2021年 3月10日

シンガーとしての松田優作「1978-1987」音楽に真正面から取り組んだ魂の軌跡

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松田優作のベストアルバム「YUSAKU MATSUDA 1978-1987 MEMORIAL EDITION」がリリースされた日
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photo:Victor Entertainment  

リイシューされたシンガー松田優作のベストアルバム


2021年3月10日。今年没後32年目を数える松田優作のシンガーとしての成熟期をパックしたベストアルバム『YUSAKU MATSUDA 1978-1987』がMEMORIAL EDITIONとして初回限定版2CD+DVD、ブックレット付でリイシューされる。そこで、シンガー松田優作の軌跡を振りながら、本作の内容についてスポットを当ててみたいと思う。

松田優作のシンガーとしてのキャリアを遡っていくと、それは1976年7月25日にリリースされた自身のファーストアルバム『まつりうた』に起点がある。当時すでにシンガーとしての存在感を十二分に発揮していた兄貴分、原田芳雄の影響も大きかったと思うが、それ以上に、アクター、表現者として自分に何ができるかという挑戦がはじまりだったように思う。

『まつりうた』にはテレビドラマ『探偵物語』(松本刑事役)をはじめ数多くの場面で共演を果たした盟友・山西道広も楽曲を提供。収録曲の中には、台詞がメインの実験的なものあり、極めて演劇色強い作品だった。

常に模索、自らと格闘して高めてきたクリエイティビティ


常に模索し、自らと格闘し、クリエイティビティを高めてきた優作さんは、役者業だけにとどまらず、常にアイディアが溢れ、やりたいことが山積みにあり、これらをどのように昇華させアウトプットしていくか… という意識の中で生きてきたと思う。

その中で、時には思いが溢れすぎ常人の意識を遥かに超えた観念的な部分に作品が存在しているということもあった。優作さん自身初監督を務め、石橋凌の主演で1986年に公開された『ア・ホーマンス』がまさにそれだったと思う。

もし、優作さんが存命し、監督業を続けていたならば、『ア・ホーマンス』に内包された仏教思想に帰依した精神性を活かしながらも、また新たな方法論を導入し、例えばエンタテインメント性のある全くスタンスの違った傑作を生みだしていただろう。

“引き算の美学” で続けた音楽活動


シンガーのキャリアにしてみても、これと同様で、アクター松田優作としての存在感からアルバムを制作するという立ち位置は、セカンドアルバムの『Uターン』までだった。以降はシンガーという存在感のみに特化し、ぜい肉をそぎ落とすしていくという “引き算の美学” で音楽活動を続けていく。

そのひとつの転換期が1980年にリリースされたサードアルバム『TOUCH』だ。ここに収録されている「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」は、現在も脈々と受け継がれる不良で洒脱な横浜音楽カルチャーの開祖とでもいうべきザ・ゴールデン・カップスのエディ藩作曲、藤竜也作詞。藤竜也、エディ藩、原田芳雄と歌い継がれた名曲だ。

チルアウトしながらも雨に煙る異国情緒、アルコールとブルースの似合う無国籍風情の街の情景が脳裏に浮かび上がる楽曲持つ生命体のようなものを優作さんのカラーで見事自らの代表曲として昇華させた。

梅林茂とタッグ、シンガー松田優作レゲエやニューウェイブに傾倒


しかし、優作さんの凄いところはシンガーとしてのキャリアをここに甘んじることなく模索し続けたということだろう。続く1981年には、私立探偵を兼ねたブルースシンガーという役どころで、自らが歌う場面をオープニングで効果的に取り入れた主演作『ヨコハマBJブルース』の公開に合わせ、この映画の主題歌にもなった「ブラザース・ソング」を収録した『HARDEST DAY』をリリース。松田優作のブルースの世界が、前作を凌ぎ新たな世界観を確立した。

ちなみに『ヨコハマBJブルース』は友情、同性愛ギリギリの部分をハードボイルドに、そして人間のグッと深い部分での出逢い、優しさなどをダーティな演出の中に内包した異色作である。と同様に、シンガー松田優作の主演作とも言えるぐらい、その存在感は強烈であった。

