラリーマンを主人公としたアクションエンターテインメントを生み出したことにある。

同氏の複数の作品に登場する『野獣死すべし』の主人公 “伊達邦彦” はシリーズに欠かせないキャラクターであるが、概ね似た境遇に置かれている。そしていずれをも演じた松田優作はそれをビジュアル的に体現した憧れの存在となった。それまで『太陽にほえろ』のジーパン刑事など熱血キャラのイメージが強かった彼が、エキセントリックな側面を併せ持ったクールなダークヒーローとして再登場したことに僕らは陶酔した。

“映画を作って本を売る”角川が変えた日本のエンターテインメント


少し前『セーラー服と機関銃』について書いた際(『来生たかお「夢の途中」と 薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」の関係はいかに?』参照)、莫大な宣伝費と大掛かりなプロモーションで興行を成功に導く角川映画について触れたが、この『蘇える金狼』もその角川映画の初期の代表作の一つである。

当時はまだ映像コンテンツが今ほどの汎用的価値を持たなかった頃。瞬間最大風速を吹かせたとしても一過性に過ぎない映画ビジネスよりも、人件費以外の原価が “紙” と “インク” という出版ビジネスでベストセラーを生み出す方が長い目で見て大きな利益を生む。

だが代表である角川春樹はいわゆる「角川商法」について語った当時のインタビューで、一作品を売り出すのに映画を作り何億ものプロモーション予算をつぎ込むのはさすがに採算が合わない。それよりもその作家たち「横溝正史、森村誠一、或いは大藪春彦といえば角川文庫」という認識を人々に植え付けることが重要ということなのである。

映画の原作本はもちろんその作家の作品は必ずと言っていいほど人々に注目されて、継続的に売り続けることができる。大藪春彦の主な著作には、当時既に徳間書店から新刊本としてリリースされていたものも少なくないが、初版から既に何年も経過して、もはや多くの人にその印象は残っていない。『蘇える金狼』は1964年、『汚れた英雄』は1966年、『野獣死すべし』に至っては1958年のリリースになる。そこで書店の目立つところにPOPやポスターを張り、書棚の端の「エンド」と呼ばれる場所に作家の作品を集め平積みにしてキャンペーンを張れば、映画を楽しんだ人たちはきっとその世界観にも興味を持って他の著作も手に取るはずだ。

古書店をのぞけば「角川文庫」として人々の手に渡ったこれらの作品を目の当たりにすることになるだろう。出版社が特定の作家を推すこと自体、決して珍しいことではない。が、これほどスター作家を作るのに躍起になっていた時代もなかったと思う。

転機を迎えた俳優・松田優作。未踏の地ハードボイルドに挑む


『蘇える金狼』本筋の時代背景については、原作が出版された東京オリンピックの前頃ということになるから、1979年当時すでに時間の経過を感じさせる個所は見受けられる。もとより大藪作品では主人公の愛用品など、登場するアイテムの描写一つ一つがまるでコンテのように細かく、それもまたファンが魅入られるポイントでもあった。

しかし高速道路すらなかった当時、描かれていた主人公の愛車は、伝統的な英国製の2シータースポーツ。映画ではそれがイタリア製のスーパーカーに置き換えられるなど、映像化に際して “現代的” に刷新されているのだが、その分かりやすさも観衆から支持されたといっていい。

そして俳優として大きな転機を迎えていた松田優作にとっても、このキャラクターはまさにハマリ役となった。

新人として『太陽にほえろ』への出演以来、順調にキャリアを重ねてきたかに思えた彼はある不祥事から約1年間の謹慎を余儀なくされていた。そこで復帰に際しては尊敬する渡哲也からの「もっと映画に出ろ」というの助言もあって、テレビからスクリーンの方に重きを置くようになり、1977年、角川映画の話題作『人間の証明』で主役という大抜擢を受ける。主人公・棟居刑事の抑制の効いた演技は評判となり、映画も大ヒット。角川映画に近しい存在となっていった。

