「夕食までには帰ってくるのよ」というお母さんの言いつけさえ守っていれば、それほど問題も起きなかった高校時代、洋楽 =(イコール)英語と言うことに何の疑問も抱いていなかった。英語は中学から勉強しているので、正確な内容は判らないまでも、何となくこんな感じの歌だろうという憶測はつく。しかしこの曲を聞いたときはまったく何を歌っているのか判らなかった。かろうじて聞き取れたのが99(ナインティナイン)だけであった。
例えば新宿歌舞伎町でヤクザに「こらっ、てめーどこに目つけてんだ!」と凄まれてもある程度の対処は出来るだろう。中国福建省で「努!目付何処、貴方」と言われても「まあ、ちょっと対処してみようかな、どうしようかな?」と思ったりもするだろう。しかしこの曲は対処のしようがないのである。
ちょっと前置きが長くなったが紹介しよう。
ドイツのロックバンド「ネーナ」の「ロックバルーンは99」である。
1983年、私の洋楽世界に於いてネーナはドイツから来た黒船であった。この曲を聴いているとベースの重厚な8ビートにネーナの透き通る歌唱が相まって、勝手に体がリズムを刻む。だが歌詞はまったく理解できない。理解できないのに「この曲いいよね」と言ってしまうのは、約款も見ないで連帯保証人の欄にサインをしてしまうくらい危ぶまれることである。
「まったく何てことだ!」ドイツ版黒船にこんなに苦しめられるとは思いもしなかった。褒めたいのに手放しで褒められないこのジレンマ。一体何を歌っているのか確かめなくてはならない。
しかしドイツ語の辞書など手元にないし、今のようにネット検索などするすべもなかった。そこで私は「困ったときの先送り」という我が家に伝わる一子相伝の必殺技に出た。「大学に入ったら第二外国語にドイツ語を履修したら辞書を買わなければならないから、その時にでも調べよう」と。
月日は流れ、ネーナのことは「そんな娘もいたねえ」程度も思い出さなかったのだが、2003年にフジテレビ系番組のオープニングで使われていたので、久しぶりにあの時のジレンマを思い出した。そこで、すでにネットも普及していたので20年ぶりに同曲の歌詞を調べたのだが、内容は「反戦」の歌であった。20年たって、ようやく私のベルリンの壁が倒壊した瞬間だった。
2016.11.07
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