さらに、翌1982年にリリースされた『INTERIOR』は、優作さんが全幅の信頼を寄せ、“音楽の共犯者” と称した梅林茂とタッグを組み、レゲエやニューウェイブに傾倒しながらもアジアンテイストを兼ね備えた意欲作だった。

自身初のベストアルバム、ミュージシャン松田優作の集大成


ここに到達した時点で松田優作は、アクターという肩書とは別の位置に存在していると言えるぐらいに完成度の高いものであった。そして、その後もこの『INTERIOR』を踏襲しながらも、より感性を研ぎ澄ませ、1985年に『DEJA-VU』、1987年に『D.F. NUANCE BAND』をリリースさせてゆく。

つまり、没年の翌年に自身初のベストアルバムとしてリリースされ、今回初リマスター、高音質CDとしてリイシューされる『YUSAKU MATSUDA 1978-1987』は、シンガー松田優作が確立され、深化してゆく過度をリアルに感じ取り、その輪郭を体現できる集大成だとも言えるだろう。

80年代の優作さんは、役作りのために10kgの減量をし、奥歯を抜くなど果敢な状況で挑んだ『野獣死すべし』で、もはやアクション俳優という肩書から脱却。自らの死生観を反映させ、重厚な作品として世に送り出すことから始まった。

その後も1983年の『家族ゲーム』、1985年の『それから』と常に新境地を切り開き、日本が誇る唯一無二のアクターとしてハリウッドに進出。1989年のリドリー・スコット監督『ブラック・レイン』を遺作とした。

本邦初公開、追悼ライブ「YUSAKU MATSUDA SOUL VIBRATION」


このように、まさしく “魂の軌跡” とでも呼ぶべきものをスクリーンに映し出していった優作さんは、これと同じようにシンガーとして、音楽に真正面から取り組んだ。その軌跡をパックしたものが、このベストアルバムであることは言うまでもない。

そして、今回『MEMORIAL EDITION』としてリリースするにあたり、近頃発見された、『D.F. NUANCE BAND』の未発表テイクを3曲初CD化。ここでは、『ヨコハマBJブルース』のオープニングを飾った「灰色の街」の作曲者・李世福のギターがフューチャーされている。李世福の粗削りながらもブルージーなドライブ感がたまらなくいい。走り出したギターに被さる優作さんの歌声もライブ感に溢れ、これまでの音源では聴くことのできなかった貴重なテイクと言えよう。

さらに、1990年の当ベストアルバム発売日当日に、ビクター青山スタジオで、関係者のみで行われた追悼シークレットライヴ『YUSAKU MATSUDA SOUL VIBRATION』の模様がアーカイブ倉庫から発見。その本邦初公開となる映像がDVDとしてパッキングされている。

キャロルの内海利勝をギターに従え優作ナンバーを熱唱する “兄貴分” 原田芳雄やピアノ独唱する石橋凌、そして優作さんとレーベルメイトだったアナーキー(1989年当時はTHE ROCK BANDとして活動)、桑名正博、鮎川誠、シーナ夫妻など優作さんにゆかりの深い人たちが繰り広げるワンナイト・ショウの全貌からは、プロフェッショナルな各々が優作さんのナンバーを歌うことにより、その楽曲の素晴らしさはもとより、そこに込められた魂、生きてきた軌跡がしっかりと継承されていったことを再確認できる。

ここに登場し、映像の中で、優作さんのポスターひとつひとつにペインティングを施していった世界的なイラストレーター黒田征太郎氏は、こんなコメントを発していた。

「僕の中では、当然、まだ、松田優作さんはあちらに行ってない。行かせてたまるか。これはセンチメンタルでも何でもない。そういう力を借り受けて絵を描く行為ができたらいい」

優作さん没後、すでに30年以上の年月が経過した。しかし、黒田氏のコメントは今も色褪せることなく、また、優作さんの魂も僕らの中で生きている。いちファンに過ぎない僕も、優作さんの映画から、歌から見えない力を借りて、未曽有の時代を生き抜いていかなくては… と思うのだ。



2021.03.10
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  YouTube / Victor Entertainment
 

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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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