またこの間彼はテレビドラマ『大都会シリーズ』への出演で監督村川透と出会う。その後も東映ハードボイルド路線を推し進めた『遊戯シリーズ』をはじめ、まさしく『金狼』と同時期に制作されていたとは思えないコミカルな演技で新境地を開いたドラマ『探偵物語』から遺作となった1989年の単発ドラマ『華麗なる追跡』に至るまで、村川監督とは数多くの作品でタッグを組むことになる。『金狼』の制作体制が実現した背景には、大藪作品の映像化に際して東映と良好な関係にあった角川側が、松田を起用するにあたり『遊戯シリーズ』の実績で十分計算できるユニットを流用したという事情もあるのだろう。本作に続く大藪春彦シリーズ第2弾『野獣死すべし』でも二人のコンビで作品を世に送り出している。

ヒロインを演じた風吹ジュン、主題歌を歌った前野曜子


俳優としての転機というなら、ヒロインを演じた風吹ジュンについてもまさに同様であった。彼女は1973年にアイドルとしてデビューするも、やがて所属事務所のマネジメントが合わずに移籍騒動を引き起こした。その後も年齢や経歴詐称の疑惑が持ち上がるも自らこれを認め、スキャンダルをものともしない “ぶっちゃけキャラ” としてイメージ転換を図ろうという、まさにその過渡期にあったのである。

彼女の役どころは主人公が務める企業の役員の愛人という設定。激しい濡れ場を見事に演じ切ったことをセンセーショナルに扱った宣伝サイドの意向もあって、映画を観る前から僕らの間でも話題になっていた。この体当たりの演技が功を奏して、演技派女優としての彼女の道は開かれる。齢70を数える今も相変わらず可愛げのある女性を演じることが多く、まさに今オンエア中のマクドナルドのCMでも共演する尾野真千子の母親役として自然体で飾らない演技を見せている。

ところで音楽情報サイトRe:minderとしては主題歌について触れないわけにはいかないだろう。当時の角川映画のプロモーションにはテレビCMにも用いるテーマ曲が不可欠であった。

 動く標的、狙いをつけて
 燃え上がる真昼の静けさは
 ねぐらをなくした獣の涙

あえてCM用に抜粋された2番の歌詞は、ひたひたとターゲットをつけ狙う主人公の心情を表し、まさに作品全体に通じているといっていい。

この「蘇える金狼のテーマ」を場末感たっぷりに歌い上げているのは前野曜子。その名前にすぐにはピンとこなかったが、1971年に結成された “ペドロ&カプリシャス” でデビュー曲「別れの朝」をヒットさせた初代のボーカリストである。宝塚出身の彼女はその歌唱力を買われてグループに参加するも体調不良から2年で脱退(後任は高橋真梨子)。



その後紆余曲折あってソロとなったが不遇もあって健康を害し、1988年に亡くなっている。享年40は奇しくも翌89年にこの世を去った松田優作と同じであった。彼女の歌唱は作中、エンディングにも用いられているから、映像とともに残り続けることだろう。

伝説のシーンにつながる? ストイックなヒーローの死


映画は半ばトラウマになるような松田優作迫真の死の表情で幕を閉じる。

前述のように作中では原作と異なる様々な設定変更が行われる中、この作品はあえてハッピーエンドにはしないというプロデュース側の意図もあり、エンディングについても “主人公の死” という設定が用いられている。海外逃亡を企てた朝倉は、共に旅立つつもりでいた恋人に刺されて深手を負う。瀕死の重傷で何とか機内にたどり着くも、焦点の定まらぬ表情で妄言を口にしながら事切れるというものである。

詳しい説明こそないが、おそらく激痛を抑えるためにモルヒネを過剰摂取してオーバードースとなり死に至ったというところだろう。役作りのためなら厳しい減量も辞さず、奥歯を抜いてまで表情を作る彼のこと、真っ青な表情のまま瞬きもせず、首だけぽっきり折れたように客席に倒れ掛かる様には、その気迫に圧倒されてしまう。

いま改めて目にすると、あの伝説ともいえる『ブラック・レイン』で死を前にしての鬼気迫る演技は、ここから既に通じるものがあったのかも知れないと思えるのである。

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2022.08.25
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