1993年 7月21日

伊藤銀次「LOVE PARADE」ロンドンのスタジオでジェイムス・テイラーになりきって?

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収穫の多いトライアルとなった「LOVE PARADE」


1972年の “ごまのはえ” でのデビュー、そして1977年にリリースしたファースト・ソロアルバム『DEADLY DRIVE』以来、ずっと自らの作品は自分自身のアレンジでやってきた銀次が1993年のアルバム『LOVE PARADE』で、初めて他のアーティストに全面的にアレンジをまかせた当初は多少の戸惑いがあったものの、結果としてはとても収穫の多いトライアルとなった。

そして初めて尽くしの極致ともいえる、日本人のアレンジャーたちに加えて、なんとイギリス人のプロデューサーを選んだことも、僕にとっていろいろなことを確認できたすばらしい出来事だった。そのアイデアを提案してくれたのはディレクターの楚良隆司君。彼の口から、ダニー・ショガーというサウンド・プロデューサーはどうでしょうかと切り出された時には正直驚いた。

「Ain't No Doubt」を手がけたダニー・ショガー


ちょうどこの頃、深夜テレビで 『BEAT UK』というイギリスのヒットチャートを紹介する番組をやっていて、そこで見聞きしたジミー・ネイルの「Ain't No Doubt」を手がけたプロデューサーがこのダニー・ショガーだったからだ。とてもかっこいいアップ・トゥ・デイトなアレンジで、全英チャートでナンバーワンにまで上り詰める大ヒット。そんなプロデューサーと仕事ができる!! こんなチャンスはめったにないもの。もちろん僕は「いいとも!」(笑)と即答で答えたよ。

ダニーにアレンジしてもらうために書いたのは2曲。1曲は僕が大尊敬するバート・バカラックへのオマージュのつもりで作った「幸せが始まる」。そしてその頃とても気に入っていたプリファブ・スプラウトのシンプルで記号的なのに情感あふれる「The Sound of Crying」のメロディに触発されて書いた「When You Grow Up」。そのデモ音源をダニーに送って、僕たちがロンドンに着く頃にはアレンジが出来上がっているという具合だった。

クラプトンバンドのコーラス、ケイティ・キッスーンが参加


ロンドンのスタジオはリヴィングストン・スタジオ。かつて東芝 EMI時代に3枚のサイケっぽいアルバムのレコーディングをした思い出深いスタジオ。だが今回はまったくその時とは趣の異なるアダルトな雰囲気のアルバムの歌入れでここへ。

うれしいことにダニーが施してくれたアレンジは僕のデモテープの雰囲気をしっかり感じ取ってくれていて、大袈裟にいじり倒した「変曲」ではなくて、曲のキモとなる部分や美味しい所をしっかり押さえたくっきりとしたセンス良いすばらしい仕上がりになっていた。



喜びと感謝を彼に伝えたあと、いよいよヴォーカル・レコーディングがスタート。このオケに僕の歌を録音する前に、バッキング・ヴォーカルのレコーディングをやらなくてはならない。まずは「幸せが始まる」からコーラス入れが始まったのだが、なんと驚いたことに、名うてのスタジオセッション・シンガーのリンダ・テイラー、アンディ・ケインに加えて、クラプトン・バンドにコーラスで参加しているケイティ・キッスーンが来てくれているではないか。

うれしい胸騒ぎと共に始まった彼らのコーラスは、まあ、すばらしいこと!! 「えっ、この限りなくムーディーでソウルフルなコーラスをバックに僕が歌うわけ?」ぞぞぞっと不安が募ってきたかと思ったら、あっという間にコーラスダビングは終了、さてさて、いよいよ僕の歌入れとなった。

ジェイムス・テイラーになりきってる感じで歌入れ


ヘッドフォンをかぶってサウンドが流れてきて、何気にそれに合わせて歌ってみたのだが、なんといっていいのか、とにかくサウンドの中に僕の歌は入れてもらえないのだ。うっかりすると聞き入ってしまうほど、それはそれはモロに洋楽な世界が僕を取り囲んでいる。

これまで体験したことのない日本人的お醤油の匂いがまったくしない純な洋楽!! 困った。どうしよう。変な汗が出てきそうな、髪の毛が抜けちゃうんじゃないかと思うほどのパニック。だけどこのまま歌を歌えずに日本に帰るわけにいかない。

そうか、これはやっぱり日本語だけど英語の歌のような気持ちで歌わないとこのオケには入れてもらえないのだと悟った僕は、僕の好きな洋楽のシンガーみたいな歌い方をすればひょっとしてととっさに思いつき、ジェイムス・テイラーが日本語で歌っているような気持ちで歌ってみることにした。

そうすると、おお、やっと、サウンドのどまんなかに僕の歌が入ったのだ。これまでよりもさらに、リズムの抑揚や歯切れのよさを意識して歌わないとダメってことに気づいたことは大きな収穫だったね。

この曲のアウトロに出てくる「♪ Lose you now, yeah yeah …」から始まるフレーズはもう完全にジェイムス・テイラーになりきってる感じで。今でこそ笑って聞けるけれど、もうこの時はそれどころではなかった。でもそれを咄嗟の判断で乗り切った自分をいまさらながらほめてやりたい気分だ。

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2024.04.26
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カタリベ
1950年生まれ
伊藤銀次
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