インターネットがない1980年代。僕は音楽に関する情報をどこから入手していたんだろう? 当然、テレビやラジオ、雑誌からが中心なんだろうけど、マイナーなものが好きな僕にとって、同じ嗜好を持つごく近くにいる人たちからの情報が大きな影響力を持っていたような気がする。
高校のひとつ上の学年にモテさんという先輩がいた。間違いなく僕はこの先輩にたくさんの音楽を教えて貰った。僕は軽音楽部で、モテさんは軽音楽部と美術部に在籍していた。その頃の僕は、パンク一辺倒から色々な音楽を聴き始めていて、モテさんは「こんなバンド知ってるか?」と言いながら色々なレコードを貸してくれた。甘っちょろいネオアコや、向こうの世界に足を踏み入れてしまった危ない人、しち面倒臭いプログレなどなど。美術部に在籍していたからか(関係ないか)聞いたこともないバンドばかり。
最初はなんかよくわかんね〜って感じだったのがだんだん洗脳されてきたのか、他にはないの? と催促するようになり、しまいにはモテさんの自宅に押しかけるようになった。4畳半程の狭い部屋のレコード棚からモテさんはオススメのレコードを出しては「これ聞いてみろ」、僕が気になるものを見つけると「ちょっとこれかけて」とその場でチェック、そうやってレコードを借りては返す日々が始まった。野球部で言えば千本ノックみたいなものか。全然辛くないけど。
モテさんから借りたレコードの中で一番好きだったのが、ドイツのCANというバンドだった。「カニバリズム」というベストアルバムが発売され、CANが再評価された時期だったのかな。単調なのに何度も聴きたくなる中毒性があるサウンドだった。反復するリズムに、よれて絡みつくようなボーカルの声が気持ち良くて飽きない。
しかもこのボーカルがダモ鈴木という日本人だというから更に興味が湧いてくる。何がどうなってこの人はドイツのバンドで歌っているのかと。「oh! yeah」という曲では「ひとりでそこに座ってる 頭のイカレた奴 虹の上から小便 我らがヒモと呼ぶ」と日本語で歌う。この歌詞も僕には衝撃だった。一体何があったんだ!とモテさんにダモさんのことを尋ねたりした。
友達のiPhoneやiPodに入っている音楽ライブラリを見るのってその人の知らない面を覗き見るようでちょっと楽しい。それはモテさんのレコード棚をチェックし始めた時に埋め込まれた感情なのかも? モテさんとはもう長いこと会っていないが、このコラムを書いていたら久しぶりに連絡を取ってレコード棚のチェックをさせてもらいたくなってきた。コレクションに磨きがかかっていたら、また千本ノックをお願いしよう。
2016.08.19
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